富士フイルム GF35-70mmF4.5-5.6 WR|GFX用の新作小型標準ズームレンズ
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。前回、富士フイルムのラージフォーマットミラーレスカメラ「GFX50S II」についてのレビューを行いましたが、今回は同時発売となった標準ズームレンズ「GF35-70mmF4.5-5.6 WR」のレビューです。沈胴式を採用し、とてもコンパクトになった本レンズは初めてのGFレンズに最適。画質面などをGF32-64mmF4 R LM WRとの比較も交えながら紹介していきたいと思います。
このレンズの特徴
フルサイズ換算で28mmから55mmをカバーする標準レンズで、GFX用ズームレンズの中で最小・最軽量となります。小型化するために沈胴式となっています。沈胴式とは撮影しないときにはレンズの鏡筒が縮まり、よりコンパクトになる機構です。その代わりに撮影するときには鏡筒を繰り出してあげる必要があるので、カメラの電源を入れてからレンズを回す操作が必要になります。
GF32-64mmF4 R LM WRとの比較
GF32-64mmF4 R LM WRは2017年に発売された標準ズームレンズで、GFXシリーズの発売と同時にリリースされた3本のレンズのひとつです。2019年にGF100-200mmF5.6 R LM OIS WRが発売されるまでは唯一のズームレンズでもありました。もうひとつの標準ズームレンズとして、2020年発売のGF45-100mmF4 R LM OIS WRもありますが、今回はより焦点距離の近いGF32-64mmF4 R LM WRと比べてみたいと思います。
GF35-70mmF4.5-5.6 WR | GF32-64mmF4 R LM WR | |
35mm判換算焦点距離 | 28-55mm相当 | 25-51mm相当 |
レンズ構成 | 9群11枚 | 11群14枚 |
絞り羽枚数 | 9枚(円形絞り) | 9枚(円形絞り) |
最短撮影距離 | 35cm | 50cm |
フィルター径 | 62mm | 77mm |
質量 | 約390g | 約875g |
メーカー希望小売価格 | 146,300円(税込) | 329,450円(税込) |
①大きさ
GF32-64mmF4 R LM WRが全長116mmに対し、GF35-70mmF4.5-5.6 WRは73.9mm(鏡筒収納時)と小型で、沈胴式の大きなメリットがここに現れています。重さに関しては実に2倍以上の差があり、GF35-70mmの軽量性がよく分かります。
②画角
両レンズは似たような焦点距離をカバーしているのですが、GF35-70mmF4.5-5.6 WRが望遠側に6mm長く、GF32-64mmF4 R LM WRが広角側に3mm広くなっています。使ってみた印象としては望遠側よりも広角側の違いのほうが大きく感じました。より広い画角で撮影したい場合は当然GF32-64mmが有利です。
③レンズ構成
レンズが多いほうがいいというわけでもないのですが、やはり価格の高いGF32-64mmF4 R LM WRのほうが非球面レンズ3枚、スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ1枚と贅沢なレンズ構成になっています。ただ、レンズ枚数が少ないことが軽量性に繋がっているので、ここはトレードオフの部分です。
④最短撮影距離
GF32-64mmF4 R LM WRの50cmに対し、GF35-70mmF4.5-5.6 WRは35cmとかなり寄れることが分かります。マクロ撮影までは無理でも、旅先での料理や花などの近接撮影はGF35-70mmF4.5-5.6 WRに軍配が上がります。
⑤AF方式
GF32-64mmF4 R LM WRはフォーカスの駆動にリニアモーターが使われていますが、GF35-70mmF4.5-5.6 WRにはステッピングモーターが採用されています。そのため、AF速度はGF32-64mmF4 R LM WRのほうが若干速い仕様になっていますが、使ってみた感じではそれほど差があるようには感じませんでした。
解像度テスト
レンズ構成やフィルター径が違うとやはり気になるのが画質(解像度)の違いですね。スペック上の比較では当然GF32-64mmF4 R LM WRのほうが画質がいいと想像できますが、実際に撮り比べてみた写真で確認していきたいと思います。価格も倍以上差があるレンズ同士ですので、その点も加味してご確認ください。
地元の神社で行われた節分祭での一コマです。両レンズとも64mm付近での撮影となります。この大きさで見てもわからないので、中央の灯火を拡大して比較してみましょう。
