富士フイルム XF8-16mmF2.8 R LM WR|旅写真家が選ぶ広角ズームはどれ?
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今回は富士フイルムの超広角ズームレンズ「XF8-16mmF2.8 R LM WR」をレビューします。前回レビューした「XF10-24mmF4 R OIS WR」との違いを交えながらお話しできればと思います。
旅写真では様々な被写体に対応できるように超広角から超望遠まで揃えるのが理想ですが、特に公共の交通機関で移動したり歩いたりすることが多い場合は、機材の重量も重要な要素になってきます。私は旅に行くときには、軽量のXF10-24mmF4 R OISをメインに使用してきましたが、本レンズでしか撮れないものもあり海外まで持っていったこともあります。
8mmという画角について
このレンズは広角側が35mm換算で12mmという超広角ズームレンズです。それでいてズーム全域でF2.8という、富士フイルム最広角が撮影できるレンズになります。他メーカーでも同様の焦点距離と明るさを持つズームレンズは、ソニーのFE 12-24mm F2.8 GMくらいかと思います。
画角がXF10-24mmF4 R OIS WRと比べて2mmしか違わないと思う方もおられるかと思いますが、広角側にいけばいくほどこの2mmの差は大きく感じられます。数字を使って説明すると8mmは10mmに比べて約35%広い面積を撮影することができます。これは望遠レンズで比べると400mmと500mmの違いと同じになります。
XF10-24mmF4 R OISとの比較
XF8-16mmF2.8 R LM WR | XF10-24mmF4 R OIS WR | |
焦点距離(フルサイズ換算) | 12-24mm | 15-36mm |
質量 | 805g | 385g |
最短撮影距離 | 25cm | 24cm |
開放F値 | F2.8 | F4 |
手ブレ補正 | 非搭載 | 3.5段 |
フィルターサイズ | -(前面装着不可) | 72mm |
絞り羽枚数 | 9枚 | 7枚 |
防塵防滴 | 〇 | 〇 |
発売時期 | 2018.11 | 2020.11 |
XF10-24mmF4 R OIS WRと比べ2倍以上の重量を持つ本レンズは、カメラに付けて軽快に持ち運ぶというよりも、バッグにしまっておいて「ここぞ!」というときにじっくり撮影するタイプのレンズだと思います。手ブレ補正という点はXF10-24mmF4 R OIS WRのほうが勝るポイントですがX-T4、X-S10、X-H1などのボディ内手ブレ補正が搭載されている機種でしたら全く問題ありません。
このレンズは9枚羽絞りを採用しているので、絞り込んで撮影したときには光源から18本の光の筋(光条)が出ます。XF10-24mmF4 R OIS WRは7枚羽(光条は14本)なので、強い光源や太陽を撮ったときの印象が変わります。ただ、光条の本数に関しては多いほうがいいというわけではなく、そこは好みによります。
XF8-16mmF2.8 R LM WRが必要な被写体
①星空
このレンズで一番撮りたいものといえば星空ではないでしょうか?星だけを撮るならここまでの広角は必要ないかも知れませんが、旅先ではなるべくその土地が分かる対象物と一緒に撮影したいものです。また、星は1時間に15度のスピードで動いています。よってあまり長いシャッター速度だと星が線状になり、ブレたような写真になってしまいます。
よく言われるのが「500ルール」というもので、500をレンズの(フルサイズ換算した)焦点距離で割った値が星が止まって写るギリギリのシャッター速度だというものです。このレンズの最広角側の8mm(フルサイズ換算12mm)の場合は約40秒まで星が止まったように見えることになります。XF10-24mmF4 R OIS WRの場合は10mm(フルサイズ換算15mm)なので約30秒となります。解放F値の違いを考えるとこのレンズのほうが圧倒的に星を撮る場合には有効なことが分かります。
奈良県の星空撮影で有名な大台ケ原に行ってきました。ここは容易にアクセスができて駐車場からでも満天の星空を撮影することができます。下の地図は全国各地の光害分布の分かる「light pollution map」というものですが、大台ケ原の位置(赤の星印)は光害がとても少ないことが分かります(赤色になるほど光害が多いことを示す)。この地図はインターネットで簡単にアクセスできますので、ぜひご自宅の近くの光害の状況をチェックしてみてください。
星空を撮影しようと紅葉の立山室堂のキャンプ場で一夜を過ごしました。晴れの予報でしたが思った以上に雲が多く、一晩インターバル撮影をした中で一番雲が少なかったカットです。この日は月明かりがあり雲がなかったとしても星空撮影には不向きな条件でした。
