劇的進化に驚いたカメラ「富士フイルム X-H2」|佐々木啓太
はじめに
今回紹介するカメラは富士フイルムのX-H2です。発売日は2022年9月。前回のX-H1の流れからレビューすることになりましたが、驚いたのは劇的に進化していたことです。
主な仕様
X-H2 | X-H1 | |
発売日 | 2022年9月29日 | 2018年3月1日 |
有効画素数 | 4,020万画素 | 2,430万画素 |
手ブレ補正 | 7.0段分 | 5.5段分 |
メディア | SDカード SDHCカード SDXCカード UHS-1 UHS-2 対応 ビデオスピードクラスV90対応 / CFexpress Type Bカード |
SDカード SDHCカード SDXCカード UHS-1 UHS-2 対応 |
シャッタースピード | メカニカルシャター Pモード:4秒~1/8000秒 メカニカル+電子シャッター Pモード: 4秒~1/180000 秒 |
メカニカルシャター Pモード:4秒~1/8000秒 メカニカル+電子シャッター Pモード: 4秒~1/32000秒 |
電池 | 充電式バッテリーNP-W235 | 充電式バッテリーNP-W126S |
本体寸法 | 幅: 136.3mm 高さ: 92.9mm 奥行き: 84.6mm (最薄部: 42.8mm) |
幅:139.8mm 高さ:97.3mm 奥行き:85.5mm(最薄部39.5mm) |
質量 | バッテリー、メモリーカード含む: 約660g | バッテリー、メモリーカード含む: 約673g |
ボディのサイズは数値以上にコンパクトになった印象で、背面モニターがチルト式からバリアングル式になっています。個人的にはバリアングルなら背面モニターを閉じることができるので、ファインダーを覗いたときに背面モニターに鼻の脂がつかないので好みです。
進化のポイント
描写はさらに繊細になり、手ブレ補正はしっかり効くようになっています。さらに細かいものに対するAFの精度は比較できないほどよくなっています。世代が上がっているので当然ですが、実際に使ってみると感動すら覚えました。あとはバッテリーライフも驚くほど良くなっています。今回の撮影でも4時間から5時間程度で撮影枚数が700枚から1300枚程度でしたが、1本のバッテリーで少し余裕がある感じでした。
細かい描画が美しく、ボケもより滑らかになっています。
少し離れた小さな花にAFでピントを合わせても、迷いがなく1発で決まるので撮影中のストレスがフリーになる喜びがあります。
手持ちの1/6秒はかなりブレやすいシャッタースピードですが、しっかり止まってくれました。自分に向かってくる人物をブラすときは、横に動いているときよりシャッタースピードを遅くした方が動いている感じがでやすいので嬉しい進化です。
画質に関しては画素数が大幅に上がっているのであまり驚きはなかったですが、想像以上だったのがAFの進化でした。X-H1は細かい被写体にAFでピントを合わせるのが少し苦手だと感じることがありましたが、X-H2では全くそれを感じることはありません。以前、フジフイルムスクエアでX-H1ユーザーのスタッフの方にお話を聞いたときも、AFに関してはかなり進化していると教えていただいていたので実際に使って実感できました。
手ブレ補正に関してはかなり厳しい言い方をすると、やっと使えるレベルになったと思います。これはX-H2に限らずXシリーズの第5世代も同じ印象です。
小さな発見を楽しむ
X-H1のレビューでも紹介したように、このカメラシリーズを使うときは自然風景を撮りたくなります。これは防塵防滴性能などの基本性能が高く、しっかりしたグリップもあるので手持ちで動きやすいというのがポイントです。今回は画質がより繊細になったので、XF90mmF2 R LM WRは主に絞りを開放にしました。
今回使ったフィルムシミュレーションはクラシックネガとノスタルジックネガで、どちらもディテールの再現力がとても良いので風景にあっていると思います。クラシックネガはニュートラルな色みで青や緑の再現が良く、ノスタルジックネガは少しアンバーになります。
小さな花がまばらに咲いた桜を見つけて、枝ぶりの美しさを意識しながら切り撮りました。
芽吹いたばかりの新緑が森の中でダンスをしているように感じてレンズを向けました。
春霞ごしの太陽をバックに、芽吹きを待つ枝の精細さを狙いました。光が強いので流石に少し絞りを絞り込んでいます。
撮影したのは高尾山です。高尾山には何度も撮影に行ったことがありますが、そのたびに新たな発見があります。今回のように中望遠レンズを1本だけ持っていていくとその発見だけを切り撮る目線になるので、風景の全体を撮ることより気になるポイントを見つけることに集中しました。三脚は持っていかないので微妙なアングル選びを楽しみやすいですが、登山されている方が来たときは撮影をやめて避けるようにしています。シャッター方式はメカニカル+電子の設定です。
モノクロでむかし道
