#02 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
はじめに
こんにちは。フォトグラファーのコハラタケルです。今回も前回に引き続き、僕が大好きな街撮りについて解説していきます。みなさん、隙間と枠は好きですか?
モデルさんに”隙間”と”枠”の中に入ってもらう
僕はモデルさんに”隙間”と”枠”の中に入ってもらうのが大好きです。写真表現のなかでも定番ではあるのですが、意外と奥が深い撮り方だと考えています。
「#01 なんでもないただの道が好き 街撮り講座」でも話したのですが、ポートレートでは視線誘導が重要だと考えています。隙間や枠に何かが収まっていると、意識がそこに集中しないでしょうか。
隙間や枠のなかに人物を配置することで、自然と視線誘導しやすい写真にすることができます。先に見せた2枚の写真は、手すりの隙間からと支線カバーの隙間からということでわかりやすい例だったと思うのですが、ほかにも影と影の隙間や枠に入ってもらうという方法もあります。
わかりやすいように影の部分を線でなぞってみました。
隙間や枠というのは探せば意外と多く、影に関しても僕は隙間や枠として捉えて写真を撮ることがあります。
次はクイズ形式でいきましょう。まずは人物がいない状態で写真をお見せします。みなさん、僕が人物をどこに入れるか、わかるでしょうか。
正解はココです。
さすがに簡単すぎたかもしれません。ただ、今回は写真(結果)で見せているのでわかりやすいですが、実際、現地を歩くと通り過ぎてしまう人もいるのではないかと思います。
次の写真はどうでしょうか。わかりますかね。
答えはココです。
「???」という人もいると思うので、こちらも写真に線を入れて解説します。
というわけでは答えは怪物の口の隙間でした。見る人によっては「そこは隙間じゃないでしょう」という人もいると思いますが、そこが写真のおもしろいところです。
今回の写真でいうと、撮る人によっては右下の方に人物を配置したかもしれないですし、奥に進んでもらって怪物の瞳のところから顔を出してもらっていたかもしれません。
絶景ロケーションでは「この構図じゃないとダメかな」という場合もあるのですが、今回のような街撮りの場合は撮る人の感覚によって構図も切り取り方も変わるのが、僕が街撮りの好きな理由でもあります。
モデル側の行動に余白を残しておく
隙間や枠に収まってもらうというのは視線誘導の役割もあるのですが、モデル側の気持ちを考えても効果的な方法だと考えています。例えばですが、「ここに立って欲しい」と指示を出して立たせると、本当に立っているだけになってしまう場合が多いです。
撮られ慣れている人であれば「ここに立って欲しい」という指示出しだけでも、いろんなポージングをしてくれることもありますが、撮られ慣れていない人を撮るときもあるでしょう。
語弊があるといけないので先に補足しておくのですが、僕は立っているだけというのは好きで、よく撮ります。決して失敗写真ではないということをここではお伝えしておきたいです。
ただ、1度の撮影のすべてでモデルさんが立っているだけというのも、それはそれで味気ないのも事実で、やはり変化が欲しいです。そういうときにも隙間や枠は役に立ちます。
もう一度、最初の写真をご覧ください。
このときの僕の指示は「この隙間から顔を出して欲しい」というものでした。実際に僕も写真のようにポージングした僕の姿をモデルの子に見せているのですが、手の位置や握り方などの細かい指示は出していません。あくまでここから顔を出して欲しいという簡単な指示出しで済ませます。
「立って欲しい」という指示出しだと、ただ立ってしまうだけになってしまいことが多いのですが、今回のように隙間や枠に人物を配置すると、その人、独自の行動をしてくれる場合があります。ここが重要です。
今回の写真でいうと表情や握る位置はモデルの子が勝手にやってくれました。右手はしっかり握っているのに対して、左手はなぜか人差し指だけ伸びているのも個人的には好きなポイントです。このように指示を出しすぎないことで”モデル側の行動に余白を残しておくことが大切”です。
支線カバーの写真も、もう一度、見てください。
「中途半端に上がった左足」
「身体の傾き方も絶妙」
「右手は支線カバーに触っているけど、左手は微妙に触れていない」
このような細かい動作も僕は何も指示を出していません。支線カバーの隙間に入って欲しいという指示出しだけで済ませることにより、行動に余白を作ったからこそのポージングだと考えています。
モデル側の気持ちを考えて、なるべく自然に。
最後にこちらの写真をご覧ください。
写真の余白や構図のバランス、収まり方を考えると「もうちょっと顔の近くで握ってもらったほうがよかったかな」とか「頭の上側の余白がもうちょっと欲しかったな」とも思うのですが、このなんとも言えない表情や手の位置というのは、ここにしかないものという感じがして、すごく好きな一枚です。
モデル側の気持ちを考えても、手を添える場所や枠に収まるという行動が入ることで、より自然な雰囲気を出しやすいのかなと思います。実際、僕も仮にモデル側になったとして「ここに立って欲しい」という指示出しよりは「この枠から顔を出して欲しい」という指示出しのほうが自然にできると思います。
隙間と枠の中に入ってもらうというのは視線誘導の役割もあるのですが、モデル側の気持ちを考えて、なるべく自然に行動できるようにしてもらうというのが本来の目的なのです。
まとめ
僕は隙間や枠に入ってもらうのが好きという話をしましたが、あなたの好きを探してください。そこに写真のヒントが隠されています。
そういうものは無意識のうちにやっている場合が多く、今回の僕の記事のようにできれば一度、文章に書いたほうが良いです。そうすることで別のロケーション、別日での撮影でも同じテクニックを使うことができます。
写真はその日にしかない現象を写すことも大切ですが、自分が持っているテクニックを別現場でも同じようにすることができる”再現する力”も重要です。
■モデル:五味未知子
■写真家:コハラタケル
1984年生まれ、長崎県出身。大学卒業後、建築業の職人を経てフリーのライターに。ライター時代に写真の勉強を始め、その後フォトグラファーに転身。企業案件の撮影ほか、セミナー講師や月額制noteサークルを運営している。ハッシュタグ#なんでもないただの道が好き の発案者。
コハラタケルさんの連載記事はこちら
#01 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-pro3-6-20210912/