第五世代のエースになるか?知っておきたいFUJIFILM X-T50の進化と真価
人気シリーズ X-T二桁機とは
どこかを見たら書いてあるスペックや数値はおいておいて、ここでしか読めないX-T50について書けたらと思います。
X-T50から10年も前の2015年のこと。X-T二桁機と呼ばれるシリーズが登場すると聞き、出来たばかりのX-T10を使ってみました。当時のフラッグシップであったX-T1と画質では完全に同等。ファインダー倍率、防塵防滴や連写性能ではしっかり差がつけられていたものの、圧倒的に安くて魅力的でした。
忘れられがちですが安いだけでなく軽くて小さいため、X-T1を買えるとしても積極的にX-T10を買うかもと言われたほど。これは売れるだろうなと思ったことを覚えています。それくらいインパクトがありました。
その後にX-T10の魅力について話す機会があり、「写真はすごく好きだけれど他にも大切なものがあるという人たちのためのカメラ」だと言いました。例えば犬を散歩させるときにカメラを持ち歩きたいとか、子育てが大変とか、旅行が趣味でバックパッカーだから荷物をなるべく軽くしたいとか。
X-T5はフラッグシップとしたら軽くて小さく、価格も控えめながら、それでもやはり写真のために何かを犠牲にして使うカメラです。それくらいの気持ちでないとポテンシャルが余ってしまう。けれども写真ファンが全てそんな気持ちでいられるわけではありません。むしろ多数派はカメラも好きだけれど他にも趣味がある人たち。X-T二桁機が主力になり、その上にX-T一桁機が控えているのが理想のラインナップに思えます。
待望のX-T50
登場してすぐに多くの人たちに愛されたおかげで、正常進化と言えばいいのか、センサーとプロセッサーが進化するたびX-T二桁機はモデルチェンジを繰り返してきました。X100VIが六代目、X-T5が五代目、それに次ぐ四代目の人気シリーズ。
本来ならばX-T40のはずが、その名前をスキップしたのは一気に飛躍して違うステージに立ったという主張かもしれません。
例によってフラッグシップであるX-T5と画質まわりは同等。第五世代のセンサーとプロセッサーを搭載して40MPになりました。5軸7.0段のボディ内手ブレ補正も互角で、連写性能と防塵防滴で差がつけられているものの価格が安く、小さく軽いのもシリーズの特徴を引き継いでいます。438gなので最も軽いXF27mmF2.8 R WRを付けて522g。X100VIの521gとほぼ同じなので軽さがよくわかります。
動画も考えるならX-S20があるため、静止画に特化している点でもX-Tの名前のとおり。為替レートの関係もあって高く感じますが、X100VIの記事の最後に昨今のカメラの価格について書いているのでそちらを見てください。
REALA ACEが使えるなど、後発の分だけ現時点ではX-T5を上回っている部分があるのも魅力的。あとで詳しく触れますが、これまでも新しいフィルムシミュレーションをボディのキャラクターと連動させて価値を上げてきました。X-Pro1がポートレートに適したPRO Neg.Hi、X-Pro2が硬派なストリートフォトに合うACROS、X-Pro3が個性的なClassic Neg.というように。すでにX100VIに搭載されているRELA ACEの真価はX-T50で開花するのではないかと思います。
第一印象
X-T10のデザイナーがメディア向け発表会で「使っているうちに愛着が湧くようなデザインを目指した」と話していたのを思い出します。時代に合わせてエッジが鋭くなっていますが親しみやすさも継承されているように感じられ、トップカバーをギュッと絞ってラウンド形状にしてあり、数値のサイズ以上に小さくしているのも好感が持てます。
先のデザイナーがXシリーズのデザインの特徴として、胴巻き(上と下が金属で中間のところをぐるっとゴムなどが巻かれている構造)や、長方体がベースになっていて角を取ったり丸めたりしている点を挙げていました。X-T50は両サイドが丸くなってXらしさは減退しているものの、新旧のミックス、曲線と直線のコントラストが今っぽくて、手への収まりがよいためすぐ馴染みました。
X-T5に慣れた手で持つと、どうしても手のひらでなく指でつまむ格好になり疲れやすいのと、ボディの剛性と重量が関係しているのかシャッター音が響き、カシャッに対してパチャンという感じ。電源スイッチなどのダイヤルもカクカク動くように感じられます。防塵防滴のためのシールドも違いに影響しているのかもしれません。こういうところにお金がかかっていくんだな・・・と、X-T5の出来の良さを再認識します。スペックに表れない部分にコストがかかるんですね。逆に見れば、それらを必要としない人たちにとって高性能を安く手に入れられるのは嬉しいでしょう。
画質だけではない実写
