目からうろこ!並木隆の花撮影術|ズームレンズを使う時こそ自分で動く
はじめに
花撮影のとき、ズームレンズをどのようにお使いでしょうか?
ファインダーを覗きながらズームリングをグリグリ回して被写体の大きさや写る範囲を調整している・・・なら、是非この記事を参考にしてほしいです。だって、そのズームリングの使い方をしている限り、レンズの使い方はマスターできないからです(花撮影の場合ですよ、花撮影の場合)。
被写体の大きさを変えたければ自分が動く
このようにファインダーを覗きながら被写体の大きさを変えたり、余計なものを省くためにズームリングを回していると、被写体の大きさがいつも大きくなってしまいますし、今どのくらいの焦点距離を使って撮影しているのかの把握ができません。
ズームレンズには「ここに合わせたら○○mmですよ」という焦点距離の目盛りが表示されています。ズームリングで被写体の大きさを変えていいならこの表示はなくていいものですが、どんなズームレンズでも必ず表示があります。それは、目盛りを合わせて焦点距離を設定してから撮影する、ということが基本だからです。
でもこれじゃあ被写体の大きさが調整できないじゃないか! ってことになりますよね。ここが大きなポイントなんです。大きくしたければ被写体に近づき、小さくしたければ離れればいいのです。ほんの少し前後に動くだけで花の大きさが調整できるんです。ズームリングを回す代わりにこの動きができるようになれば、レンズの使いこなしが半分できたと思っていいでしょう。しかし、ここでファインダーを覗きながらズームリングを動かしてしまったら一緒ですから、動かさないように意識しましょう。
背景やボケは焦点距離で変化させる
使い方はわかったけれど、んじゃ撮影のときにどの焦点距離を選択したらいいんだ? って話になりますよね。では、被写体をほぼ同じ大きさのまま焦点距離を変えて撮影した、上の作例写真を見てください。
18mm、50mm、100mm、200mm、300mmと焦点距離を変えていますが、被写体の大きさが同じなのは焦点距離が大きくなるほど自分が被写体から離れているからです。ちなみに絞り値は全てF5.6で統一した・・・つもりだったんですが、200mmと300mmはF6.3になっちゃいました。すみません。
注目してほしいのは背景の写り方とボケ具合です。焦点距離の短いレンズほど背景の写る範囲が広くボケ具合が少ないですが、焦点距離が長くなるほどだんだん背景の写る範囲が狭くなるだけでなく、ボケ具合もどんどん大きくなっているのがおわかりいただけると思います。絞り値はほぼF5.6で撮影しているのに、ですよ。
写真の勉強をしているなら絞り値による背景のボケ具合、つまり被写界深度による描写の変化を学ぶと思います。絞り値の数値が小さいほど被写界深度は浅く(背景がぼける)、絞り値の数値が大きくなるほど深く(画面全体にピントが合う)なりますよね。
でも、それ以上に変化があるのがこの焦点距離による変化なんですね。つまり絞り値が同じでも、焦点距離が短ければ被写界深度は深く(画面全体にピントが合う)、焦点距離が長くなるほど浅く(背景がぼける)ようになるんです。
だから、背景を大きくぼかしたいなら焦点距離の長いレンズ、背景をたくさん入れて周囲の状況を取り込みたいなら焦点距離の短いレンズというように、撮影者がどんな描写に仕上げたいかで選択する焦点距離が変わってくるんです。この花を撮るときはこのレンズ、という決まりはないんです。
被写体との距離も重要
被写界深度の変化は絞り値と焦点距離ですよーってお話をしましたが、実はもうひとつあるんです。それが被写体との撮影距離の違いによる変化になります。撮影距離というのはピントを合わせたときの、ピント面からセンサー面までの距離のことですね。結論として、これが短くなればなるほど被写界深度が浅くなります。
焦点距離の短いレンズは前述したように、広い背景を取り込むことができる代わりに焦点距離の長いレンズのように大きなボケは得られません。でも、撮影距離が短ければ焦点距離の短いレンズでそれなりのボケを得られるのですよ。
