富士フイルム GF45mmF2.8 R WR|理想的なボケと画角の広さ、空気感を写し込める準広角レンズ
はじめに
富士フイルムのラージフォーマットミラーレスカメラ、GFXシリーズの単焦点レンズ「GF45mmF2.8 R WR」。35mm判換算で36mm相当という準広角に当たる焦点距離を持つレンズだ。GFXはフルサイズセンサーの約1.7倍もの面積を持つラージフォーマットセンサーを搭載しているため、35mm判換算するとモデル名の焦点距離よりも広角になる。
筆者は富士フイルムのXシリーズでは「XF23mmF1.4 R(35mm判換算:35mm相当)」を愛用しており、GF45mmF2.8 R WRも普段から使いなれた画角ということで、今回は36mm(≒35mm)で撮るポートレートの魅力にも触れつつレンズをレビューしていきたい。
余白を作品に変える準広角36mm
換算36mmというと標準画角よりもやや広く、ポートレートでも周りの雰囲気を入れ込みながら撮影できる良さがある。逆に言えば余白をどう上手く活用するかの技量も求められるわけだが、空気感を写し込めるポートレートにはこれ以上なく最適な焦点距離だ。モデルさんだけをメインで撮影するなら中望遠がいいだろうが、筆者が考える「情景」撮影にはこの画角が欠かせない。
また、やや広めの画角はそれ以上後ろに下がることのできない狭めの部屋や路地などでも、ちょうど良く入れたいものを入れられるのが魅力だ。画角が広くて余計なものが入ってしまうなら自分が近づけばよい。そういった引きと寄りで作る表現の幅の広さがこの換算36mmの魅力だと考える。
このレンズの最短撮影距離は48cm、最大撮影倍率は0.14倍。準広角とあって被写体をクローズアップしたい時にはグッと寄って撮影がしたいのだが、思ったより寄り切れない印象だ。画面いっぱいに顔を配置したり、瞳をアップで撮ったりといった表現はできない。そういった観点からも、やはり程よく背景を入れつつ、被写体と周りの余白のバランスを考えながら構図決めしていく撮り方が求められるレンズだろう。
開放F2.8の絶妙なボケ感
最近は開放F1.2など圧倒的なボケを生み出すレンズも各社からリリースされているため、一見GF45mmF2.8 R WRの開放F2.8という「数字」に物足りなさを感じてしまう人もいるかもしれない。しかし、フルサイズよりも被写界深度の浅いラージフォーマットなのだ、F2.8で十分に美しいボケを楽しむことができる。
ポートレートにおけるボケに関しては、声を大にして伝えたいことがある。それは「ぼかしすぎは良くない」ということ。モデルさんが浮き上がるように背景をむやみやたらとぼかす人もいるが、それだと写真としての一体感が損なわれ全体として見た時に違和感が生まれてしまう。
特にスナップポートレートなんかは、街並みの空気感も活かすことが重要だ。背景が程よく認識できることで写真に奥行きなどの立体感が生まれ、その場の雰囲気を纏わせることができる。ポートレートを撮る人はそういったボケ方を意図的に撮る考えをぜひしてほしいと思う。また、左目にピントが合って右目がボケていくような顔の近接撮影でも、ぼかしすぎると顔が腫れぼったく見えてしまうのでここも見極めが必要だ。
そういう観点では、このGF45mmF2.8 R WRは本当に理想的なボケ方をしてくれるレンズだった。開放のボケ方が非常に心地よい。むしろこれ以上ボケることはないので、安心して絞り開放を使うことができる。なだらかで自然な、ストレスのないボケを作例からも感じ取ってもらえるはずだ。
GFX特有の重厚感ある描写
ラージフォーマットの描写を一言で表すなら「重厚感」になるだろうか。色の密度の濃さが他のカメラとは比べ物にならない。それはGFXを手にした者なら誰しもが感じることだろう。GFX特有の階調の豊かさ、ダイナミックレンジの広さがダイレクトに写りの良さを引き上げてくれる。そしてこのGF45mmF2.8 R WRも、そんなGFXの描写を最大限引き出してくれるレンズだ。
