富士フイルム GF80mmF1.7 R WR レビュー|気持ちの良い描写、ポートレート撮影における神レンズ
はじめに
今回は富士フイルムのGFX100Sユーザーである筆者が、普段から愛用している中望遠単焦点レンズ「GF80mmF1.7 R WR」をレビューしていく。個人所有しているGFレンズはこの1本のみなのだが、他のレンズは必要ないと思わせるほど最高の描写を見せてくれるお気に入りのレンズだ。
Xシリーズを使うときは「XF23mmF1.4 R」を中心に、基本的には準広角~標準域の画角しか使わない筆者が、なぜこの中望遠レンズを使うのか。今回もポートレート写真とともに、この魅力的なレンズの写りを解説していきたいと思う。
ここ一番で使う最強レンズ
GF80mmF1.7 R WRはラージフォーマットセンサー搭載のミラーレスカメラ、「GFX」シリーズ用の交換レンズで最も明るい開放F値を持つ1本。被写界深度の浅いラージフォーマットでF1.7ということは、フルサイズで考えればさらに小さいF値を持つレンズと同じようなボケの大きさになるだろう。そこにラージフォーマット特有のボケ・階調の滑らかさが加わることで、なんとも言えない魅力的な写りを見せてくれるのがこのレンズの特徴だ。
GF80mmF1.7 R WRの焦点距離は35mm判換算で63mm相当。XF23mmF1.4 R(35mm判換算35mm相当)に慣れきっている筆者からすると、GF80mmF1.7 R WRを使うときは完全に頭を切り替えないといけない。準広角であれば被写体の余白となる背景も含めていかにドラマチックに見せるかを考えるが、このレンズを使うときは絞り開放で背景を完全にぼかし、いかにモデルさんを際立たせるかを重視して撮ることが多くなる。
まさにポートレートレンズとしてベストな1本なのだが、普段の自分のスタイルからは完全に別枠の写真になるため、ここ一番というときに取り出して撮影するイメージだ。このレンズではモデルさんをクローズアップして撮ることがほとんどなので、顔や肌が最も美しく見えるよう光の当たり方や陰影には特に注意してフレーミングするようにしている。
写真からも中望遠ならではの遠近感と抜けの良さ、そして富士フイルムならではの肌色の美しさを感じ取っていただけるだろう。同じ富士フイルムのXシリーズももちろん良い発色なのだが、GFXはさらに諧調が豊かで深みがあって、人物の肌のキレイさはどのメーカーを見ても群を抜いていると感じる。肌へのレタッチもほぼ必要ないほどだ。
被写体が際立つ嫌みの無いボケ感
このレンズを使うとき、筆者の場合は被写体から引いて背景も取り入れるシーンでもない限り、基本的には絞り開放で撮ることがほとんどだ。大きなボケで被写体を際立たせる、大口径中望遠らしい撮り方でどんどん活用してほしいと思う。
そのボケに関しても嫌みがなく、素直で美しく、そして非常になだらかにボケてくれるのが印象的。ピントが合った箇所を邪魔せず、自然とモデルさんの瞳に視線誘導される極上のポートレートに仕上げてくれる。
引きで撮っても絞り開放なら背景がいい感じにボケてくれるので、しっかり被写体が浮かび上がったエモい雰囲気を演出することが可能だ。広角で背景を取り入れるのとは訳が違う、いかにも中望遠といった表現で気持ちの良いボケを楽しむことができる。
ただ大きくボケるだけではなく、ボケた背景の描写にも注目してほしい。普通だったら白飛びしてしまいそうな雲もきちんと諧調豊かに色再現され、画面全体で生き生きとした印象を与えてくれる。夕暮れの空でも、ボケて滲みながらも色のグラデーションが美しく再現されており、細部まで完成度の高さを感じることができるだろう。これがラージフォーマットの威力なのだ。
もちろんラージフォーマットでF1.7となるとかなり被写界深度は浅く、モデルさんに寄って顔を斜めから撮ると確実に奥の瞳はボケてしまうので注意が必要。しっかり正面から撮るのか、横顔で奥行きを出すのか、やみくもにボカすのではなく意図的に表現をコントロールしてシャッターを切ってほしい。
