#09 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
はじめに
みなさん、こんにちは。フォトグラファーのコハラタケルです。
「なんでもないただの道が好き 街撮り講座」9回目の記事です。今回は写真において重要な空の見せ方について話していきます。
空を入れるか入れないかで写真の印象は変わる
僕が街を撮影していて重要だと思うことのひとつが空です。これは大自然が広がる絶景でも同じことが言えるのですが、写真は空を入れるか入れないかで印象が変わります。
先に結論から話すと僕は街撮りに関して空を入れずに済むのであれば入れないようにして撮ります。
入れたらダメというわけではなく、街での撮影というのは何も気にせずに撮影すると空は勝手に入るからです。次の写真もわかりづらいかもしれませんが左上に空が入っています。
こちらの写真も空が入っています。
僕の経験上、街撮りでは空を入れずに撮れる場所のほうが少ないです。撮れる場所が少ないということは撮ることが難しいということですから、空を入れずに撮れるのであれば入れないようにして撮っています。
最初に話した通り、空が入った写真というのは意識しなくても撮れます。この記事を読んでくれているみなさんも一度、街撮りしたときの写真を見返してみてください。空が入っている写真はたくさんあるのではないでしょうか。
もちろん、ある程度モデルさんに寄って壁を背景にすれば空を入れずに撮るのは簡単です。これは誰でもできます。
また、中望遠から望遠レンズの場合、広角レンズに比べて圧縮効果があるため空が入らない写真を撮りやすいです。
しかし、僕は写真に空が入りやすい標準・広角のレンズで空を入れないようにして撮るということにこだわりを持っています。
お気づきの方もいると思うのですが、shashaの記事では23mm(フルサイズ換算で約35mm)のレンズしか使っていません。広角と標準の間に位置するこのレンズで引きの写真を撮りつつ、いかに空を入れないか。難しいからこそこだわりを持って取り組んでいます。
引き写真で空が入らないロケーションを探す
高層ビルや雑居ビルが建ち並ぶ街であっても、モデルさんから引けば引くほど空は入りやすいです。油断すると空はほんの少しの隙間からでも顔を出してきます。こちらの写真をご覧ください。
背景に雑居ビルが建ち並び、ビルとビルの隙間から光が差していたので、光が当たる場所へモデルさんに立ってもらい撮影したシーンです。
僕はおもしろい背景(ここでは引きつつも空が入らない場所)を見つけたときはいろんな角度からの撮影を試してみます。先ほどの写真のようにモデルさんを真横から撮影したときは空が入らなかったのですが、角度を変えて撮影すると……
左上にご注目ください。ビルとビルの間に空が入ってしまっています。もう少し僕が立ち位置を右に移動し、カメラを構える角度を変えて撮影していれば建物で空を隠して撮影することができました。
「別に空が入っていてもいいのではないでしょうか?」
それは正解でもあり不正解でもあります。実際、僕はこの写真が好きなのですが、今見返すと空を入れないほうがよかったと考えています。なぜかというと”空のほうに目移りしてしまうから”です。
以前の記事で「隙間って自然と目が向かいませんか?」という話をしましたが、まさにそのパターンです。今回でいうと、写真を見ている人の視線をもっとモデルさんのほうへ誘導したかったので、左上の空は入れないほうがよかったです。
写真は余白の調整が重要
例えば、テーブルフォトで主役の料理があって、余白を埋めるために副菜や器、ドライフラワーなどを使うことがないでしょうか?
余白というのは写真全体をスッキリとした印象にすることもできますが、逆に視線が奪われてしまうこともあります。僕が街撮りで空を入れないことを意識するのは、このテーブルフォトのときの余白を埋める流れと似ています。
雲の量にもよるのですが、僕は基本的に空を余白と捉えています。次の写真をご覧ください。
この写真を見たとき、おそらくほとんどの方はモデルさんかガラスに写っている空、または実際に見えている空か走っている電車、もしかすると通行人が気になるのではないでしょうか。モデルさんへ視線誘導させるというよりは写真全体を見せたい場合の撮り方です。
そこでもう少しモデルさんがいる場所へ視線誘導するために道路標識を使って空が写る面積を減らしてみました。
通行人もいないタイミングだったため、先ほどの写真に比べるとモデルさんへの視線誘導に成功しています。しかし、これでもガラスに写っている空や電車が走っている付近の空にも視線が向かいます。
空の余白というのは想像以上に主張が強く、モデルさんに近い写真であっても視線が向かうポイントになります。
どうでしょうか? 一番最初に視線が向かう場所はモデルさんの表情やリボンだと思うのですが、次に空のほうにも視線が向かわないでしょうか。
何度も言いますが、空を入れた写真がダメということではなく、空は視線が向かうポイントになる可能性があるということを理解しておいてください。
空を基準に縦で撮るか横で撮るのか考える
僕はモデルさんを撮影するとき1回の撮影でいかにバリエーション豊富に写真を撮れるのかということを意識しています。今回、話している空を入れるか入れないかも同じです。空を入れた写真も撮れば入れない写真も撮る。どちらが良いか悪いかではなく、両方とも残すということを意識しています。
先ほどの写真をご覧ください。
このシーンも横で撮るか縦で撮るかで見え方が変わります。
撮影する立ち位置とモデルさんとの距離、さらにカメラの角度を変えることでガラスに反射して映っていた空も消えるように調整しました。
モデルさんがスカートを持ち上げてくれたことにより動きも感じられる写真になったため、最初に見せた写真よりもこちらの縦写真のほうが印象的かつモデルさんへの視線誘導が強くなりました。
さらにもう一枚、空を入れないパターンの写真をご覧ください。
別のロケーションも見てみましょう。
こちらもほぼ同じ場所で撮影していますが、空が入っているかいないかで大きく印象が変わったのではないかと思います。
人によって見方は異なりますし、印象が変わった要因は空だけでなく、構図や光なども関係しています。
ただ、今回の話はそんなに難しい話をしているのではなく、空を入れるか入れないかだけで写真の印象が変わること、そして空は視線が向かうポイントになる可能性があるということを覚えておいて欲しいです。
おわりに
街を歩いているとき、引きつつも空が入らないギリギリの場所を探してみてください。空が入らない場所を探すのは意外と難しくて面白いですよ。
■モデル:五味未知子
■写真家:コハラタケル
フォトグラファー 1984年生まれ、長崎県出身。大学卒業後、建築業の職人を経てフリーのライターに。その後フォトグラファーに転身。セクシー女優たちのデジタル写真集”とられち”シリーズ撮影担当。#なんでもないただの道が好き発案者。
コハラタケルさんの連載記事はこちら
#01 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483346238/
#02 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483447191/
#03 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/484139215/
#04 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/484640119/
#05 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485002016/
#06 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485619414/
#07 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485890267/
#08 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/487918071-20220514/