X100シリーズの最高傑作は?X100SとX100Fから考える「X100に求めるもの」

内田ユキオ
X100シリーズの最高傑作は?X100SとX100Fから考える「X100に求めるもの」

X100の進化を振り返る

二年から三年でモデルチェンジを繰り返し、進化してきたX100シリーズに失敗作はなかったという前提で話を始めます。
(以下、シリーズとしてX100系を捉えた場合はX100、初代X100はFinePix X100と表記)

 2011年3月  FinePix X100
 2013年2月  X100S
 2014年11月 X100T
 2017年2月  X100F
 2020月2月  X100V

商業的にも、ファン心理としても、「うわ、なんだよ・・・これだったら前のほうがよかったな」というモデルチェンジはありませんでした。

もちろん思い入れとして好きな機種はそれぞれ違いがあるはずです。出会ったタイミングも大きいでしょう。
X100はレンズ固定式なので、他メーカーのユーザーでも買い求めやすく、価格的に何かの記念に買うこともあるようです。どの時期に、どんな理由で買ったかは、ずっと記憶に残って印象に影響を与えていくのではないでしょうか。
ぼくの場合は、最初にそれを持って旅をしたとき、どんな出会いがあって、どんな写真が撮れたかで、思い入れが大きく変わってしまいます。いちばん傑作を多く撮ったのはX100Tだと思うのですが、個人的な感情は控えめにして先を急ぎます。

そんなふうに時間を追っていけば、チャップリンじゃないですが「最高傑作は次のモデル」です。そうでなかったらテクノロジーを否定することになってしまう。
一方でぼくはMacBook Airの2015年モデルを今でも現役で使っています。パソコンで旧世代を使うメリットはほとんどありません。処理能力では動画どころか写真を扱うのにもストレスを感じるほど。それでも愛用している理由はデザインが美しく、のちに廃止になったSDカードのスロットが内蔵されているから。
そうして考えてみると、必要としている機能があるか、形が好きだったら、古い機種にも価値はあるということですね。
そんな機種はX100にあるでしょうか?

時代に残した大きな足跡

いちばん多く旅をしたのはX100Tだと思います。そのせいかガンガン使うカメラという印象があって「使っているシーンのようなブツ撮り」にいちばん合う。

デザインとコンセプトは初期型から踏襲しつつ、センサーとプロセッサーが機種ごとに刷新され、画質も右上がりに向上してきました。大きな変化は2度あります。FinePix X100→X100SになったときのX-Trans CMOS化。次がX100F→X100Vのときにレンズが変わったこと。

操作性———たとえば露出補正がダイヤルで±3段、拡張して5段になったところなど、他のXシリーズで採用されて好評だったことはきちんと反映されて成長しています。メーカーが作ったというよりもユーザーの欲求が新モデルを作っていったと考えることもできます。

あらためて思うのは、理想の入門機であり、最高のサブ機であり、あのファインダーをはじめとした独自の機能が詰め込まれている究極のマニアックなカメラということ。人気があって当然という気がします。

オレンジジュースと言うけどカメラにとっては黄色。これを光学ファインダーで見ることができるようになったのは、X100Tから搭載されたアドバンスト・ハイブリッドビューファインダーのおかげ。
X100T, F2, 1/50s, ISO320

ではX100の12年の歴史の大きな転換期はどこでしょう。

X100Tになって搭載された、すごく意味のある新機能がふたつあって、まずは電子シャッター。これによりレンズシャッターの弱点だった「晴れた日中で絞りが開けられない」ということがなくなり、飛躍的に撮影条件が拡大されました。使う立場として高感度が広がるより意味があったと思います。

もうひとつはクラシッククローム。これ単独でもすごく使い勝手の良い人気のトーンですが、未来を予感させるものでした。伝統だけを大切にするのではなく、積極的に世界を広げていこうとする挑戦ですね。

初代のコンセプトが成熟したX100S

X100Sのブラックは限定カラーでした。二台並べてみると、精悍なブラック、クラシカルなシルバー、どちらも魅力ありますね。基本的にX100はシルバーが好き。

そのふたつを持っていないX100Sを取り上げるのは理由があります。

過去と未来の折衷、プレミアムなコンパクトデジタルカメラ、撮る楽しみと扱う喜びの復活、そういったテーマを掲げて登場したX100が思い描いた形は、ここで頂点に達したと思うからです。

初代で未成熟だった部分を、ひとつずつ丁寧に改良したのがX100Sだったと言っていいでしょう。ここからX-Trans CMOSを採用しているので、FinePix X100はVer.0.9だったのかもしれません。

個人的には、絞りが半段クリックなところがいちばん好きです。23mm単焦点で1/3段が必要だと感じることはなく、それに象徴されるようにこれ以降は設定できるパラメーターの項目や幅が劇的に増えていきます。

