目からうろこ!並木隆の花撮影術|手持ちの機材で花を撮るコツ

並木隆
目からうろこ!並木隆の花撮影術|手持ちの機材で花を撮るコツ

はじめに

写真家の並木です。

花の撮影がなかなか上手くいかない、いつも同じようにしか撮れないから難しいという声をよく聞きます。その原因は何なのか? カメラやレンズ? 技術や知識? もちろんそのあたりも多少はありますが、最大の理由はキレイに撮れる被写体選びができていないからです。

被写体選びというとキレイな花を選べばいいんじゃないの? と思う方がほとんどだと思いますが、それだけじゃあダメなんです。花以外の周囲の状況によって上手くいく、いかないが決まってくるのです。

ちなみに今回は標準ズームの望遠側ということで焦点距離は70mm、絞り値はセットレンズなどで一般的なF5.6という設定で全ての作例を撮りました。コンパクトカメラやスマートフォンなら遠くの被写体が大きく写る方(望遠側)にすれば、同じようなボケ具合にはなりませんが同じように写すことができます。ここまで制限したのは、撮影機材による優越ではないんだよってことをわかってほしいからです。

ポイント1 被写体選び

では早速、被写体選びからいってみましょう。まずみなさんが注目するのは花がたくさん咲いているところだと思います。その中でも密集して咲いている方が華やかに見えますから、そこにレンズを向けると思います。

たくさん咲いているところにレンズを向けると複数の花が画面の中に入るので、どれが主題なのかよくわからない写真になってしまいます。主題がわからないと最初にどこを見て、次にどこを見るという順序がわからなくなるので、俗に言う「平凡な写真」になってしまうのです。

そこで主題を明確にするためにひとつの花だけを切り取ろうとフレーミングしていくと、周囲の花は入らなくなりますが・・・あれれ、たくさん咲いているところにレンズを向けたのに、花が少ししか写っていない写真になってしまいました。

レンズによっては近づけなかったりするので大きく切り取ることもできず、小さい花だとこんな中途半端な写真になってしまいます。

実は、たくさん咲いている雰囲気を出すのに花の密集しているところにレンズを向けるのが間違っているんです。気持ちはわかりますよ。花が密集している方が、見た目がいいですからね。でも、主題を明確にした花の写真を撮るときの被写体と、見た目がいいところは全く違うのです。

第一のポイントはここ!

この先入観を取り払わないと、花を大きく切り取った図鑑の写真から抜け出すことはできません。

ではどういうところが適しているのかというと、密度の薄い、できればひとつの花しか咲いていないところです。

これまでなら左の密度の濃いところに目がいっていたと思います。

でも、右のひとつしか咲いていないところを選ぶのです。

周囲に他の花がないので主題を明確にするために花を切り取って大きくする必要もないですし、小さく撮っても他の花が入ってこないので主題も明確になります。

しかし、これだとさっぱりしすぎてなんだか味気ないですし、たくさん咲いている雰囲気が感じられませんよね。

ポイント2 主題を明確にする

では次に、たくさん咲いている雰囲気を追加していきましょう。とはいえ、たくさん咲いている雰囲気ってどうやったら出るのでしょう? 

周囲に他の花がたくさん咲いていることがわかればいいのですが、すべてにピントが合ってしまったら主題がわからなくなりますよね。あくまで雰囲気を伝える脇役ですから、主題よりも目立っちゃダメなんです。ここで登場するのがボケですね。ボケといってもいろいろありますが、今回は背景にたくさん咲いているところを取り込んでみましょう。

前述した被写体選びで左側にたくさん咲いているところがありましたね。そこが背景にくる位置からレンズを向けてみます。

そうすると主題の花のひとつだけにピントが合い、たくさん咲いているところが背景になり黄色いボケになったので、主題が明確でなおかつたくさんの花が咲いている雰囲気を出すことができました。

しかし、ここで疑問です。レンズの焦点距離も絞り値も同じですが、花が密集しているところでは周囲に咲いている花がこのようなボケにはならなかったのに、この花では背景が大きくぼけていますね。

それはピントを合わせた花と背景のたくさん咲いているところの距離にあるのです。ボケはピントを合わせたところから離れるほど大きくなります。花が密集しているとピントを合わせたところに近い花が入ってしまうと、大きくぼけないんですね。この主題の花と背景の距離、これが第二のポイントです!

ポイント3 アングルと角度

次にこちらをご覧ください。

花から地面まで30センチぐらい

花の上からレンズを向けると背景は地面になります。この花は30cmくらいの高さしかなかったので、背景は40〜50cmしか離れていません。ぼけてはいますが中途半端なボケになっていますね。

花から背景まで5mぐらい

同じ花ですが今度は見上げるように花よりも低いアングルからレンズを向けて遠くの木を背景にしてみました。距離にして5mくらいでしょうか。先程の地面よりも遠くの背景を入れているので、同じ焦点距離、絞り値でも背景のボケ具合が大きく変わってきましたね。

焦点距離や絞り値の設定も大切ですが、被写体と背景の距離が離れているほど背景が大きくぼけますし、それらの調整をするのがアングル、つまりカメラを構える高さなんです。同じ被写体でも高い位置からカメラを向けたときと低い位置からカメラを向けたとき、入る背景の距離が変わるから背景のボケ具合も変わってくるのです。

第三のポイントは、アングルを変えて背景の入り方を調整する、なんです。これは花以外の被写体にも当てはまることなのですが、できていそうで、できていないのです。その原因のひとつが花の形をちゃんと見せないといけない、正面からもしくは花芯が見える角度から撮らなきゃいけないと思い込んでいるからなんです。そんな決まりはありませんし、花の撮影で大事なのは花の色や形を正確に見せるよりも、どんな環境や状況でその花が咲いているのかという雰囲気の方が重要です。

どのアングルから、どの角度からレンズを向けるとどんな背景が入るのかを確認してからカメラを構えると、被写体を浮かび上がらせる遠くの背景が見つけられるようになりますよ。

まとめ&被写体の選び方クイズ

花がキレイなだけじゃダメな理由がおわかりいただけましたか? でも実際にこのような条件を探してみると、あまりないんです。だから花の撮影は難しいのです。もっといろいろお伝えしたいことがありますが、続きはまた次回にしましょう。

では今日のおさらいも兼ねて、最後に被写体の選び方クイズです!

この中にキレイに撮れる条件に当てはまった花がひとつだけあります。それはどれでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

正解はで囲った花ですね。

周囲に他の花がないので、どの方向からレンズを向けてもこのあじさい以外にピントが合うことはありません。どの方向からレンズを向けるかはどんな背景を入れたいかで変わってきます。たくさん咲いているように見せたければ、たくさん咲いているところを入れればいいのです。

見上げるような低いアングルからレンズを向ければ、奥にある木が背景になるのでキラキラした木漏れ日が入ってきます。

周囲に他の花がないところを選べるようになれば、アングルや角度を変えて背景を変えることで、同じ花でも全く違った印象の作品を作り出すことができるようになるんですね。ぜひ実践してみてください。

 

 

■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。

 

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