キヤノン RF800mm F11 IS STM レビュー|超望遠で見える別世界

GOTO AKI
キヤノン RF800mm F11 IS STM レビュー|超望遠で見える別世界

はじめに

こんにちは。写真家のGOTO AKIです。
広大な自然を目の前にしたとき、「遠くの風景を、もっと大きく鮮明に撮れたら。」と感じたことはないでしょうか。風景をじっくり観察するようになると、400mmだと足りないなという場面も増えてきます。そんなときに注目したいのが、今回レビューする「RF800mm F11 IS STM」です。

このレンズは、超望遠800mmという圧倒的な引き寄せ効果を持ちながら、重量やサイズは驚くほどコンパクト。まるで望遠鏡のように、普段の視界では届かない風景を手に取るように描写できる1本です。今回はこのレンズの魅力について、自然風景の作例とともにご紹介していきます。

デザインと操作性

800mmという焦点距離のレンズと聞くと、「三脚必須でとにかく重い!」というイメージを持つ方も多いでしょう。ところが、「RF800mm F11 IS STM」の重量は約1,260g。手に取ると意外な軽さに驚かされます。登山や自然散策など、移動が長い撮影でも「持っていこう!」と思える重さとバランスです。

また、収納時の長さは約282mmでバッグに収めやすい点も魅力です。撮影時にはレンズの先端を引き出して固定する構造で、ズーム機能はありませんが操作はシンプルそのもの。特別な知識がなくても直感的に使えます。オートフォーカスにはSTM(ステッピングモーター)を採用しており、動作音が非常に静かで、撮影に集中できるのも嬉しいポイントです。

レンズを収納した状態の「RF800mm F11 IS STM」。長さは約282mmで、800mmの超望遠とは思えないほどコンパクトです。
レンズを引き出して撮影ポジションにセットした状態。逆光やフレアを防ぐフードも付属しており、シーンに応じて着脱可能。
フォーカスリミッターやAF/MF切替、手ブレ補正のオン/オフなどのスイッチはシンプルで使いやすい配置です。
こちらはRFレンズ用のエクステンダー。「RF800mm F11 IS STM」と組み合わせることで、焦点距離をさらに伸ばすことが可能です。撮影の幅を一気に広げてくれます。
エクステンダーを装着して三脚にセットされた状態のRF800mm。ボディとレンズを2点で支えると安定感が増します。

引き寄せ効果の比較

「RF800mm F11 IS STM」の最大の強みは、遠くの一部分をぐっと大きく写せる「引き寄せ効果」にあります。広大な風景から、特定の木、花などを大胆にフレーミングすることで、シンプルで印象的な作品が撮りやすくなります。

広角レンズでは背景に埋もれてしまうような風景の表情も、焦点距離800mmなら主役としてしっかりと浮かび上がらせることが可能です。視界の中にある「自分だけが気づいた美しさ」を切り取ることが「RF800mm F11 IS STM」を使う醍醐味だと言えるでしょう。

この引き寄せ効果の違いを焦点距離70mmと800mmで比較してみましょう。

▼70mm

広々とした公園の景色の中で、赤く色づいたモミジの木がひときわ目を引く存在に。この写真は焦点距離70mmで撮影されており、主役となる木の印象は弱めの印象です。

▼800mm

70mmの撮影では目立たなかった紅葉の部分を、RF800mmで一気に引き寄せたカット。葉の質感や色のグラデーションまでしっかり写し取られており、まるで木の中に入り込んだような臨場感が感じられます。被写体を主役として際立たせる力を実感できる一枚です。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F22 1/100秒 ISO800
遠方の木々が密集した中から、鮮やかに色づいた一部分だけを切り取った写真。周辺の背景を整理し、色と光を効果的に強調することができます。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/125秒 ISO800
夕暮れ時の空に浮かぶ小さな飛行機雲を、800mmで切り取った一枚。肉眼では点にしか見えない被写体を、空に描かれた線のように写し取れるのは、このレンズの圧倒的な切り取り力があるからこそ。視界に埋もれる「美しさ」を拾い上げます。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/200秒 ISO400
暗がりの中で黄色く浮かび上がる葉を、明暗を活かしてやや暗めに切り取ったカット。最小限の構成で被写体の存在感を際立たせています。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/400秒 ISO1000
遠くの岩礁に佇むカモメをピンポイントで切り取った一枚。視線の届かない距離にいる生き物を、表情や羽のディテールまで鮮明に描写。標準レンズでは捉えられない距離から、引き寄せたカットです。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/800秒 ISO400
ゴツゴツとした岩肌の模様を大きく切り取ることで、抽象画のような力強い構図が生まれました。自然が作り出すパターンや陰影は、切り取り方ひとつでまったく違う印象になりますね。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/640秒 ISO400