解放からF8付近まではGF32-64mmF4 R LM WRのほうが良く解像していますが、F11くらいに絞ると同程度の解像感になりました。おおよそF11~16あたりが一番解像しているように思います。さらに絞り込むと、F22あたりからまたGF32-64mmF4 R LM WRのほうが解像する結果となりました。GF35-70mmF4.5-5.6 WRは絞り込んで使うことで、GF32-64mmF4 R LM WRに負けず劣らずの描写をするという結果になりました。
ひとつ気になったのが、点光源を撮影したときにGF35-70mmF4.5-5.6 WRはGF32-64mmF4 R LM WRに比べ光条に少しにじみが見られました。このあたりの描写はGF32-64mmのほうが綺麗なようです。
作例
このレンズとGFX50S IIを持って、自身の写真展もあり九州まで撮影に行ってきました。長崎県佐世保市では毎年写真展を開催していて、その度に九十九島を望む展望所を訪れます。この日は雲のグラデーションがとてもきれいでした。逆光での撮影でしたがゴーストやフレアの発生もなく高精細な撮影ができました。
港町でもある佐世保では造船所も日常の光景です。ちょうど豪華客船がドック入りしていました。三脚が使えない柵越しでの撮影でしたが、軽量なGF35-70mmレンズとGFX50S IIの手ブレ補正との組み合わせでブレのない写真を撮ることができました。
新世界三大夜景にも認定された長崎の夜景。絞り込んで撮影すると遠くの看板に書かれた文字まで読み取ることができます。
世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産でもある外海にある教会です。これは月ではなく太陽を撮影しています。白つぶれすることもなくはっきりと太陽の形を確認することができます。
世界遺産の炭鉱のある島に渡る船を待っているときに撮影しました。動く被写体にはあまり強くないAFですが、ピントが合ったときの解像感は素晴らしいものがあります。
こちらも「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に登録されている天草にある崎津集落です。この日の朝は冷え込み気嵐が発生し、朝4時に起きてきた甲斐がありました。夜明け前の空のグラデーションをとても諧調豊かに表現することができました。
鹿児島の桜島の日の出です。かなり明暗差の激しい場面ですが諧調がつぶれることなく綺麗に残っています。
世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産でもある鹿児島紡績所技師館を見学中に、電車の音がしたので慌てて撮影した一枚です。ボディとレンズを合わせても約1.3kgなので、肩にかけて持っていても苦になりません。
宮崎滞在中は雨でしたが、このレンズは防塵・防滴・-10℃の耐低温構造のため問題なく撮影に集中できました。
別府の駅前に面白いモニュメントを見つけました。大きなレンズだとわざわざ取り出して撮影していなかったかも知れません。(別府市の観光開発に尽力された油屋熊八という方の像だそうです)
大分県の国東半島には摩崖仏が点在しています。雨上がりで濡れていたので石の表面の質感までをも捉えることができました。
九州からの帰路は日本海側を通りました。京都の有名な場所と間違えそうですが山口県にも似たようなところがありました。手持ち撮影をどんどんしたくなるレンズですね。
車のCMで有名になった角島大橋にも立ち寄りました。ここにいると外国に来たような気分になります。早く海外にも行けるようになるといいですね。
夕方に空がダイナミックに色づきました。絞って光条を狙いましたが、このレンズの少し苦手とするところのようですね。
世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産でもある萩城下町。昔にタイムスリップしたようで歩きながらのスナップ撮影が楽しい町です。このレンズとGFX50S IIとの組み合わせはスナップ撮影に最適だと思います。
最後に世界遺産の石見銀山にも立ち寄りました。やはり三脚を使ってしっかり絞ってあげるとこのレンズの本領が発揮されるようです。
まとめ
GF32-64mmF4 R LM WRは良い写りをする分、標準ズームとして常用するには重さや大きさが気になっていた人もいたことと思います。それに対して、GF35-70mmF4.5-5.6 WRの軽さ・小ささはラージフォーマット用レンズとしては革新的です。GFX50S IIやGFX100Sとの組み合わせではとても軽快に撮影ができます。これからラージフォーマットに移行しようという方は、まずはこのレンズを手に入れるのがいいのではないでしょうか。GFX50S IIとのセット販売なら5万円程度の上乗せで購入可能ですし、単品購入の場合でもGF32-64mmF4 R LM WRの半額程度で買えるのは大きな魅力だと思います。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師