モニターで見たとき細かい線の解像感と画像のクリアさに驚き、X-Trans CMOSの凄さに感動しました。Xシリーズの画質の進化でいちばん驚いたのがこのときだったかも。
X100S, F3.6, 1/60s, ISO400
解像力が増したことで、写真の表現にどんな変化が現れるか興味がありました。濡れた道の質感が生々しく、これぞ写真ならではの美しさだと思います。十年も前のことなのに、さっき見ていたよう。
X100S, F2, 1/40s, ISO800

X100の特徴となっているアナログなダイヤルを中心に構築された操作系は、「使うほどに身体が覚えて早くスムーズに扱えること」がメリット。レコードをかけるときの手間も喜びだよね、というように不便さを楽しむのではなく、最も早くシンプルに扱えることを望んだ結果です。設定できる幅などに制約が生まれるため、現代のデジタルカメラがこれを維持するのは大変で、でも工夫を重ねて守り続けてきました。

慣れてくれば、手首の角度、力の入れ具合、小さなクリック音と感触を頼りに、被写体から目を逸らすことなくカメラの設定を変えられます。スマホは見ないで扱うのがかなり難しいけれど、ガラケーだったら電話をかけることとメッセージを打つことはできました。X100Sくらいシンプルだと考えないでサクサク動かせるので、理想のカタチに思えます。

もちろんどんな機種でも三日もすると戸惑いは消え、二週間もあれば慣れて、一ヶ月も使ってから前に戻るとかえって使いづらく感じるくらいです。それでもデジタルカメラは多機能になりすぎたかもしれない、じゃあどこまで戻ってみようか・・・と考えるとき、X100Sの軽快さに魅力があるということです。

X100の到達点ともいえるX100F

他の機種と組み合わせると、さらに価値が高まるような魅力があったX100F。Xシリーズでいちばん充実している焦点距離が23mmなのだけれど、単焦点を使う機会が少ないのはX100があるから。

ではサブ機として考えたとき、もっとも使い勝手が良かったのはどのX100か?

X100Fが最初に思い浮かびます。この時期のXシリーズは同じセンサーで多くの機種があって、選び放題でした。カメラを持ち替えたとき画質や操作系が変わるのは面倒ですよね。

X-Pro2をメインにしてスナップや旅写真を撮りたくて、何かあったときのサブ機としてX-E3とX100Fを持っていく。あるいはX-T2で撮影セットを組んでポートレートを撮り、オフショットをX100Fでフォローする、といった流れがとても自然。

コンパクトカメラの系譜にありながら、画質の点でつねにXシリーズのフラッグシップと同等だったところもX100の人気を支えていたように思います。初代だって今でも使えますが、X100Fになると24MPあるので現在でも余裕のスペック。
X100F, F2, 1/60s, ISO400

X100Fはシリーズのなかで最もソリッドなモデルでしょう。曲線をギリギリまで省いて面で構成されたように見えるX100Tから、飾らないのに美しいデザインを受け継ぎつつも、フォルムには優しさが感じられます。

この次のX100Vだとレンズが変わってドライでシャープな写りになるため、レトロ感は大歓迎、フィルムライク万歳、ただし実用性で妥協はしたくない、といった人たちにとってX100Fは理想では。

チルト液晶がないのは残念かもしれませんが、ファインダーの復権を掲げてデビューしたX100がチルト液晶を積んでいるのはどうなのかなって疑問もあります。画質は現代で使うのに十分ですし、前のバージョンの最終形という意味でもX100の魅力が凝縮されていると思います。

ライバルのいないX100の今後

絞り開放でこの距離で光源を撮って、まったく収差が見られないのも驚きましたが、「これなら前のほうが良かった」と思わせない絶妙のチューニングこそX100Vの真価。チルト液晶は僕にとって必要ないものですけれど、外観に影響なくまとめたところなど、ファン心理を大切にしていることが伝わってきます。
X100V, F5.6, 1/10s, ISO400

フィルム時代のニコンのフラッグシップFシリーズには、偶数のファン、奇数のファンがいると言われることがありました。F、F3、F5が好きという人と、F2、F4、F6が好きという人がいるというのですね。X100は奇数で可能性を提示して、偶数でそれを洗練させてきたと考えることもできます。

次のX100があるとしたら偶数になりますが、センサーは? REALA ACEは搭載されるのか? ファンが驚くような変化はあるのか? 考えるだけでワクワクします。

今回の記事を書いて、X100シリーズで撮った写真のフォルダを開いてみたら、その時期の自分の心境やマイブームが見えて楽しかったです。すべて23mmF2なので、写真に変化があるとすれば、時代が変わったか、もしかしたら変わったのは自分のほうかもしれません。

今の自分だったら・・・と思うとX100を持って街歩きしたくなってきました。X100を持つと手が記憶していて「今日は写真を楽しむぞ」というスイッチが入ります。ずらっと並んだ歴代モデルから、靴を選ぶみたいにどれにしようかと迷うのも楽しそうです。そんなデジタルカメラはそうないですよね。

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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