圧縮効果

望遠レンズで撮影すると、被写体同士の距離が縮まって見える「圧縮効果」が生まれます。「RF800mm F11 IS STM」ではこの効果が特に顕著で、自然風景に視覚的なインパクトを加えることができます。広い自然の中から気になった箇所を圧縮して表現することで、構図の密度を高めてくれるのがこのレンズの魅力です。

奥行きのある森の風景も、「RF800mm F11 IS STM」で捉えると木々の距離感がギュッと詰まり、まるで木の壁のような濃密な画に変わります。遠近感が圧縮されることで、林全体に一体感と力強さが生まれ、肉眼とは異なる独特の表現がうまれます。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/500秒 ISO400
遥か遠くの海面に輝く光の粒を圧縮効果によって密集させた作品。手前から奥へと広がるはずの光が一面に凝縮され、まるで鏡の破片を散りばめたような幻想的な印象に。高速シャッターで波の細かなディテールまではっきりと描写されています。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/6400秒 ISO400

ボケの効果

「F11固定だと背景がボケにくいのでは?」という疑問を抱かれる方も多いでしょう。開放値が小さいレンズに比べれば、ボケ量は控えめですが、焦点距離が800mmもあるため、被写体との距離や背景との関係を工夫すれば、十分に美しいボケを作り出すことが可能です。

ボケはやや硬質ですが、風景に自然に馴染む描写です。むしろF11という固定絞りは、露出やISO、シャッタースピードを意識する良い練習にもなります。絞りに頼らず「構図と光」で魅せる写真を考えるきっかけにもなり、写真のスキルアップにも繋がるでしょう。

奥の黄葉にピントを合わせ、手前の葉を大胆に前ボケとして使った構成。「RF800mm F11 IS STM」はF11固定ながら、焦点距離の長さによって背景や前景をふんわりとぼかすことが可能です。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/125秒 ISO800
海岸線の向こうを主題とし、手前の岩を前ボケとして取り入れた臨場感のある構図です。画面の奥行き感を強調しながら、自然をのぞき見るような視点で表現しています。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/1000秒 ISO400
小さな黄色い花にピントを合わせ、背後の岩壁からしっかりと分離させる構図で撮影。絞り値がF11でも、背景との距離が確保できればボケが得られます。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/3200秒 ISO400
滑らかに流れる滝にピントを合わせ、緑の葉を前ボケとしてぼかした構成。水の流れと、柔らかく溶けた葉のコントラストが印象的です。超望遠でのボケは、空気感を写真で表現する方法としても有効です。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF800mm F11 IS STM
■撮影環境:F11 1/8秒 ISO200

超望遠の動画

上の作例でご案内した超望遠の効果(引き寄せ効果、圧縮効果、ボケ効果)で撮影した動画クリップです。

おわりに

「RF800mm F11 IS STM」のレビューは、いかがでしたでしょうか。800mmという圧倒的な焦点距離でありながら、軽量・コンパクトで持ち運びやすいという実用性の高さも魅力的です。今までは届かなかった距離にある被写体の撮影も可能となり、超望遠の世界がこれまでよりも身近に感じていただけたのではないでしょうか?

操作もシンプルで、使うほどに自然の新しい表情を発見しやすいレンズです。昼間だけ撮影する方は手持ちで、朝も夜も撮影される方は、三脚をご持参で撮影を楽しんでください!

 

 

■写真家:GOTO AKI
1972年 川崎生まれ。1993~94年の世界一周の旅から今日まで56カ国を巡る。現在は日本の風景をモチーフに創作活動を続けている。2020年日本写真協会賞新人賞受賞。日本大学芸術学部 准教授・武蔵野美術大学造形構想学部 非常勤講師・キヤノンEOS学園東京校講師。

 

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