次に撮影にでかけたのは奥多摩むかし道です。この道はJR奥多摩駅から奥多摩湖まで約10キロあります。この日はJR奥多摩駅から3キロちょっと歩いて帰ってきました。撮影をしているとなかなか前に進まないことがあります。特に自然路のある山道では焦りは禁物なので、ゆっくり歩いて日が傾きかけたら行程の途中でも無理をせず帰るようにしてください。
モノクロの撮影では最初にその日の太陽の状態を確認します。これだけ強い光が入っていてもトーンの再現力が高いので安心感があります。
奥多摩むかし道はこんな自然路と舗装路が組み合わさっています。歩いていると案外自然路の方が疲れない気がします。靴をミッドカットのトレッキングシューズにすると足首が固定されるので、自然路では断然歩きやすくなります。
少し広めのレンズで、桜だけを切りとれるアングルを探すことを楽しみました。アングル探しのポイントは前後左右の動きだけでなく、上下の動きも試すことです。桜の花びらの繊細さに高画素機らしい描写を感じます。
この場所の雰囲気も一緒に撮影しました。この木の美しさも周りの風景が入ると一段とわかりやすくなります。
モノクロは難しいと言われることが多いですが、慣れてくればとてもシンプルに撮影できます。ポイントは光で、撮影を始める前は必ず光の向きを確認して、基本は逆光や半逆光を使うことです。そうすると影の存在感が上がるので、モノクロらしい強さをだしやすくなります。撮影コースを太陽に向かって歩くようにすると撮影しやすいはずです。
あとは余談ですが、周りの風景を入れながら撮るときもモノクロの方が余分なものが目立ちづらくなります。例えば上の周りの風景を入れた桜の写真でも電線があまり気にならず、白い桜の花が風景の中で目立っています。
モノクロ旅~銚子~
今回のモノクロ旅は銚子に行きました。この日は薄曇りでしたが、たまに日差しがあって穏やかな風がある天気でした。そんなのんびりした銚子にあった天候に恵まれて、撮影枚数も多くなりました。銚子はちょっと遠く感じる場所ですが、訪れてみるとのんびりした空気が流れていて心地よく、お気に入りの場所です。
銚子といえば銚子電鉄は外せないので、この日も1日乗車券の弧廻手形を車内で購入しました。まずは定番を押さえるのも旅写真の醍醐味です。
この犬吠埼灯台も定番中の定番です。本来は犬吠駅からというのが最短コースですが、あえて一つ手前の君ケ浜駅で下車して君ケ浜海岸から回るとこんな感じでひらけた風景と一緒に灯台を撮ることができます。
タイミングを切りとるのは写真の醍醐味を感じる瞬間です。こんなタイミングを狙うときに改めてフェザータッチのシャッターボタンのありがたさを実感します。ちなみに顔を入れないのは敢えてです。その方が写真を見た人のそれぞれの記憶に繋がりやすいと思っています。このあとはすぐに電車に乗りました。撮影に集中しすぎて周りに迷惑をかけないためにも、タイミングはワンショットで決めるつもりで撮影しています。
猫はその仕草がとてもフォトジェニックで思わずレンズを向けたくなります。外川漁港の近くにいる猫ちゃんでとてものんびりしていましたが、私がこれ以上近づくと警戒されます(笑)。このときは草ごしだったのでAFの測距点を小さくしました。通常はデフォルトのサイズで十分です。
最後はなんでもない一コマです。私はこの風景に外川らしさを感じました。この街に訪れたことがあるとわかるかもしれませんが、坂の上から海に向かって名前のついた8つの坂があって、その坂をつなぐ横道が良い感じで、そんな横道の一つを撮影したのがこの写真です。
今回のレビュー中に気になったのは、AFの測距点を動かすフォーカスレバーがもう少し滑らかに動いてほしいと思ったことです。これはむやみにフォーカスレバーが動いて誤動作になるのを防ぐためと考えることができる範疇でしたが、このシリーズのカメラを使うときは、構図を決めてから狙いに合わせてAFの測距点を動かすことが多いので少しだけ気になりました。構図を決めてから測距点を動かすと構図が安定しやすい利点があります。あとは電子シャッターの音が変わったことでした。個人的にはX-H2の方がメカニカルシャッターを押しているようで、しっとりした感じが心地よく気に入りました。
まとめ
デジタルは最新が最良。以前、カメラ雑誌でレビュー記事を書いていたときに感じたのがそんなことでした。それから何年も経ち、カメラの機能もそこそこ落ち着いてひと世代ぐらいの変化ではあまり変わらないようにも感じていましたが、やはり今回のX-H2の印象は、最新は最良でした。
今回のレビューでは使っていませんが、動画機能も充実しているのもポイントでしょう。個人的にはフェザータッチのシャッターボタンや設定情報をひと目で確認しやすいサブ液晶モニターなどX-H1から引き継がれた機能も良く、手に収まる感じがさらに上がっていたので、また風景を撮りたくなりました。
■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。