マクロで撮ろう紅葉!|クニさんの季節の花レシピ

マクロで撮ろう紅葉!|クニさんの季節の花レシピ

はじめに

「えっ!? マクロレンズで紅葉なんて撮れるの?」なんて思った方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
マクロレンズは近くのものを大きく撮るためのもの……だけではありません!
普通の単焦点レンズとして、近くの花から遠くの風景まで撮影できる万能なレンズなんです。
今回はそんなマクロレンズを使った紅葉のいろいろな撮り方についてお話します。

浅い被写界深度を活かそう

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.7)・ISO400・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

一枚の葉っぱに最短撮影距離付近までグッと近づき、手前の葉っぱのフチにピントを合わせました。
絞り値は開放にセットしているため被写界深度が浅くなり、ピントが合ったのは一枚の葉っぱのうちのほんの一部分だけ。他は大きくとろけるようにボケています。
この浅い被写界深度による大きなボケこそが、肉眼では見えないマクロレンズならではの面白い表現です。
ピント位置をほんの少し変えるだけでボケ方が大きく変化して、また違ったイメージの作品になります。
ぜひいろいろなところにピントを合わせて撮ってみて、その違いを確認してみてください。

被写界深度とは、ピントを合わせた位置から前後にピントが合う範囲のことです。
マクロレンズで被写体に近づくと被写界深度が極端に浅く(ピントの合う範囲が狭く)なり、大きなボケが得られます。
このボケをうまく活用することで、肉眼では見ることのできないひと味違った写真を撮ることができるのです。
そしてボケを決めるのが絞り(F値)。
絞りの値は小さければ小さいほど被写界深度が浅くなり、ボケが大きくなります。
この性質を利用して、絞りを開放(F値の一番小さな数字)にして被写体に近づいてみましょう。
ごく狭い一点だけにピントが合い、周囲が大きくボケて肉眼では見られない不思議な表現が得られますよ。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+2.3)・ISO400・フィルムシミュレーション ASTIA

こちらも手前の葉っぱに近づいて撮影した一枚です。
少しカメラを傾けて主役と周囲の葉っぱが円を描くような構図とし、躍動感を感じられるような表現を狙いました。
背景に木漏れ日を入れて、まるで紅葉の葉っぱが光の中を飛び交っているようなイメージに仕上げています。

背景を吟味して主役を引き立たせよう

紅葉は葉っぱが密集しているため、漠然と撮ってしまうと主役が埋もれてしまい、何を撮ったのかが伝わりにくくなりがちです。
それを避けるためには密集から飛び出している葉っぱを狙いましょう。そうすることで主役が伝わりやすくなります。
葉っぱ一枚だけを主役にするのが難しい場合は数枚の葉っぱのひとかたまりを主役にするようなイメージで撮ると絵作りしやすいですよ。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.3)・ISO400・フィルムシミュレーション ASTIA

一部分だけ色変わりした葉っぱたちが可愛くて撮影した一枚。
背景の紅葉をボカすことでシンプルな背景とし、主役の葉っぱたちを引き立たせています。
オレンジ色で埋め尽くされた背景があたたかい雰囲気を感じさせてくれました。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+1.0)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

頭上の紅葉を見上げるように撮った作品です。
背景の紅葉の形がうっすらわかるような面白いボケになりました。
主役の葉っぱと背景の葉っぱの距離が比較的近いことで得られた効果です。
このとき主役が同じ色の背景に重なると溶け込んでしまって印象が弱くなります。同系色の背景に重ならないようにポジションを配慮しました。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F4・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

地面に落ちてしまった紅葉の一葉。
それでも「まだまだ元気です!見てください!」とアピールしているかのような姿に心動かされ、地面に寝転がって撮影しています。
周囲の落ち葉には陽射しが反射して白く輝いていました。その輝きを背景に入れることで反射した光が円ボケとなり、爽やかな雰囲気を演出してくれました。

このように太陽の光に反射した葉っぱや木漏れ日を背景にすれば、キラキラした円ボケを作ることができます。
円ボケの大きさや柔らかさは、光の強さや被写体と背景との距離、レンズの焦点距離などによって変わります。撮影ポジションやアングル、被写体までの距離などいろいろ変えながら撮って、お好みの一枚を見つけてください。

前ボケを活用して主役を引き立たせよう

前ボケには、主役の周囲の邪魔なものを隠して主役を引き立てたり、ふんわりやわらかい雰囲気を作る効果があります。
前ボケを入れる方法は、主役となる紅葉とレンズとの間に前ボケにする葉っぱなどを入れるだけ。
このとき前ボケにする葉っぱにできる限り近づくのがコツです。
レンズと前ボケの葉っぱとの距離があると葉っぱの形がわかるような硬いボケになってしまい、うまく柔らかなボケが作れません。
前ボケにする葉っぱにくっつくぐらいまで近づくイメージで撮ると綺麗なボケになりますよ。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(-0.7)・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