すでに第五世代の画質は試していますから、最も新しいX-T50に最も古いXF35mmF1.4 Rをつけたらどうなるか興味があって、標準ズームと一緒にバッグに入れて日帰りの旅に出ました。重なっている焦点距離でもじっくり集中したいときのために単焦点を持っていくと楽しいです。X-Eシリーズはお気に入りのレンズをつけっぱなしにしてフットワークで撮るカメラ、X-Tシリーズは交換レンズを駆使して被写体に合わせてアプローチを変えていくカメラだと思っています。センターファインダーはそのためのデザインだから。
実写していてX-T5に劣っていると感じる点はありません。第五世代の画質をこんなに気軽に楽しめるのか、と感心するくらい。同時に発売されたXF16-50mmF2.8-4.8 R LM WRを付けると、あんなに軽くて小さなレンズでさえフロントヘビー気味に感じるほどで、XC16-50mmF3.5-5.6 OIS IIがキットになっていることも理解できます。価格もかなり安いし。それでもフラッグシップと画質が同等なのを特長にしているからには、その魅力を活かすためにXFレンズを使いたいところ。撮りたいものとフィットするならXF8mmF3.5 R WRやXF30mmF2.8 R LM WR Macroの理想のパートナーでは。
XF35mmF1.4 Rに対しても、第五世代のX-Trans CMOS 5はレンズの欠点を強調することもなく、しっかり性能を向上させてくれます。このセンサーは省電力なのもありがたいです。
今回の進化のひとつであるAFは、テストしている期間で一回も「合わない、迷う、遅れる」ことはなかったです。AFは百回うまくいっても運命の瞬間にミスしたら価値が揺らぐため、新しい技術を丸ごと信用するのは難しいですが、被写体認識が働いているのか、アルゴリズムが最適化されたおかげか、ストレスフリーでした。XF35mmF1.4 Rは「写りはやっぱり最高だけれどフォーカスの遅さがね」と言われるレンズで、それでさえ実用できるレベルで動かします。
二世代以上前のXシリーズのボディと標準ズームを使っていたとして、最初に買い換えるならやはりボディのほうをお勧めします。快適さがまるで違うので、古いレンズが生まれ変わる気がしますよ。
REALA ACEを含む20のフィルムシミュレーション
デザインの部分でも大きな特徴になっているのが左肩にあるフィルムシミュレーションのダイヤル。Xシリーズ初採用で、プロビア、ベルビア、アスティア、クラシッククローム、リアラエース、クラシックネガ、ノスタルジックネガ、アクロスの8つが、この順番で割り当てられています。
アナログなダイヤルがあるとメニューから選択するより早く直感的で、電源を入れる前に動かして確認することができる反面、ダイヤルに割り当てられていない残りのフィルムシミュレーションとの格差ができるかもしれません。そのためFS1からFS3まで好みを割り当てることも可能。
ダイヤルが左肩にあるとファインダーを覗いて構えたままで動かすのが難しく、撮りながら動かすのに向いていないように感じるのと、メニューの構造も含めて機種ごと、世代ごとに操作系が変わっているため「これがXシリーズの操作系」といったものが統一されていないのは気になりました。
REALA ACEは色の繋がりが自然で彩度は低め、シャドウが軟らかくハイライトはスッと伸びていく硬めの階調ですが、理解したいと思ったら細部より全体の印象を感じ取るほうがいいと思います。濁りがなく自然に写真が見られるフィルムシミュレーション。ミネラルウォーターみたいなもので、ずっとこれを使い続けているとありがたみは感じないのに、水道水に戻したときにビックリ。ああ、デジタル画像ってこんなに色が不自然で濁っているんだな、と思います。
フィルムのREALAとRELA ACEは再現が難しいとされた紫や黄緑の表現が美しいことを特徴にしていて、その到達点はデジタルの出発点であったわけですけれど、「今のデジタルでいちばん難しいのってこれだよね」とでも言いたげ。RAW現像やエミュレーションソフトでREALA ACEを作るのは難しいでしょう。
充実したXシリーズ
この原稿を書いている時点で、米騒動ならぬX騒動が起きそうなくらいホットになっていて、そこに登場していくX-T50はこれまでのX二桁で最も注目を浴びているようです。期待の新星なのに厳しいことも書きましたが、Xシリーズ入門機としたら抜群。フィルムシミュレーションを駆使して身近なものを撮りまくるスタイルにうってつけで、システムとしたらまだまだフルサイズよりも小さく軽いAPS-Cの魅力が集約されています。
プリントとの相性がよくフィルムへのオマージュを感じさせるREALA ACEとともに「フィルム写真のムードは好きだけれど、デジタルを使いたい」という人たちにも支持されることを期待しています。
フラッグシップのX-T5、精神的支柱でありイメージの象徴としてのX100VI、主力として広がっていくX-T50と揃ったことで、画質を揃えたまま組み合わせできるのも喜ばしいです。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist