「FUJIFILM X-H2」は間違いなく富士フイルムXシリーズ史上、最高のカメラだ。
はじめに
動画性能・連写性能で話題となった富士フイルム「X-H2S」の発売から約2ヶ月という短いスパンで登場した「X-H2」。富士フイルムXシリーズで「H」を冠するカメラはともにフラッグシップ機ということですが、X-H2はより写真性能に重きを置いた高画素機です。その画素数はなんと4020万画素。「XF18mm F1.4 R LM WR」など、最近発売されているXレンズはまさにX-H2の高画素に適応するため解像力をパワーアップしたものであるため、富士フイルムのカメラ・レンズ開発の基準となっていたカメラなのではと感じています。
「X-H2S」は動画・連写性能に特化したカメラでしたが、そうではない風景・星景などのAFに頼らない撮影の場合、果たしてどちらがよいのか?また、APS-Cセンサーなのにそんな高画素で高感度性能は大丈夫なのか?という疑問は多くのユーザーが持っているはずです。
私は星空写真家を名乗っていますが、タイムラプスクリエイターとしても活動しています。すなわち、時間の経過が表現できれば星空に限らずどんな風景も撮影するということです。いつもはテキストの多い細かいレビューに定評のある私ですが(笑)、今回はテイストを変えて「X-H2」を使って撮影した作例をベースに、気になる高感度特性や私なりに感じた所感をお伝えしていこうと思います。
風景写真作例
X-H2で初めて撮影したもの。液晶画面にこの画像が写った瞬間、見とれてしまいました。高画素機ならではの透き通るような精密な描写に心奪われたのでしょう。空のグラデーションや、画像処理ではなかなか表現することのできない富士フイルムならではの発色と雰囲気。正直、このときはX-H2に期待していなかったのですが、この風景を撮影して「これはやばいな」とわくわくしたのを覚えています。
タイムラプス素材の1枚。NDフィルターがなく、シャッタースピードを落とすためにF16とかなり絞り込んでいますので少し回折現象があるかもしれませんが、それでも引き締まった立体感を感じます。
日没時刻に太陽とは反対側の空に出現する「ビーナスベルト」と呼ばれる現象。ピンクの帯がだんだん昇っていき、夜が訪れます。通常は広角側で撮影したくなる場面ですが、このときは2台のカメラで広角側・望遠側の2台体制で撮影しました。
日中の風景写真を撮影してみた感想
日中の撮影をしてみた感想ですが、低感度でのノイズが若干認められます。これは裏面照射型センサーに見られる傾向であるという見解もあるのですが、高画素機であることも関係しているのかもしれません。
しかしながら、特筆すべきはJPEGの良さで、RAWで撮影したものをレタッチなしでJPEGにしたものよりも、カメラ内でJPEGにしたもののほうがノイズが少なくなるように感じました。APS-Cセンサーで高画素化を実現したため、やはりノイズの発生は避けられないのでしょう。どうやらエンジンがかなり頑張っているというか、カメラ内での処理でデメリットを補っているのではないかと思います。JPEG撮って出し派には素晴らしい性能だと思います。
また、RAW現像時にノイズ低減を少しかけただけで、低感度時のノイズも気にならなくなりますので、マイナスポイントにはならないと思いました。
星景写真作例
星景写真を撮影する上で、高画素機のメリットはとにかく「星が小さく微細に描写できる」ことでしょう。とにかく細かく広がる星空を表現することができます。スタック処理でノイズを減らし、少し強めに強調するとさらに天の川の微細な構造や星のつぶつぶ感が増します。
通常は星ひとつが数画素にまたがって写されるのですが、高画素化することでまたがる画素が少なくなり、より細かい点像が表現できます。その分高解像に見合った解像ができるレンズも必要になるのですが、この感じは一度味わうとたまらない描写です。
バルブでの長秒露出と比較明合成を併用して表現。真ん中の太い光は月明かりです。天の川が写るような暗い場所では細かく撮影して比較明合成すると星が写りすぎてうるさくなってしまいますが、長秒露出であれば星が写りすぎずに柔らかい星の軌跡を表現することができます。星の色が出やすいのもこの撮影の特徴です。
長秒露出時はホットピクセルが出やすいのですが、X-H2は内部放熱処理が優秀なのか、ホットピクセルも少ない印象です。加えて、X-H2S同様に別売りの冷却ファンを装着可能で、気温・湿度の高い夏場での熱ノイズ抑制にはかなりの効果が期待できるでしょう。
ソフトフィルターを使用すると、明るい星が滲んで星座感を出しやすくなります。この作例では、シャドウトーンを-2に設定してETERNAで撮影しています。こうすることで余計なコントラストがつかず背景のムラを少なくして撮影することができます。
富士フイルムのフィルムシミュレーションはAdobeのソフトと相性が悪いのか、Lightroomに取り込んだ時点でAdobeカラーというカラープロファイルが割り当てられ、想定していなかった色に変換されることがあります。カラープロファイルをAdobeニュートラルに設定することでこれを回避することができます。
高感度性能について
X-H2SとX-H2どちらが星空撮影に向き?
