視覚を超えた感動さえも、この一本で。XF10-24mmF4 R OIS WR|写真がもっと楽しくなるX
写真の春がやってくる
この記事が公開される頃になると、冬の寒さが弱まり、春の気配が近づいてきて、今年の開花はいつ頃なのか、数年ぶりに花見ができるかもしれない、といったニュースを見かけているかもしれません。心が躍りますね。
こんな機会だから旅行を絡めて花見でもしようかと考える人もいるでしょうか。
旅のレンズ選び
そんなときレンズ選びに悩みます。
花をとにかく美しく撮りたいと思うならマクロか中望遠の大口径がいいけれど、寄れる高さに枝があるならXF23mmF1.4 R LM WRは最高です。もし「購入してみたものの、これだ!という写真がまだ撮れていない」という人がいたら、ぜひ近接で桜の花を撮ってみてください。ピントが合った部分のシャープな解像と、軟らかく溶けて広がっていくようなボケのコントラストに、きっと感動しますよ。
単焦点を扱う気持ちよさは格別ですし、身軽な機材で旅ができれば最高ですが、初めて訪れる場所だと、桜の樹の大きさや規模がわかりません。
入り切らないときに、最も印象的な部分だけを切り取って、自分のまなざし、出会ったときの感動、戸惑いや驚きまでを残そうと覚悟したとき、写真の命ともいえるフレーミングの意味を知ることになるわけですが、そうは言っても後悔したくないですよね。
「入り切らないからスマートフォンでも撮っておこうっと」なんていうのも悲しいです。 せっかくだから感動のすべてを高画質で残したいと思うでしょう。
感動と驚きと美しさを一本のレンズで
そこで試してもらいたいのがXF10-24mmF4 R OIS WR。
前に、どんな被写体と出会うかわからないときに備える最強の望遠レンズとしてXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISを紹介しました。あれの広角バージョンだと思うとわかりやすいです。手ブレ補正内蔵で、とくにワイド側に広く、標準域までカバーしています。全域F値固定なのにサイズも小さく持ち運びも便利。
歪曲収差がしっかり抑えられているのと、ワイド端からテレ端までどの焦点距離でも均質な画質を得られるため、ズームであることのデメリットを感じないものいいです。
超広角は圧倒的な情報量こそが命なので、解像感が甘いとか、周辺になると緩いようだと存在価値がなくなります。
狭い室内、ダイナミックな景色、建築物などだと、自分がフットワークを使って動いたとしても限界がありますからズームレンズの力が発揮されますね。焦点距離が数ミリ変わっただけで劇的に写真が変化する広角域なら尚更です。
XF10-24mmF4 R OIS WRとの思い出
最初にこのレンズに感謝したのは、初めて桂離宮を訪れたときのこと。
昭和の巨匠・石元泰博さんの名作を繰り返し見ていたので、デザイナーの原研哉さんが「実物を見るより石元さんの写真で見るほうが凄さと美しさが良くわかる」と書いていたのも理解できます。だからこそ実際はどんなところなのか、もし自分がファインダー越しに見たら何を感じるのか、興味がありました。
桂離宮は申込制でガイドに引率されて園内を回ります。コースが決まっていて立ち入り禁止の区域が多く、全てのものに歴史的な価値があるため、苔を踏まないよう細心の注意を払って歩くような場所ですから、歩ける場所も限られています。ひとつの場所にいられる時間も短く、当然ながら三脚も禁止です。茶室というのはとても狭く作られているため、引いて撮ることができません。
つまり初めて見る狭い部屋を、自分は動くことができずに、その場の光だけを頼りに手持ちで撮らなければならないわけです。この日のためにこのレンズがあったのかもしれない、と思うくらいXF10-24mmF4 R OIS WRに感謝しました。
しかも全く歪まない。遠近感までコントロールしているとされていて、直線が音楽のように響き合う建築の魅力を損ねることがありません。周辺の細部まできちんと解像感が保たれていて、立ち入りできず触れることができなかった壁の質感を写真から感じ取ることができます。
バルセロナに行ったとき、まだこのレンズを持っていませんでしたが、もし次に行けるならサグラダ・ファミリアの前で構えるのはこれでしょうね。
魅力は描写だけではない
X-Pro3は構造的にズームレンズと相性が良くないですが、昨年の秋にこのレンズだけで京都を旅しました。
手にするたびに「あれ、こんなに小さかったかな」と驚きます。フィルムシミュレーションを使いまくって、バリエーションをたくさん撮ってみました。ズームレンズの便利さが伝わるでしょうか。もしそれが無理でも、旅を楽しんでいる感じが伝わったなら、それこそがこのレンズの真骨頂です。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist