富士フイルム X-S10|肌をキレイに描写できてモデルにも喜ばれる! 小さくてもスゴイやつ!
はじめに
筆者はフィルムの時代から富士フイルムのカメラを愛用していますが、ここ数年の同社のデジタルカメラを見ているとそのスペックが年々高まっていることに驚きを隠せません。中でもポートレートのジャンルにおいては富士フイルムのデジタルカメラは非常に優秀と言えるでしょう。
2020年11月に発売されたFUJIFILM X-S10は、コンパクトでありながらポートレート撮影に向いているカメラです。一昔前までは、モデルさんの撮影というとフルサイズの大きなカメラ、いわゆるプロ機で撮影するようなイメージがありましたが、X-S10はボディ単体で約465gと小さく、そしてAPS-Cにもかかわらず描写力に優れています。カメラ側で細かい設定をしなくても発色のよい写真になり、なにより肌がきれいに写るのが本機の最大の特長であると言えます。
イメージセンサーの「X-Trans CMOS」はフルサイズ機に匹敵する性能があると言っても過言ではなく、ハイライトからシャドウ部までダイナミックレンジが広く、階調豊かに表現できるのも、ポートレート撮影において高いパフォーマンスを発揮してくれます。他機種でJPEG撮って出しだと、色被りをしてしまい肌に余計な色が乗ってしまうことが割とありますが、X-S10ではそのような心配がなくJPEG撮って出しで十分に美しい一枚になります。そして、裏を返せばRAWデータを編集すればより美しく表現することも可能ということでもあります。
今回は、そんなX-S10を用いて、ポートレート撮影におけるちょっとしたティップスをご紹介したいと思います。
小型ボディで自然な表情を引き出す
前述の通り、X-S10は約465gと非常に軽いカメラです。軽いということはロケーション撮影の際に、持っていく機材の種類を増やせるということでもあります。レンズはもちろん、ストロボやライトスタンド、ソフトボックスなど重い機材が多々ありますが、カメラが小さい分移動にかかる負担は軽減できるでしょう。
また、コンパクトなボディのメリットはそれだけではなく、「圧迫感がない」ということも大きなメリットでもあります。特に撮られ慣れていないモデルさんの場合、大きなカメラや大きなレンズを向けられると萎縮してしまうものです。しかし、X-S10のように小さなカメラであれば緊張感も抑えられ、より自然な表情を引き出すことも可能となります。
ハイ・ローアングルに対応できるバリアングル式モニター
筆者は基本的にファインダーを通して撮影することが多いのですが、もし読者の方が初心者であれば「バリアングル式タッチパネル付きTFTカラー液晶モニター」を活用してみるのもよいでしょう。特にバリアングル式のモニターは高いところから撮るハイアングル撮影、低いところから撮るローアングル撮影に向いています。脚立がある環境ならファインダーでハイアングル撮影できますが、脚立がない環境のほうがほとんどでしょう。そういうときは積極的にバリアングル式モニターを使ってみるのもいいですね。
また、その際におすすめの機能が「タッチショット」です。スマートフォンのカメラと似たような感覚で、モニターにタッチしてピントを合わせ、シャッターを切ってくれる機能です。もちろん、ハイ・ローアングル撮影時にシャッターボタンを使ってシャッターを切っても問題ありませんが、撮影者の目とモニターの距離が離れている以上、より正確にピントを合わせるならモニター上の被写体をタッチするほうが確実でしょう。
ポートレートには心強い瞳AF
ポートレート撮影において瞳にピントを合わせることは重要です。さらに言えば、ピントを合わせる瞳は手前側が原則です。なぜなら、日常生活の中で横向きの人の目を見るとき、最初に見る部分は自然と手前側になるからです。奥側の目を見る人は少数、またはほぼいないでしょう。よって、奥側の瞳にピントが合っていると違和感が生まれるので、必ず手前側の瞳にピントを合わせます。
瞳にピントを合わせる際は「顔瞳AF」を活用するとよいでしょう。X-S10は前述の「X-Trans CMOS 4」と優れた画像処理エンジン「X-Processor 4」によって最速0.02秒の高速AFが可能です。構図を決めるだけで、カメラ側で素早く瞳にピントを合わせてくれるので、撮影者のシャッターを切るテンポが上がっていくメリットがあります。また、仮にモデルさんに動いてもらっていても追従して瞳にピントを合わせてくれるので、撮影者側の機動力も大幅に上がるでしょう。
暗くてもピントを外さない優れたAF性能
肉眼で見ると一見明るそうに見える場所でも、カメラを通すと思った以上に暗く写ります。特に室内での撮影では露出の設定次第では真っ暗に見えることもあるでしょう。もちろんAFも思ったように動いてくれないことも多々あります。その場合、露出を上げれば解決しますが、たとえば上の写真のようにしっとりとしたイメージで撮ろうと思うと、露出を上げることは本末転倒です。
X-S10は低輝度環境の撮影に向いたカメラです。つまり、暗い環境下でも瞳にピントを合わせることができ、アンダー気味で撮影しても問題なくAFを使うことができるのです。また、暗い環境下での撮影はシャッター速度が遅くなりがちですが、しっかりとカメラをホールドして撮れば問題ないでしょう。なぜなら、X-S10には最高5軸6段の防振ユニットが搭載されており、手ブレを最大限に抑えてくれるからです。
輝度差があるシーンではヒストグラムで露出を確認