上の作例は同じ場所で焦点距離は18mm、f5.6で撮影していますが、近づくほど背景がぼけているのがわかりますか? ぼけにくい焦点距離の短いレンズでも、絞り値の数値がそんなに小さくなくても、撮影距離が短ければここまで背景をぼかすことができます。花撮影では必須といわれているマクロレンズでクローズアップすればするほど被写界深度が浅くなるのは、これが理由だったりするんですね。
長い焦点距離のレンズで練習してみよう
絞り値、焦点距離、撮影距離という被写界深度が変化する3つの要因を意識して撮影・・・できたらそりゃ楽ですが、最初から全ていっぺんにマスターするなんて難しいです。まずは200mmくらいのレンズを使って、花を小さくフレーミングするところから始めてみましょう。
焦点距離の長いレンズって、遠くのものを大きく撮るときに使うレンズなんじゃないの? と思ったあなた。あってますよ、あってます。でも、それってみんな同じこと考えるんですよ。それに、スポーツや動物など動く被写体と違って花は動きません。撮影者が動くことで方向や角度を変えることができるので、被写体の大きさも基本は自由自在です。それに、花を小さく撮ることでたくさん咲いていたり、森の中だったりといった周囲の状況を取り込むことができるので、花だけでなく雰囲気を取り込むことができるからです。
標準ズームレンズしかないよーって方は、お持ちのレンズで一番長い焦点距離で大丈夫ですよ。長い焦点距離ほど大きなボケを得られるので被写体を浮かび上がらせやすくなります。背景がぼけないときは被写体と背景の距離が近いってことですから、アングルを変えたりしながら遠くの背景を取り込みましょう。前回記事を参照してみてください。
でも、小さくしようと花から離れると背景がぼけない! ぼかそうとすると花が大きくなっちゃう! という方は、ピントを合わせようとしている花が手前なんです、見ているところが近いんです。みなさん花を見るときどの辺を見ますか? たぶん無意識に一番手前を見ると思います。なぜならきれいかどうかが一番よくわかるのが一番手前の花だからです。そこからひとつ奥の花を探し、そこにピントを合わせてみましょう。ほら、動かなくても花を小さく写せるようになったでしょ?
焦点距離の長いレンズを使うときはどんどん遠くの花に視点をもっていくと小さく写せるようになりますし、手前に花があればそれが前ボケになったりするので彩りを加えることもできるようになります。
焦点距離の短いレンズは被写体に近づく
逆に焦点距離の短いレンズは広い範囲を写すものというイメージが強いと思いますが、その使い方だと花を小さく、たくさん咲いているところを写す以外に使い道がありません。焦点距離の長いレンズとは逆に、手前の花にどんどん近づいてみましょう。そう、焦点距離の短いレンズほど花を大きく写すのです。そうすると主題となる花が明確になりながらも背景をたくさん取り込んだ、焦点距離の短いレンズならではの作品ができあがります。
また、焦点距離が短くなるほど遠近感が強調されるという効果が出てきます。遠近感は手前が大きく、遠くが小さく写ることで強調されるので、手前の花に近づくことで自然と遠近感が生まれます。この効果は奥行の遠近感だけではなく、高さにも使うことができます。それほど背の高くない花でも地面すれすれから見上げるようにレンズを向けると、勢いを感じるほど背の高い花に早変わりするんですね。
まとめ
ということで、レンズの使い方、焦点距離の決め方はなんとなくおわかりいただけたでしょうか? とにかく、被写体の大きさをズームで調節しないことが焦点距離による描写の変化を生かす最大のポイントです。背景を大きくぼかしたいなら焦点距離の長いレンズ、背景をたくさん取り込んで周囲の状況を見せたいなら焦点距離の短いレンズというように、どう写したいかを撮る前に決めることが大切ですし、イメージできなければ焦点距離を変えながら同じ被写体を撮影して比べてみましょう。その中で一番好きなものを選ぶようにすればいいのです。
■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。