富士フイルム GFX100S レビュー|逆転の発想で高感度性能の限界をブレイクスルーした星空撮影の革命機
はじめに
デジタルカメラの高感度性能が向上したことにより、星空の撮影はとても身近なものになりました。しかしながら、実は近年発売されているカメラの高感度性能は頭打ちで、目立った進化をしていません(むしろちょっと落ちている場合も?)。そんな状況を打破したカメラが、今回私がレビューする富士フイルムの「GFX100S」です。
私はGFX100で星空撮影をしたとき、液晶モニターで再生された驚愕のノイズレス画像を見て、とても打ちのめされました。GFX100は非常に高価なカメラでしたが、同じセンサーを搭載したGFX100Sが発売され、しかも小型化・手ブレ補正の強化も追加されているのに値段が約半額と、一気に購入のハードルが下がりました。
今回はそんなGFX100Sの魅力について、星空撮影を通じて高感度性能の観点からレビューをしていきたいと思います。
富士フイルム GFX100Sとは
GFX100Sは富士フイルムから発売されている、ラージフォーマットセンサー搭載のミラーレス一眼カメラです。ラージフォーマットとは、フイルムカメラで言うところの“中判”に該当するもので、一般的なフルサイズセンサーの1.7倍の大きさになります。そして、焦点距離の35mm判換算倍率は0.79倍になります。
センサーサイズが大きくなると1画素の情報量をより広い面積で受けることが可能になるため、フルサイズセンサー以上の繊細な色表現と、明部から暗部への優れた階調が持ち味となります。GFX100Sの画素数はなんと1億200万画素。1枚のRAWデータは120MB(!)にもなります。2倍にクロップしても5000万画素が残るわけですから、ものすごいデータ量ですよね。
レンズマウントはGマウントと呼ばれる富士フイルム独自のマウントです。センサーサイズが大きいですから、レンズももちろん大きくなります。
フルサイズミラーレスとセンサーサイズを比べてみると、第一印象は「でかいな~笑」です。レンズももちろん大きい。しかしながら、センサーサイズを考えるとGFX100Sのボディはかなり小さく作られているのがわかります。さて、これでどのような写真が撮影できるのか……。
昼間、夜間の作例を紹介
まずはこの写真をご覧ください。GFX100Sで撮影した無加工の写真です。 C-PLフィルターで水たまりの反射をとり、中央にある富士山までの奥行きを出るように構図をとって撮影しています。
朝焼けにかかる佐渡島と岩のゴツゴツとした感じを対比させて撮影。海の反射を一部、C-PLフィルターでとることができました。岩にかなり近づいているので、回折現象よりもパンフォーカス感を出すこと優先し、F16まで絞りました。露出時間を60秒にして海の波を平均化しています。
やはりセンサーサイズが大きいだけあって、一目でラージフォーマットで撮影した写真だとわかります。C-PLやNDフィルターで光量を整えているとは言え、うっとりするような描写です。液晶モニターで画像を確認した時、思わずため息がもれました。
そして次にこちらの星景写真をご覧ください。こちらも無加工の写真です。なんとISO12800で撮影してこの写りです。
これはほんとに驚きました。言葉を選ばずに興奮を伝えると「めちゃめちゃヤバい!何コレ!」です。こんなカメラ見たことありません。そしてこの発色。私の勝手な感想ですが、もともと天の川の写りに定評のあるXシリーズよりも、さらに濃く写る印象があります。
ISO12800、25600、51200それぞれを100%に拡大した比較画像を並べてみました。ISO12800から始まる感度性能比較も珍しいですね(笑)
それぞれの感度で同じ明るさになるように露出を調整しています。赤道儀は使用していないので、露出が長くなると星が線に写ってしまいますがご了承ください。
ISO12800までは星空撮影においても常用感度と言っていいと思います。非常にノイズが少なく、通常の一眼カメラでいうところのISO3200くらいのノイズレベルではないでしょうか。しかも無加工でここまでの写りをするのですから驚きです。PCソフトのノイズ低減機能を使えばISO25600も実用的なレベルです。注目すべきはノイズだけでなく暗部の階調なども滑らかに残っていること。これがラージフォーマットの威力か……と感激してしまいます。
GFX100Sが低ノイズな理由
これまで高感度撮影時に発生するノイズを軽減するカメラの仕様は、①センサーサイズが大きい、②画素数が少ないことでした。前述の通りセンサーサイズが大きければ1画素の集光力が上がります。そして画素数が低くなれば1画素が大きくなるわけですから、これが高感度ノイズの低減につながるという理屈です。でもGFX100Sは1億画素ありますから、②の理由とは真逆の仕様になっていることがわかります。ではなぜGFX100Sはこんなに低ノイズなのでしょうか。
理由① ノイズが細かくなりすぎて目立ちにくくなる
これは衝撃の逆転の発想です。人間の目ではもはや判別ができないほどにノイズが細かくなるということらしいです!PCソフトで400%くらいに拡大すると、ノイズがたくさんあるのがわかるのですが、不思議と嫌な感じがしませんね。不思議な話ですが、トリミングをすればするほど、ノイズが目立ってくるということになるそうです。
理由② GFXは純正GFレンズのような超高解像度レンズだけを対象に設計されているので、シャープネスを抑えた処理が可能
シャープネスとは、輪郭をくっきりさせるというような効果があります。ボディ側でシャープネスを強めることにより、解像感の劣るレンズでもくっきりと写せるメリットがありますが、星空撮影ではノイズもシャープになって目立ってしまうというデメリットがあります。
GFX100Sの場合は、レンズのシャープさをストレートに引き出すので、カメラ内で余計なシャープネスをかけない仕様になっているそうで、それが高感度撮影時の低ノイズにつながっているそうです。ということは現状、GFX100Sの高感度性能を100%引き出すのは純正のGFレンズに限るということになります。
マウントアダプターを使用して撮影をしてみた
GFX100Sには35mmフォーマットモードが搭載されており、マウントアダプターを介してフルサイズ用のレンズを使用することが可能です。前述で紹介した低ノイズな理由から逸れてしまうことになりますが、実際に撮影してみたところ、それでもやはりカメラ内の処理が優れているのでしょう。低ノイズな仕上がりになるのは間違いないようです。
こうした窮屈な構図だと、超広角レンズは必要不可欠になってきます。確かに35mmフォーマットモードではノイズの出方が変わっているように見受けられますが、それでも充分ノイズレスな画像であると言えます。
マウントアダプターのMF時の動作に注意
他社製レンズを使うならフランジ径の大きなキヤノンEFマウント用を選び、マウントアダプターでEFマウント→Gマウントに変換し使用するのがいいでしょう。注意点としては電子接点つきのマウントアダプターだと、MF時にレンズが正常に動作しないという事例が発生します。
私が使用しているKIPONのマウントアダプターであれば問題なく使用できますが、シグマ 14mm F1.8 DG HSMなどは問題なくAF/MFが動作するのに対し、例えばTAMRON SP 15-30mm F2.8だとレンズをAF、ボディをMFにしないと正常に動作しないなどの事例が発生しています。不安な方は電子接点のないMF用のマウントアダプターを使用することをおすすめします。
星景写真用の純正レンズに期待
しかしながら、星景写真であれば焦点距離24mm以下でF2.8の明るい超広角レンズが欲しいのが本音。マウントアダプターで代用できるとしても、その性能を星景写真で100%発揮できるレンズがまだ発売されておりません。今後、星景写真で効力を発揮する超広角レンズが発売されることに期待したいですね。
タイムラプス撮影でも1億画素センサーは圧巻の高画質を誇る
実は私がGFX100Sを導入したのはこれが理由。1億画素で撮影したものを8K(3300万画素)、4K(800万画素)で表現すると、ものすごい高画質でタイムラプス動画を表現することができます。より高画質なタイムラプス動画作品を制作するためにこのカメラを導入したのです。代わりにPCスペックも高性能を求められますので、このカメラで作業するためのSSDなどを別途用意して制作しています。
※上の動画はぜひYouTubeの画質設定を8K、もしくは4Kにしてご覧ください。可能であれば大きなディスプレイで再生すると、GFX100Sならではの圧巻の高画質をより体感することができます。
GFX100Sを購入するならGF32-64mmF4 R LM WRはマスト
私がメインで使用しているレンズ「GF32-64mmF4 R LM WR」は非常に万能で、F4と明るさは劣るものの画質としては申し分ありません。新たにGFX100Sの購入を検討されている方は、ぜひこのレンズをセットで購入することをおすすめします。周辺光量・周辺像ともに申し分なく、35mm判換算で25mm-50mmのズーム領域で昼夜を問わずオールマイティに撮影ができる。このレンズを基本にして他を拡充していくのが正解だと思います。
今回は写りの部分にのみ焦点をあてて説明しましたが、GFX100Sにはそのほかにも多機能な部分がたくさんあります。非常に高価なカメラにはなりますが、その価値は十分秘めていると言えるでしょう。
私のYouTubeチャンネルでもGFX100Sの設定や高感度性能について紹介している動画がありますので、こちらもぜひご覧ください。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員