富士フイルム GFX100 II レビュー|1億画素×高速性能で進化した中判ミラーレス
はじめに
富士フイルムの中判デジタルカメラ、GFXシリーズの新フラッグシップ機「GFX100 II」。2019年に発売された「GFX100」の正統後継機として登場した、ラージフォーマットセンサー搭載のミラーレスカメラです。直近で言えば2021年に「GFX100S」が発売されていますが、見た目のデザインや搭載されている機能、そして価格帯も含め全体的にGFX100を踏襲したものとなっており、フラッグシップたる威厳を細部から感じ取ることができます。
GFX100 IIの進化点はズバリ「高速性能」。高速読み出しが可能な新開発センサー「GFX 102MP CMOS II HS」が採用されるとともに、先にAPS-CミラーレスのXシリーズで投入された、最新の画像処理エンジン「X-Processor 5」をGFXシリーズで初搭載。連写性能やAF性能、動画性能、操作レスポンスなどが大きく向上しています。今までGFXシリーズが苦手としていた動体撮影にも強くなり、さらに活躍のフィールドを広げたのがこのGFX100 IIです。
操作性を追求したデザイン
従来機GFX100と比べた時に、まず大きく違うのがボディのサイズ。GFX100では縦位置グリップ一体型だったところ、GFX100 IIでは縦位置バッテリーグリップを別売りアクセサリーとすることでボディの小型化を実現しています。センサーサイズに比例してボディも大きくなりがちですが、ラージフォーマットでも十分に手持ちで機動力高く撮影を楽しめるサイズに収まっていると感じました。
グリップも深めで厚みがあり、しっかりホールドできるので取り回しも良好。さらに今作ではボディのラバー表面に「BISHAMON-TEX」という新開発のテクスチャーが採用されました。三ツ矢状のパターンによって、カメラを保持した際の様々な方向へのグリップ性が向上しています。
操作性の部分では、カメラを構えた時に人差し指で押せる「三連ファンクションボタン」が新たに搭載されています。ボタンの表面に印字などは無く、好みの機能を割り振って使うことが可能です。ボタン同士がしっかり離れているため押し間違いもなく、ファインダーを覗いたまま快適に使うことができました。例えば露出補正の場合は、このファンクションボタンを押し込みながらコマンドダイヤルを回して調整します。
天面を見ていくと、電源OFFでもカメラの設定が一目で分かるサブ液晶が特徴的です。従来機よりも液晶が大型化しており文字も大きく表示されるので、非常に見やすくて実用的だと感じました。さらにこのGFX100 IIは天面に角度が付けられており、手前側に11度傾斜させることで視認性を向上させています。
背面の液晶モニターはGFX100やGFX100Sと同じく、3方向チルト式が採用されています。3.2型、約236万ドットの大型モニターは撮影した画像を美しく表示してくれるので、撮る度に気分を高めてくれました。
対してファインダーはドット数、倍率ともに従来機から向上。約944万ドット、ファインダー倍率1.0倍という富士フイルム最高のスペックを持ったEVFが採用されています。圧倒的に視界が広くクリアな映像で確認できるので、非常に没入感の高い撮影体験を得ることができました。個人的にこのGFX100 IIで最も感動したのはこのファインダーかもしれません。それほどまでに素晴らしい見え心地を実現しています。
さらに、このGFX100 IIはEVFユニットがボディから着脱可能です。GFX100と同じく別売りアクセサリーの「EVFチルトアダプター」に対応しており、ボディとEVFユニットの間に装着することでEVFの装着角度を変えることができます。EVFを真上に向ければ、ファインダーを覗きながら胸の位置でカメラを構えられるなど、自由度の高いカメラポジションで撮影が可能になります。
連写性能や動画性能が大きく進化したことに伴って、その性能をフルで活かせるよう高速書き込みが可能なCFexpress Type Bカードにも対応しました。従来機はSDカード×2のデュアルスロットでしたが、GFX100 IIはCFexpress Type BカードとSDカードのデュアルスロットが採用されています。
