富士フイルム GFX50S II|旅に持っていける中判ミラーレスカメラ
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今回は富士フイルムから2021年9月に発売された「GFX50S II」をレビューします。このカメラは名前の通り、2017年に富士フイルムが初めて発売したラージフォーマットセンサー搭載の「GFX50S」の後継機種という位置付けです。GFX50シリーズで見れば、2018年に登場したレンジファインダータイプの「GFX50R」に続く3機種目ということになります。また、先に発売された1億画素(正確には1億200万画素)を誇る「GFX100S」の5000万画素版(正確には5140万画素)とも言えます。
ラージフォーマットについて
まずはGFXシリーズに搭載されているセンサーについて少し触れておきたいと思います。搭載されるセンサーは「ラージフォーマット」と呼ばれ、フルサイズセンサーの約1.7倍、APS-Cセンサーの約4倍の面積があります。それにより同じ画素数のカメラであれば1画素あたりの受光面が大きくなり、より受け取る光の量が増えるのです。
具体的にはダイナミックレンジがより広く、高感度でのノイズが少なくできるというメリットがあります。ただ、センサーが大きな分ボディやレンズが大きく重く、価格も高くなるということもあり、これまで旅に持っていくには少しハードルが高い印象でした。参考までにフィルムカメラの中判645はフィルムサイズが60mm×45mmのため(ラージフォーマットセンサーは43.8×32.9mm)、それに比べると一回り小さなサイズとなります。
GFX50S IIとGFX50Rの比較
本来ならGFX50Sと比較するべきなのかもしれませんが、ここではGFX50シリーズで一つ前の機種に当たる、GFX50Rからの主な進化点や違いを見ていきたいと思います。ちなみにGFX50Rが発売されたのは2018年11月でしたので、約3年前ということになりますね。
1. ボディ内手ブレ補正の搭載
これがGFX50Rからの最大の進化ではないでしょうか?これまで三脚での撮影が必須だと言われてきた中判デジタルですが、ボディ内手ブレ補正があることで手持ち撮影での自由度が格段にアップしました。特に旅先でのスナップ撮影などの時にはとても役立ってくれると思います。6.5段(CIPA規格準拠、ピッチ/ヨー方向、GF63mmF2.8 R WR装着時)の補正効果は、実は上位モデルのGFX100Sの6.0段を上回っています。
2. 画像処理エンジンの違い
センサーは同じですが画像処理エンジンは異なっています。GFX50Rでは「X-Processor Pro」でしたが、GFX50S IIではX-T4などと同じ最新の「X-Processor 4」になっています。これによりAF速度の向上や、顔・瞳認識の精度がアップしています。
3. 可動式の背面モニター
これはGFX50Sには搭載されていたのですが、GFX50Rでは小型化のためになくなってしまいました。GFX50S IIではこれが復活し、3方向のチルト式液晶モニターが採用されています。縦位置撮影のときにも使いやすくなったと感じます。
4. 撮影枚数
GFX50Rの400枚からGFX50S IIでは455枚に増えています。また、バッテリーがX-T4やGFX100Sと共通の「NP-W235」となったことで、他機種とのバッテリーの使い回しもできるようになりました。私はX-T4と併用しているので非常に助かっています。
5. 大きさ
GFX50R(160.7×96.5×66.4mm)と比べると、GFX50S IIは150×104.2×87.2mmと横幅は短く、高さと奥行きは長くなっています。実際に比べてみると、GFX50Rが箱型なのに対してGFX50S IIはスリムな印象です。重量も819g(バッテリー・メモリーカード含まず)とGFX50Rの690gよりも増えていますが、実際に持ってみるとグリップ部分が深いので手にフィットしてその重さを感じることはほとんどありませんでした。手ブレ補正まで搭載されてこの重量にできたのはむしろ革新的だと思います。
6. 価格
画質がいいのは分かっていても、レンズを合わせると100万円は下らないカメラとなるとそう簡単には手が出ません。ですが、GFX50S IIはレンズキットで50万円を切る価格(2022年1月現在)で購入することができます。この価格でしたらフルサイズミラーレスカメラを買おうと思われている方にも選択肢のひとつになるのではないでしょうか。
作例
GFX50S IIを購入してからこの3か月で地元の奈良をはじめ、北は青森から東は東京、南は和歌山まで仕事や撮影旅で訪れました。使用感を交えながら作例を紹介していきたいと思います。
まずは自宅から近い薬師寺を望む撮影ポイントで初撮影を行いました。レンズのF値は5.6ですが、ラージフォーマットのおかげで手前が大きくボケて、まるで単焦点レンズで撮影したかのような効果を得ることができました。
ここも奈良県で有名なコスモス畑ですが、快晴の逆光という条件で普通なら白とびしてしまうようなシーンでも諧調がきれいに残りました。
冷え込んだ早朝には蒸気霧が発生し幻想的な光景が広がります。有名な場所なので夜明け前からたくさんの人が撮影に訪れており、私が着いた時には三脚を立てる場所は残っていませんでした。しかし、手ブレ補正が搭載されたことで手持ちでもブレなく撮影することができました。寺社仏閣では三脚使用が禁止されているところも多くとても助かります。
世界遺産の高野山で雨の中での撮影でした。このような状況下でも防塵・防滴・-10℃の耐低温性能のおかげで、安心して撮影に集中することができました。
日光から福島方面に向かう途中に小さな滝を発見したので立ち寄りました。水面ギリギリのローアングル撮影でしたが、チルト式モニターのおかげでダイナミックな構図で撮影することができました。
霧が立ち込めるシーンではオートフォーカスが迷うこともありましたが、GFX50Rに比べオートフォーカスのスピードは向上していると感じました。
世界自然遺産の白神山地では機材を背負って歩くことが多かったのですが、同時発売の軽量レンズ(GF35-70mmF4.5-5.6 WR)との組み合わせのおかげで数時間歩いても苦にならず撮影が出来ました。
富士山の朝焼けです。小さな画では分かりにくいですが、拡大すると山頂の観測所まではっきりと確認することができました。これまでと同じセンサーですがさすがの解像力です。
人物の動きを止めるためにISO感度を4000まで上げて撮影しましたが、ノイズやざらつきも見当たらず低感度で撮ったかのような仕上がりになりました。
太陽の位置が刻一刻と変化する中で、さらに人が多く手持ちで撮らざるを得ない厳しい条件でしたが、6.5段の手ブレ補正は予想以上の効き具合でした。
イチョウ並木と東京駅を撮影していると突然鳩が飛び立ちました。すぐにISO感度を上げて鳩がブレないシャッター速度で撮影することができました。
東京タワーを望むけやき坂のクリスマスライトアップです。かなり高い位置からの撮影だったのでここでもチルト式モニターが役に立ちました。
こちらは横浜にてクリスマス時期限定で行われる光のショーです。光の筋がどんどん移動するので長いシャッター速度だとほとんど写りません。高感度に強いGFX50S IIであれば躊躇なくISO感度を上げて撮影ができます。どのような状況かわかるように動画も撮影してみました。動画撮影の際にも高感度が使えるのは有利ですね。
クリスマス前でしたが、浅草寺では羽子板市が行われていてこちらはすっかり正月の装いでした。拡大すると手作りの羽子板の人形一人一人の表情まで見ることができます。
大阪でも東京に負けず劣らずのイルミネーションが行われています。レンズの焦点距離は23mmですが、フルサイズ換算では18mm相当になるのでかなりの広角で撮影することができます。
タイムラプスも撮影してみました。インターバルタイマー撮影をした静止画を繋ぎ合わせて動画にしています。話題の8Kタイムラプス動画(約3300万画素)もこのカメラなら楽しむことができます。
※掲載動画は8K画質ではありません。
まとめ
GFX50S IIを使い始めて約3か月。海外にはまだ行けていませんでしたが、国内の世界遺産や紅葉の撮影旅に持っていきました。X-T4との併用でしたがカメラバッグへの収まりも良く、大きさは個人的にはフルサイズデジタル一眼レフカメラを持ち歩いている感覚でした。ただ、コントラストAFのみのためオートフォーカスについては速いとはいえず、暗いシーンではマニュアルフォーカスを使う場面もありました。イベントや動物などを撮影するには厳しい部分もありますが、その分画質面は申し分ありません。価格的にも非常に魅力的になったGFX50S IIは、フルサイズ以上の画質にこだわりたい方にぜひおすすめのカメラです。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師