上の写真は室内で、カーテンの隙間から漏れる光を活かした一枚です。光の当たる肌の部分と黒い服、そして背景に、輝度差、つまり明るさの違いが発生しています。しかし、X-S10はダイナミックレンジに優れたカメラであるため、白トビ黒つぶれのない写真に仕上がっています。ただ、ダイナミックレンジが広いとは言え、撮影した段階で白トビ黒つぶれがあるとRAW現像でも修復できなくなるので、撮影時にはヒストグラムをファインダー内または液晶モニター上に表示して、ハイライトとシャドウ部に気をつけるように心がけましょう。ヒストグラムは右側がハイライト、左側がシャドウで、山となる部分が右端にピタリとくっついていると白トビ、左端にくっついていると黒つぶれを起こしていることを示しています。このヒストグラムの山の位置をよく確認しながら撮影しましょう。
室内でノンストロボなら高感度撮影で
暗い室内での撮影でまず思いつくのは、ストロボを使った撮影でしょう。しかし、ストロボを使うとたとえば窓から注がれるナチュラルな光を活かすことができなくなる上、ストロボの光の当て方が悪ければ硬く不自然な印象になりがちです。特に初心者であるほど、ストロボにハードルを感じる方もいるかもしれません。その場合は、思い切ってISO感度を上げて撮影してみましょう。「ISO感度を上げるとノイズが乗るんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、X-S10はAPS-Cセンサーにもかかわらず高感度ISO性能を発揮します。人それぞれの印象があるのは否めませんが、ISO3200程度までであれば多少ノイズが乗ってもディテールはしっかりと維持しており、肌の写りにも支障をきたしません。
キツいコントラストはトーンカーブで対応
コントラストが強くなってしまうシーンでは、あとからRAW現像でコントラストの値を弱めたりする方も多いのではないでしょうか? 撮影時にある程度コントラストを調整しておけば、JPEG撮って出しでも十分ですし、RAW現像をするにしても編集の負担が減るのでおすすめです。コントラストの調整に使う機能が「トーンカーブ」です。X-S10はハイライトとシャドウのトーンを13段階で調整することができます。
ではなぜトーンカーブを使うのか。多くのカメラの設定にはコントラストを調整する機能がありますが、これをただマイナスにするだけだと、一律的にハイライトが下がりシャドウが上がることとなり、その結果、のっぺりとしたいわゆるネムイ写真となってしまうのです。一方トーンカーブでハイライト、シャドウをそれぞれをコントロールすることでイメージ通りのコントラストにすることが可能となります。もちろんコントラストを強める際もトーンカーブは有効です。
トーンカーブはX-S10の静止画撮影画面で「MENU/OKボタン」を押して、「画質設定」のタブから選択することができます。撮影環境と自分のイメージに合わせてハイライトとシャドウをコントロールしてみるとよいでしょう。
ポートレート撮影に最適なフジノンレンズ XF23mmF1.4 R
ポートレート撮影におけるレンズワークは多種多様です。その中でも、35mm判換算で35mmのレンズはスナップ的に撮れる画角なのでおすすめのレンズです。ポートレートというとどうしても人物がメインになりがちですが、その場の状況も同時に写すことでより雰囲気を出すことができ、ドラマチックな印象になるものです。
とはいえ、35mmの画角はやや広角であり、広角レンズの特性上ボケにくくなります。そこで、フジノンレンズ XF23mmF1.4 Rのような明るいレンズ、つまり最小絞り値が小さいレンズを使うとよいでしょう。上の写真はF2.2で撮影したものです。標準〜望遠域のレンズでF2.2にして撮ると、背景は相当ボケますが、23mm(35mm判換算で35mm)ならほどよくボケてその場の雰囲気を残しつつ、モデルさんの存在感も際立たせることができます。
一般的に絞りは開放で撮るよりもやや絞って撮るほうが、解像感が増すと言われています。明るいレンズを買って嬉しくなって絞り開放で撮るのももちろんよいですが、ときにはやや絞って撮ると解像感の違いに気づくはずです。上の写真もフジノンレンズ XF23mmF1.4 Rで、絞りをやや絞ったF2.0で撮影した一枚です。瞳やまつ毛はもちろんですが、髪の毛一本一本まで解像感高く描写しています。「せっかく明るいレンズなのに絞って撮るとボケなくなっちゃうなぁ」と思われる方もいるかもしれませんが、背景をしっかりボカしたいなら思い切ってモデルさんに寄って撮影してみましょう。ボケは被写体との距離が近くなる程大きくなります。ただ、あまり近すぎるとモデルさんがびっくりするので、ほどほどに。
まとめ
ポートレート撮影で重要なことは多々ありますし、なにを重視するかは人それぞれでしょう。しかし、「モデルさんの肌をきれいに写す」「光と影を意識する」ということは普遍的なもの。ご紹介した写真をご覧いただければわかる通り、X-S10は肌の描写とダイナミックレンジの広さ、そして色の再現性に優れているだけでなく、高いAF性能や高感度性能などの撮影者にとって助かる機能が数多く含まれた、ポートレート撮影に優れた機種と言えるでしょう。すでにポートレートを撮影されている方も、そしてこれから始めようと思っている方も富士フイルムのカメラをご一考してみてはいかがでしょうか。
■写真家:高橋伸哉
写真家 単書「写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか?」などを出版。雑誌などにも幅広く写真を提供。オンラインサロン「写真喫茶エス」を立ち上げて現在400名近い人が参加。全国でオフライン、オンラインにて学びの場を提供している。