紅葉の葉っぱの上に一枚の小さな落ち葉が載っていました。まるで大きな葉っぱが子守をしているような、慈しんで見ているような、そんなイメージを抱きました。
この二枚の葉っぱを主役にしようと思いましたが、ただそのまま撮っても周囲にあるたくさんの葉っぱに視線を奪われてしまい、主役が目立たなくなります。
そこで手前にある紅葉の密集を利用して前ボケを作り、トンネルから覗いてみているような表現を狙いました。
こうすることで周囲の邪魔な葉っぱが隠れ、主役に視線を集めることができます。

■撮影機材:富士フイルム X-T3 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(-0.7)・ISO400・フィルムシミュレーション ASTIA

密集の奥の一枚の葉っぱに陽射しが当たって輝いていました。
この一枚を主役にし、周囲の葉っぱを前ボケで隠して主役に視点を集めようと試みたところ、手前のボケが弧を描いて主役の一枚に連なっているような、不思議なボケとなりました。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+0.7)・ISO1600・フィルムシミュレーション ASTIA

まるで宇宙空間にふわうわ浮かんでいるような、ちょっと不思議なイメージの一枚です。
実はこれ、池に落ちて水面を流れている紅葉です。
池の周囲にある紅葉の隙間から池を覗き込んで撮影しています。
池にはこの他にもたくさんの葉っぱが落ちて浮かんでいましたが、紅葉を前ボケにしてそれらを隠すことで主役だけを引き立たせて視線を集めることができました。

物語をイメージしよう

鮮やかに広がる紅葉ばかりに目を奪われがちですが、ふとした小さな風景にもちょっと目を向けてみてください。
あちらこちらに印象的な紅葉を見つけることができますよ。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8・ISO200・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

ひらひらと舞い落ちてくる一枚の葉っぱ……ではありません。
実はこれ、蜘蛛の巣に引っかかっている葉っぱなのです。
背景が同色系のため、そのまま撮っても主役が埋もれてしまいます。
そこで、木漏れ日の円ボケの中に主役が入るように撮影し、まるでスポットライトを浴びてステージで踊っているかのようなイメージの作品に仕上げました。

■撮影機材:富士フイルム X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:絞り優先AE・F2.8(+2.3)・ISO400・フィルムシミュレーション PRO Neg.Hi

このシーンを漠然と見ていると、ただ「枝に引っかかった一枚の落ち葉」という印象しかないかもしれませんね。
でもよ~く観察していると、葉っぱが手のように見えてきて、まるで落ちまいと必死に枝にしがみついている姿のように感じられませんか?
こんなふうにちょっとしたストーリーを想像しながら撮影することで、グッと素敵な写真になりますよ。

おわりに

紅葉というと、真っ赤に燃えるような紅葉真っ盛りの姿を想像しますよね。
でも色づきはじめの緑からオレンジ、最盛期の赤、ピークを過ぎて茶褐色になった葉っぱまで、一つの紅葉で移りゆく季節の様々な姿を見ることができます。
「紅葉=赤」といった最盛期の時期だけに囚われず、はじまりから終わりまで時間を変えて観察してみることで、いままでにない新しい発見があるかもしれません。ぜひ自分なりの個性的な紅葉写真を見つけましょう!

ここに挙げた撮り方はほんの一例です。
いろいろな撮影方法にチャレンジしながらぜひ自分なりの撮り方を見つけてくださいね。

 

■写真家:くにまさ ひろし
1971年生まれ。大阪在住。身近にあるちょっとした幸せ「プチ・ハピ」をテーマに、マクロレンズで花や虫たちの小さな世界をふんわりやさしく描く。
各種写真教室では、マクロ撮影の面白さを楽しくわかりやすくお伝えすることを意識している。

・写真展 2020年、2022年「花色の息吹」(大阪・東京)、2021年「花の鼓動~Life~」(大阪)
・写真集「花色の息吹」(風景写真出版)

・日本風景写真家協会(JSPA)会員
・一般社団法人 日本写真講師協会認定インストラクター
・フォトマスターEX(総合)
・カメラのキタムラ フォトカルチャー倶楽部 講師
・富士フイルムアカデミーX 講師
・OM SYSTEMゼミ 講師

・クニさんの花マクロ写真塾 主宰

 

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