佐藤俊斗 × ポートレートVol.16|冬の光で撮る下町

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポートレートVol.16|冬の光で撮る下町

はじめに

こんにちは。フォトグラファーの佐藤俊斗です。

今回は16回目の連載。
最近は気温も上がって外に出ることが増えてきましたね。
久しぶりにロケで撮影をしてきました。舞台は東京の清澄白河。

普段生活する場所とは少し離れた風情あふれる街並みでの撮影は、気持ちを晴れやかにしてくれました。

下町を写すコンデジの魅力とは

ここからは僕の身の上話になってしまいますが、実は学生時代に清澄白河付近の中学校に通っていました。
当時はまだおしゃれなカフェなどはなく、いわゆる東京の下町。

撮影で久しぶりにこの街を訪れてみて、中学生時代はこの土地の居心地の良さに全く気が付かず、ただひたすら部活動に打ち込んでいた記憶が蘇ってきました。

10代の頃は到底感じなかったような街の風情や温かさ。
ふとした瞬間を残したいという思いは、大人になった今だからこそ感じられる新鮮な感覚です。

この街の魅力をどうやって記録に残そうか。
真っ先に思いついたのが X100Vでした。
連載で何度も登場しているFUJIFILMのコンパクトデジタルカメラ。

■撮影環境:1/160秒 f/2 ISO500

カメラの性能がどんどんと上がっていくにつれ、今は暗い中でも明るく撮れて、肉眼で見る以上に繊細に被写体を写せる時代。
そんな簡単に写すことができる今、あえて機能が制限された中で、撮影がしたいと思い立ちました。
ズームレンズとは違い、35mm(35mm判換算)という画角制限があるので、自分が引いたり寄ったりする必要があります。
その為、必然的に表現の幅は狭まってきます。
X100Vの魅力でもあるデジタルテレコン機能はあえて駆使せずに、35mmの画角のみで撮影に臨みました。

今までの連載では、撮影の細かなテクニックを数々ご紹介してきましたが、今回はそれに加えて、写真を撮る上でどのような気持ちで臨んでいるのか、自分自身の心境にもクローズアップしてみます。
ぜひ最後までご覧ください。

縦写真と横写真の使い分け

時刻は17時。
歩道橋を偶然見つけたので、渡ってみることにしました。
まだ気温が低く、肌寒い時間帯で少しずつ日が落ちていくタイミング。この光を逃がすまいと夕日を追いながら撮影しました。

■撮影環境:1/160秒 f/2 ISO1600

早速ですが、僕なりの縦と横写真の使い分けがあるので少しご紹介します。

横写真は一枚画として撮影するとき。
ポストカードのような見え方になるので、写真に写る情報を増やしたい時や、景色や情景のような切り取りがしたい時に良いでしょう。

■撮影環境:1/160秒 f/2 ISO1600

次に、縦写真は動きや被写体との距離感を伝えたいときに用います。
みなさんはこの写真を見た時にどのような印象を感じますか?
歩き出しそうな雰囲気と臨場感が伝わるでしょうか。
服や髪の毛に躍動感があり、自然な表情になっています。

写真を撮る上で、被写体と並行を保つことも大事ですが、視野をリアルに写すには、あえて斜めから撮影してみるのもいいですよね。
ファッションの撮影でも用いられるテクニックの一つです。
もし自分の写真に飽きを感じたら、立ち位置に制限を付けず、狙いの一歩手前ぐらいで撮影してみるのもおすすめです。

自己表現をすること

それでは本題です。
みなさんは写真を撮る上で「自己表現」をどのようにするのか意識したことはありますか?

僕自身はありがたいことに、様々な企画やディレクションの環境下に身を置き撮影をすることで、多くの課題にぶつかってきました。
その中で、「自分自身の表現」とは何なのだろうとよく考えます。

・綺麗に撮れるようにはなってきたけれど、一段階上の表現をしたい
・自分らしい写真とはなんだろうか・・・
こんな風に悩んだことはないでしょうか。

「らしさ」を追求していくには、誰しもが相当の時間を要するでしょう。

魅力的な写真に共通しているのは、その人の性格や内面が表現されているということ。
言うなれば、「好き」が写真に現れているかが大切です。

例えば、暗めな雰囲気の写真を見ると、きっと落ち着いた雰囲気の人が撮ったんだろうな、などと第三者目線で感じられるように、自分にしか出せない写真の空気感が存在するのです。