以前に撮影した北海道屈斜路湖の星空です。水面に映る星まで捉えています。山の向こうが明るく見えるのは北見などの町の明かりです。このように、星空の撮影は月や町の明かりが少しあるだけでも写真に影響がでてしまいます。
立山と大台ケ原ではタイムラプスムービーも撮影してきたのでぜひご覧ください。
②建築物
世界遺産の撮影をライフワークとする私は、建物内部の撮影のときには1mmでも広いレンズで撮りたいと思うことがよくあります。野外だと対象物との距離を変えることで解決できますが、屋内の場合はそうもいきません。ただ、このレンズには手ブレ補正が搭載されていないので、三脚が使えない場所ではボディ内手ブレ補正のついたカメラに装着することをお勧めします。
少しでも海外気分を味わおうと向かった先は、日本に二か所しかないイスラム教モスクの一つ「東京ジャーミイ」。天井ドームの装飾全体を美しいステンドグラスとともに写し込むことができました。ちなみにもう一か所のモスクは神戸にあるのですが規模は東京に比べてとても小さいです。
※礼拝中の撮影は禁止されていますのでご注意ください。
次に螺旋階段で有名な白丸ダムです。ここには魚の往来のための「魚道」が造られていて、4月から11月の土日祝には見学することが可能です。超広角レンズは中心に向かって遠近感が強調されるので、吸い込まれていくような印象の写真に仕上がりました。
③風景
単に広く写るだけでなく、独特の遠近感を使った表現をすることができます。カメラを水平よりも少し上に向けたり下に向けたりしてファインダーで効果を確認しながら撮影することにより、このレンズの特徴を出すことができます。そのためになるべく被写体に近づき撮影してみました。
まずは超広角を生かす場所として選んだのが鍾乳洞。奈良県の特別天然記念物の指定を受けた面不動鍾乳洞に行きました。全長280mに及ぶ洞窟内部は天然のクーラーになっていて夏場でも快適に撮影ができます。また、最近はカラフルにライトアップされていて自分の好きな色を見つけて撮影するのも楽しいです。
ライトアップの色の変化を動画でも撮影したのでご覧ください。
次に東海地方の彼岸花の名所です。有名な童話「ごんぎつね」の舞台となった矢勝川周辺には全長約1.5kmにわたって、300万本以上の彼岸花が咲き誇ります。到着が夕方だったので日没後の撮影になってしまいましたが、フラットな光で撮影することができました。手前の花にかなり近づいて撮影しました。
富士の樹海と呼ばれる富士山の北西に広がる原始林で雨上がりを狙って撮影しました。遠近法で手前に伸びた樹木の根に張った苔がとても強調されています。まるで今すぐに動きそうなほどの存在感を出すことができました。
少し前の撮影になりますが、冬の北海道をこのレンズと共に旅したときのものです。流氷観測船の船上からの撮影ですが、近くの氷の大きさと遥か遠くまで延々と続く流氷を同時に画角に入れることができました。
④海外撮影
最後に、コロナ禍以前の2019年にこのレンズを使ってタイとミャンマーで撮影した作例をいくつか紹介したいと思います。
世界遺産のアユタヤ遺跡にある巨大涅槃(ねはん)仏です。そこで祈る家族の姿が印象的だったため夕日で伸びる影を入れて撮影しました。逆光での撮影でしたがゴーストやフレアの発生もなくクリアな写真を撮ることができました。
バンコクのインスタ映えで有名になったワット・パークナムという寺院です。アユタヤ王朝時代に建てられた王室寺院で、印象的なドームの天井画全体とさらに床への映り込みまでも画角に収めることができました。
ミャンマー最南端にあるタイとの国境の町コータウンです。約200の島々が点在しそこへのクルーズやダイビングの拠点となっています。タイからの船がひっきりなしに発着する港の桟橋で早朝に撮影しました。この時間帯の空の色合いがなんとも言えません。
あまり日本人には馴染みの少ないミャンマー東部のパアン周辺には、巨大な洞窟がたくさん存在しその一部が洞窟寺院となっています。洞窟の壁一面に刻まれた仏様はこのレンズを使ってもすべてを収めることができないほどでした。
まとめ
大きさもお値段も重量級のレンズですが星の撮影をする方には必修のレンズだと思います。オールマイティーに使うならXF10-24mmF4 R OIS WRのほうがおすすめですが、超広角8mmの遠近感は使っていると結構クセになります。個人的には海外に行けるようになった時には防塵・防滴・-10度の耐低温構造にもなっている本レンズをオーロラの撮影でぜひ使ってみたいです。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師