これは気になる方が多い話題でしょう。高画素であるが故に高感度撮影時のノイズはどうなのか?に注目してみます。左がX-H2Sで右がX-H2です。私の設定ミスでX-H2Sのほうが少し感度が高い設定で撮影しまったのですが、画像処理時に明るさを合わせています。
これを見て最初に思ったのは「X-H2が意外に頑張っているな」ということです。ノイズレベルに関してはX-H2Sとはさほど変わらず、同じカメラで撮影したのか?と思わせるほどです。ただ、X-H2のほうが少しグリーンが強いようで(もともとの富士フイルムの特徴でもある)、画像処理のしやすいさではX-H2Sのほうが癖がないかもしれません。
ただ、高画素ならではの細かい星の描写はさすがで、X-H2と比べるとX-H2Sでも少し星がぽっちゃりめに感じてしまいますね。X-H2のほうがグリーンが強い分、光害の多い環境ですと背景ムラが起こりやすいかもしれませんが、画像処理時にグリーンの彩度を下げる処理で取り除くことができるでしょう。
また、JPEG撮って出しですと明らかにX-H2のほうがノイズ処理が優秀だと感じました。夜景などの暗所での撮影でJPEG撮って出し画像だとX-H2Sだとノイズが多く感じるでしょう。しかしながら、シャドー部の描写・ダイナミックレンジは画素の少ないX-H2Sのほうに分があるように感じました。どちらにもメリットが存在するため、なかなか甲乙つけ難いところです……。
最もコンパクトな8Kタイムラプス撮影機!
X-H2は、4020万画素(7752×5183)ありますので、8K(7680×4320)でのタイムラプスムービーが制作できる唯一のAPS-C機です。
こちらのタイムラプスは前半がX-H2、後半がGFX100Sで撮影したタイムラプスムービーです。タイムラプス撮影を主軸する私にとってはこのコンパクトさは非常に扱いやすく大きな魅力になっています。
実は8K動画も撮れる!!唯一のAPS-C機
実はAPS-Cセンサーで8Kが撮影できるカメラはX-H2だけです。そんなカメラは他に存在しません(2022年12月現在)。8Kで動画制作を行うことは一般ユーザーではあまりないかもしれませんが、8Kからオーバーサンプリングした4Kが扱える(8Kで撮影したものを4Kに変換すると高画質になる)ところは非常に魅力です。4Kで動画制作を行なっているユーザーにも注目の機能と言えると思います。
砂漠が思いのほか歩きにくく、ジンバルを使ってもブレがありますが、こうした高解像な動画をこのサイズで撮影できるのは表現者としては大変魅力です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。トータルバランスに優れており、どれかひとつの観点だけでの評価をするのが難しいカメラだと思いました。間違いなくXシリーズ最高の機種であり、富士フイルム写真機のフラッグシップにふさわしい性能だと感じています。みなさまもぜひこの凄さを味わっていただけたらと思います。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員