■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO1600

僕なりに、この写真の自分らしさを言葉にするとすれば、距離感を写真で表現しているという点です。

一般的に、被写体の正面から撮るのがポートレートと認識されていますが、いい写真が残せるのは、さぁ今から撮ろうと思っている時だけではありません。
カメラを構えていない時の不意の表情、お互いに構えていない瞬間に良いシャッターチャンスが訪れる事が多いのです。
その表情を素早く切り取ることで、より自然体で温度感の伝わる一枚になります。

僕はもともと剣道を約20年間やっていたこともあり、試合の中で対戦相手との距離感を最も大切にしてきました。

以前から何度も記事で「被写体と適度な距離を保つことが大切」と述べているのですが、その源泉は僕の学生時代からの経験にあります。

また、相手の動きを読んで「今この瞬間」という場面を狙い撃ちできるのも、剣道によって鍛えられた動体視力のおかげかもしれません。

時には余計なものを切り捨てる判断力を持つことも大切です。例えば写真に無駄な情報が多い時には、いろいろな情報を得つつ取捨選択することが必要。

■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO1600

こちらの写真を見てみると、道路の先が見えずに奥行きが潰れていると同時に、周りの情報量がとても多いのがわかるでしょうか。

モデルさんの表情や動きは申し分ないのですが、写真としては奥行きを作り、余計な情報を消す方がより笑顔が引き立つでしょう。

歩きながら撮っていくので、余計な情報も入ってきてしまうことが街撮りの難しいポイントですが、その中で何を取り入れて何を切り捨てるのか、自身の判断力が要となってきます。

色温度の変化を写す

それでは次の写真をご覧ください。

■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO160

建物内に差し込む印象的な夕日と緑色の床。
こんなレトロな色合いと出会うことができるのも、初めての場所での街撮りの醍醐味ですよね。

散歩途中にしか味わえないこの空気感を、よりエモーショナルな雰囲気に撮影してみました。

■撮影環境:1/160秒 f/2 ISO1600

この2枚は個人的に一番好きなシーンです。

夕日が街に当たった時の色の乗り方がとても美しかったこの時間。
1枚目は斜めからのサイド光の硬くなりすぎない光の向き対して、2枚目は順光。

人が入ることで、背景と同化して独特な雰囲気を醸し出しています。
順光にはメリットがあればデメリットもあり、コントラストが強いので少し硬い印象になってしまいがち。

しかし、光の位置や奥行きなど背景の情報などを選ぶことで、このように違った雰囲気で撮影することができます。

今回の裏テーマは、自分自身の心の動きをよりリアルに表現できるか。
僕はいつも撮影が終わった時、その人がどのような気持ちだったかについて考えています。

以前、僕はいかに美しく綺麗に撮影するか、365度抜け目のない完璧さを求めていました。

しかし最近は美しさだけに囚われない写真の楽しみや、感情を揺さぶられるような奥深さに重きを置くようになりました。

■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO1600
■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO1600

このシーンでは、一本道に抜け感を作ることによって、同じ道を歩いているような雰囲気になったのがが伝わりますでしょうか。

縮まっていく距離感と共に温かくなっていく色温度の変化。
写真を見るだけで日没の儚さや、薄暗い中での優しささえ感じられますよね。

冒頭でもお伝えした通り、今回は夕日を追いながらの撮影です。
波長があった瞬間のいい一枚を残すために、夕日を追いかけながら距離感も縮めていきます。

このように、写真の本質や目的を、「綺麗な写真を撮る」だけに狭めず、自分自身の拘りを持つことや心情の変化を写真に写し出すことも意識してみてください。

そうすれば必然と、切り取った一枚に意味を持たせる事ができるでしょう。

おわりに

今回は撮影のテクニックだけでなく、内面にもフォーカスした話をしてきましたが、いかがだったでしょうか?

いかに雰囲気や距離感をカラーバランスとしても表現できるか、また自分の内側から出る「好き」を写し出すことを追求することで、より多くの人の心を動かす作品づくりができます。

よろしければ、今回の写真を最初から最後まで改めて見返してみてください。少しずつ表情が和んでいくのに合わせて、写真としての色温度も温かみが増しているはずです。

これから少しずつ暖かくなる季節になってきたので、ぜひ皆さんのロケ撮影の参考になれば幸いです。

■撮影環境:1/100秒 f/2 ISO1600

 

 

■モデル:本間日陽

 

■写真家・フォトグラファー:佐藤俊斗

 

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