バッテリーはGFX100SやXシリーズの多くの機種でも採用されている「NP-W235」。省電力化を実現したX-Processor 5によって、撮影可能枚数が約540枚に増えています(GFX100Sは約460枚)。ボディ側面の端子ではEthernetポートを新規搭載しています。スタジオ撮影でも使われることの多いGFXシリーズとあって、有線LANを使ったテザー撮影もやりやすくなりました。
GFX100 II | GFX100S | GFX100 | |
撮像素子 | GFX 102MP CMOS II HSセンサー | ベイヤーCMOSセンサー | ベイヤーCMOSセンサー |
画像処理エンジン | X-Processor 5 | X-Processor 4 | X-Processor 4 |
サイズ | 幅: 152.4mm 高さ: 117.4mm 奥行き: 98.6mm |
幅: 150.0mm 高さ: 104.2mm 奥行き: 87.2mm |
幅: 156.2mm 高さ: 163.6mm 奥行き: 102.9mm |
質量(EVF装着時) | 約1,030g | 約900g | 約1,400g |
バッテリー | NP-W235 | NP-W235 | NP-T125 |
撮影可能枚数 | 約540枚 | 約460枚 | 約800枚 |
連写性能(メカシャッター) | 最高約8.0コマ/秒 | 最高約5.0コマ/秒 | 最高約5.0コマ/秒 |
ファインダー | 約944万ドット、1.00倍 | 約369万ドット、0.77倍 | 約576万ドット、0.86倍 |
液晶モニター | 3.2型、約236万ドット | 3.2型、約236万ドット | 3.2型、約236万ドット |
手ブレ補正 | 8.0段 | 6.0段 | 5.5段 |
カードスロット | CFexpress Type Bカード SDカード |
SDカード×2 | SDカード×2 |
新作レンズ「GF55mmF1.7 R WR」
今回の撮影では、GFX100 IIと同時に発表されたGマウント用の新作レンズ「GF55mmF1.7 R WR」を使用しました。焦点距離は35mm判換算で44mm相当の標準画角、開放F1.7がもたらす柔らかく美しいボケが特徴の大口径単焦点レンズです。
同じ開放F1.7のレンズでは「GF80mmF1.7 R WR」が抜群の描写をもたらすポートレートレンズとして人気を博していますが、このGF55mmF1.7 R WRも同じようにポートレートはもちろん、スナップや風景などオールラウンドに使える一本として新たな標準レンズとなってくれそうです。
GF55mmF1.7 R WRはGFレンズで初めて11枚円形絞りを採用。開放から少し絞った状態でも玉ボケが円形を維持してくれるので、幅広いシーンで美しいボケ表現を楽しめるレンズに仕上がっています。最短撮影距離は0.5m、最大撮影倍率は0.17倍、質量は約780gです。
ラージフォーマットによる圧倒的な高画質
GFXシリーズはフルサイズセンサーの約1.7倍の面積を持つラージフォーマットセンサーを搭載しています。対角線の長さが55mm(横 43.8mm×縦 32.9mm)という大型センサーによって、より多くの光(情報)を受け取ることができ、豊かな階調表現や緻密な色再現、優れた解像度など他のカメラでは味わえない圧倒的な高画質を実現しています。
GFX100 IIの画素数は102MP、つまり約1億200万画素という桁違いの画素数を誇っています。新開発センサーが搭載されたものの、画素数自体は従来機から変わっていません。一般的なミラーレスカメラは2500万画素前後のものが多いですが、このカメラはその4倍。つまり一般的なカメラが1つの色しか表現できないところを、4つの色を使って表現できるということです。複雑な色味でも滑らかに諧調し、色再現の緻密さによって質感や立体感の美しい画を撮ることができます。
センサーが大きいということはその分被写界深度も浅くなり、より大きなボケが楽しめるのもGFXの醍醐味の一つ。今回は開放F1.7という明るいレンズを使用しており、被写体と背景が分離したようなボケ感を得ることができました。被写体を浮かび上がらせるポートレート撮影でもラージフォーマットはその威力を発揮してくれます。
太陽を真正面に入れた逆光シーンでもGFX100 IIは優れた描写を見せてくれました。普通のカメラであったら雲が白飛びしてしまいそうなシーンですが、広いダイナミックレンジと豊かな階調を持つGFXであれば、この通り雲の陰影をしっかり写し出してくれています。コントラストの高い「クラシックネガ」の色味も相まって、雲の立体感が強調された一枚が撮れました。
GFXを使うならぜひ試してほしい横長のアスペクト比「65:24」。今回使用したレンズは44mm相当の標準画角ですが、このアスペクト比で撮影すれば自然とパノラマ写真のような広さを感じることができますね。上下が大きくクロップされ、16:9よりも横長で撮れるこのアスペクト比はシネマライクな表現をしたい時にもピッタリです。
GFX100 IIはボディ内手ブレ補正も強化され、富士フイルムのミラーレスカメラで最大となる8.0段という防振性能を実現しています。今回は全て手持ちで撮っていますが、スナップでパッとカメラを構えても手ブレすることなく撮影を楽しむことができました。GFX100 IIとGF55mmF1.7 R WRの組み合わせで質量は約1.8kgなので、フルサイズ機に望遠ズームレンズを装着したくらいの重さ、と考えれば十分に手持ちで撮影できる範囲だと思います。
フィルムシミュレーションには新しい「REALA ACE(リアラエース)」が追加されました。『忠実な色再現性とメリハリのある階調表現を併せ持ち、あらゆる被写体/シチュエーションに適したモード』と説明する通り、落ち着いた色味で見たままに近い自然な印象に仕上がると感じました。これでフィルムシミュレーションは全20種類となりました。今後、他の機種でもファームアップでREALA ACEが使えるようになるのか期待ですね。
被写体検出が撮影をアシスト
GFX100 IIはXシリーズ第5世代機から搭載された被写体検出AFが使えるようになり、今まで以上に幅広い被写体を撮影しやすくなりました。人物だけでなく動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車・昆虫・ドローンを検出することができます(昆虫の場合は「鳥」、ドローンの場合は「飛行機」で検出が可能)。
動物や昆虫を検出すると、頭部や瞳にピントが合うよう検出枠が自動で追尾してくれるので、いちいちAFエリアを移動させる手間なく構図に集中して撮影することができました。ただ、GFXは被写界深度が非常に浅いので、きっちり瞳にピントがきているかは撮影の度に確認した方が良さそうです。検出枠は頭部を捉えているのですが、例えばチョウの場合は、わずかに手前にある足に合焦していることが度々ありました。
今回金魚を撮影した際には、「鳥」モードにすると高確率で検出してくれました。動きが速く、かつ常に動き回っている被写体なのでただでさえ撮影が難しいですが、そんな動きものも手持ちのGFXで快適に撮影できたことに感動を覚えます。
GFX100 IIは連写性能も向上しています。メカシャッターで最高8.0コマ/秒の高速連写が可能(GFX100Sは5.0コマ/秒)で、これなら今までのGFXで難しかったスポーツ撮影でも活躍しそうです。従来機よりバッファメモリも増強されているので、インターバルも短く快適に連続撮影をすることができます。
あらゆるフィールドに持ち出せる中判デジタル
今回試してはいませんが動画撮影の性能もさらに進化しており、GFX100Sが4K/30pまでの記録だったところ、GFX100 IIは8K/30p記録、4:2:2 10bitでの4K/60p記録も可能になりました。3種類のProResコーデック(ProRes 422 HQ、ProRes 422、ProRes 422 LT)やF-Log2にも対応しています。AF性能の向上は動画撮影においても有用ですし、ラージフォーマットの美しい表現を動画でも存分に楽しめる機種に仕上がっています。
中判カメラは三脚が必須というイメージはもはや無く、今までのGFXの弱点を克服してあらゆる被写体を手持ちでストレスなく撮影できるようになったことは本当に大きな進化です。フルサイズ機やAPS-C機と比べればさすがに大きさ・重さはあるものの、その分フラッグシップ機を使っている高揚感や、他のカメラとは一線を画す写りへの期待感に胸躍らせる機種に仕上がっています。写真に最高の描写を求めるユーザーにぜひおすすめしたい1台です。