背景を大きくボカすために被写体に寄って撮ることが多いが、最短撮影距離は70cmなのでモデルさんとは程よい距離感がある。この1メートル弱という1歩引いた距離感は、例えばポートレート撮影に慣れていないモデルさんにも安心感があるので、お互いに良いコミュニケーションをとりつつ撮影できるのではないだろうか。モデルさんに嫌な思いをさせないというのはポートレート撮影において非常に重要なポイントの一つだ。
シャープなのに優しい描写
普段から様々なカメラを使うが、特にGFXは線が細くて繊細な優しい表現をしてくれるのが特徴的だ。1億画素もあるとバキバキの解像感、カリカリの描写と思っている人もいるかもしれないが、むしろその逆。ピント面が非常にシャープに写っているのに、全体で見た時に滑らかで心地よい絵を生み出してくれる。これは本当にGFXのみの特権と言えるだろう。
「空気感を写し出す」と表現したらいいだろうか。雪の日の写真を見てもらうと分かると思うが、あの独特な青い空気感をしっかり捉えられた時に、「このカメラを買って良かった!」と本気で思ったものだ。GFX100SとGF80mmの組み合わせじゃないと、この写真は撮れていなかったと思う。
もちろん1億画素のGFX100Sとあって、画像を拡大していくと雪の結晶も形がはっきり分かるほど解像しており、優しい雰囲気と細部のシャープさがきちんと共存している。モデルさんの周りを舞う雪もきれいに丸ボケとなり、画面全体で叙情感を演出してくれた。
ちなみに上の写真だが、ピントは顔ではなくわざとモデルさんの肩に合わせている。そうすることで顔を少しぼかして表情を分かりにくくしており、一点を見つめる物憂げな雰囲気、ストーリーを感じられるようなドラマチック感を作り出している。
描写に関してあえてデメリットを挙げれば、優等生な写りをするので個性や面白みには欠けるということ。クセのない写りをしてくれるので、人物をより自然な雰囲気で写し止めたい人にはうってつけのレンズと言えるだろう。先に述べた通り肌の発色も非常に美しいので、ほぼ撮って出しでこれだけのクオリティに仕上がってくれる。
GFX100Sとのバランスは良好、防塵防滴で安心
GF80mmF1.7 R WRのサイズは最大径94.7mm、全長99.2mm。マウント径が大きいだけに太さはあるものの、長さは比較的抑えられているため、GFX100Sで撮影する際にもバランスの悪さは全く感じない。
ただ、普段使っているXシリーズなどと比べてしまうと、GFX100SとGF80mmF1.7 R WRの組み合わせはさすがに重さを感じてしまう。ボディで約900g、レンズで約795gなので合計約1.7kgにもなると、メイン機として丸一日持ち続けるには手首への負担が大きい機材だ。全体的に小型とは言えないので、筆者のように手の小さな人は特に気を付けてほしい。
またGFレンズは現状すべてのラインナップが「WR」仕様で、防塵・防滴・-10℃の耐低温構造となっており、これが筆者としては大変ありがたい。特に今回の写真は雪の中で撮影したものもあり、かなり機材を濡らしてしまったがそれでも一切不具合はなかった。雪が降り続く良い雰囲気の中でいちいちタオルで拭くような時間は惜しい訳で、過酷な環境でも機材を信頼してストレスなく撮影を続けることができた。
さいごに
中望遠の画角をほぼ使うことがない筆者が、唯一愛用するとっておきのレンズがこの「GF80mmF1.7 R WR」。最高のボケ感と抜け感、気持ちが良いほどにバチっと写る解像感と滑らかな描写。絞り開放から文句のない素晴らしい写りを見せてくれる。GFXでポートレートを撮るなら絶対に持っておいてほしい、間違いのない一本だ。
■撮影協力
加藤 歩:@Kt_Aymr_95
北川朋果:@tomoka_0605
雨宮ひろ:@hiro_rain00
じきまる。:@jikimaru_
yuna*ゆなしー:@yuna_photo43
■写真家:高橋伸哉
スナップからポートレートまで幅広く撮影をする写真作家。写真集「impermanence」、書籍「写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか?」「情景ポートレートの撮り方」など出版。共同執筆の書籍も多数。
写真教室も定期的に開催しており常に満員になるほどの人気。最近ではインドやタイを旅をしており世界中でスナップを撮るなど自分の好きを追求して写真を撮る日々。