ポートレート撮影ではモデルさんの顔に露出を合わせていくが、そうすると普通のカメラでは背景が白飛びしたり黒潰れしたりすることが往々にしてある。例えば上の写真。白飛びしやすい雲もしっかり質感を感じられるほど色再現されており、画面全体で濃密な描写ができていることが分かるだろう。
こちらの写真も薄暗い室内ではあるが、黒潰れすることなくソファーや服の模様がしっかり解像できており、ダイナミックレンジの広さを感じることができる。なおかつ上品な柔らかいボケ感も相まって、画面のどこをとっても隙のない写りを見せてくれた。
また、肌の発色の良さもGFXでは顕著に感じる。同じ富士フイルムのXシリーズはもう少し色のりがあるが、GFXはそれよりも肌色がもっと優しい感じに描写される印象だ。撮って出しから露出をちょっと調整してあげるだけで、十分作品として完成する。何らテクニックなしで、皆さんもこういった写真を撮ることができるというわけだ。これがラージフォーマットのすごさである。
持ち出しやすい重量&サイズ
GF45mmF2.8 R WRは長さ88mm、最大径84mm、質量490g。そもそもマウント径が大きいのでレンズ径も必然的に大きくなってしまうが、それを考えても軽量コンパクトなレンズだと感じた。さらに今回使用したGFX100Sも大きくて重いというラージフォーマットカメラのイメージを覆すサイズに収まっており、この組み合わせならGFXをサクッとスナップ撮影で使えてしまう印象だ。
持ち出すのが億劫になる機材では、今日はいいかなと撮ることを諦めてしまうこともあるだろう。ただ、シャッターチャンスはいつどこにあるか分からない。上の写真は傘を差した人が交差する瞬間を自宅からパッと撮影したものだが、それくらいの気軽さでGFXを構えられるのは本当にありがたかった。さらにはGFX100Sではボディ内手ブレ補正も搭載されているので、やや広めの換算36mmという画角も相まって手持ちスナップにも最適だと思う。
天候に左右されない防塵防滴
撮影を行った2月には都内でもちょうど雪やみぞれが降る日があり、そんな時でもカメラを濡らしながら撮影したのだが、やはり防塵防滴機能を備えていると安心だ。ポートレートでは雨や雪が印象的な雰囲気を演出してくれるので、天候が悪くても撮らない選択肢はない。この写真も天気が悪く薄暗くても決して黒潰れすることはなく、また奥行きを感じられる丁度良いボケ感を生み出してくれた。
さいごに
換算50mmが標準画角として多くの人に親しまれており、それと比べると換算36mmの画角は扱いが少し難しい印象を持たれているかもしれない。画面に写る情報を整理して、空間を上手く使うのがこの36mmの面白さであり、そこをちゃんと理解して使いこなせば人とは違った良い作品を撮ることができる。
しかも、GF45mmF2.8 R WRならラージフォーマットが生み出す最高の描写で撮り収めることができるのだ。ぜひGFXユーザーなら「余白を作品に変える」この魅力的なレンズを試してもらいたい。スナップからポートレートまで万能に使える間違いのない1本だ。すっかり気に入ってしまったので、私も購入して今後GFXのメインレンズにしていくつもりだ。
■撮影協力
じきまる。(@jikimaru_)
小桜はる(@kozakuraaam)
白川うみ(@umiiiii17)
NANA(@_na88na_)
■写真家:高橋伸哉
スナップからポートレートまで幅広く撮影。単著「写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか?」(インプレス)などを出版。オンラインサロン「写真喫茶エス」などを運営。写真教室も定期的に開催しており常に満員となる人気。2022年5月に新著「情景ポートレートの撮り方」(玄光社)を出版。