富士フイルム XF18-120mmF4 LM PZ WR レビュー|1本でどんなシーンもカバーする高倍率ズーム
Xユーザー待望の高倍率ズーム
撮影スタイルは人の数だけあるから、安易に括って話すことは難しいけれど、それでもXユーザーにとって最も手薄に感じられるレンズといえば、高倍率ズームではないだろうか。広角だけならXF10-24mmF4 R OIS WR、望遠だけならXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISという手頃ながらズームとは思えない優れた描写のレンズがある。けれども標準域をまたいで広角から望遠をつなぐ、いわゆる標準ズームで高倍率なレンズを求める声は多かった。
一時期、そういったズームレンズの便利さを「ラテ・アートから運動会まで」という言葉で表す流行があった。つまりは近接に強く、中望遠を超えて望遠域までカバーしているレンズが欲しいのだ。
現在ならラテ・アートはそのままに、カフェの店内が撮れる広角から、常用に適した標準、ポートレートが撮れる中望遠、乗り物くらいまでカバーできる望遠があって、さらに「撮りたいと思ったときには動画に対応できること」と、現在のXFレンズの標準仕様になっているWR(防塵防滴)まではマストだろう。どれもスマートフォンで撮れるのだから。
「スマホで撮れるものが、本格的なカメラで撮れないってどういうこと?」と思う人たちがいることは容易に想像できる。
第五世代に対応する新時代のコンセプト
そこで待望のXF18-120mmF4 LM PZ WRが登場した。
フルサイズ換算で28mmから183mmまでをカバー。最短撮影距離は全域で60cmを確保。XFレンズの高倍率ズームといえば、XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRがすでにあるが、ズーミングの繰り出しで全長が二倍くらいになってしまう。しかも動きが渋い。ワイドとテレで一段以上も開放F値が変わる。すごく便利なレンズだけれど使い勝手では不満も多かった。
XF18-120mmF4 LM PZ WRは全長は一定となっていて、外部アクセサリーや三脚を使用して撮影することが多い動画では、とくに使い勝手が向上している。重量バランスが変わらないことは安定した撮影のために大切なのだ。
XFレンズは、前玉の外側(フィルター枠の内側)にレンズ名称がプリントされているのが一般的な仕様だけれど、このレンズにはそれがない。近接時の写り込みを気にしたのかもしれないし、製造上の事情かもしれない、真相はわからないが業務用っぽい雰囲気があって悪くないと思う。トップに刻印がないキーボードのような無機質さがある。高級感を演出する飾りがまったくなくて、素っ気ないのも個人的には好きだ。
スペックを見て、思い切ったなと意外だったのは手ブレ補正を省いたこと。
先に名前を挙げた三本には全て手ブレ補正が内蔵されていた。予想するしかないが、ズームレンズを好んで使うような、つまりはセンターファインダーのX-H系、X-T系、X-S系ならボディ内手ブレ補正があるから、レンズはそれを省くことで小型軽量に徹して価格も抑えることができる。無理にワイド側だけ明るくしてカタログスペックを稼ぐようなこともせずF4通しにしたのも潔い。広角側で半段から一段ほど明るかったところで、どんな利点があるだろう?
ワイド側を16mmではなく18mmから始めているところも、無理せず実用をベースに設計されたことが読み取れる。
パワーズームはアリか、ナシか
上に書いたような登場の背景を理解したうえで、最大の特徴はパワーズームを採用したことだろう。これまでパワーズームに対していい印象がなかった。動きが鈍いし、数ミリの動きを制御するのが難しい。せっかくズームレンズを使っているのに「・・・これくらいでいいかな」とフレーミングを妥協するなら意味がない。手動のほうがずっと早く確実だった。
このXF18-120mmF4 LM PZ WRに搭載されたパワーズームは、256段もの可変速となっていて、ズームリングを強く回すと早く動き、弱く回すとゆっくり動くため、感覚的に加減ができる。動画を撮るとき、ゆっくり動き出して次第に早くなっていくようなズーミングを行うことがあるが、あれを手首の角度と力加減でコントロールできる。ボタンに割り当てて一定の速度で動かすこともできて、こうなると手動では難しい安定した動きを何度でも繰り返すことが可能だ。慣れるほど使いやすくなる。
メーカーのリリースに「放送用レンズを多く手がけたノウハウから生まれた」とあるが、プロ仕様の動画用のレンズを小型化して民生機に落とし込んだような感じがするのはそのせいかもしれない。
静止画でもこれはすごく便利で、おおよそのところまで一気にズーミングして、微調整のときはゆっくり動かして「ここだ!」というところで完璧に止められる。二本のガイド軸によってレンズを駆動することで振動を抑え、動画でも駆動音は気にならないくらいまで静か。しばらくこのレンズを使っていて、手動の高倍率ズームを使うと「こんなに回したのに、まだ半分しか動かないのか」と面倒になるくらいだった。
▼ワイド端18mmとテレ端120mmの比較
実写による描写性能
よくあるレンズレビューだと、「さて、肝心の画質だが」と続くところだけれど、現代の標準ズームがここでがっかりするような画質のわけがない。ましてや第五世代のデバイス、40MPを想定して設計されたレンズなのだ。
合焦部のキレはすごくてとにかくクリア。でもズームレンズにありがちな、抜けはいいのに平坦で味気ない描写ではなく、ちゃんと立体感や質感もそつなく表現してくれる。周辺部のボケがいくらか荒れて見えることはあるけれど、中央から周辺まで、ワイドからテレまで、絞り開放から絞り込んでいったところまで、安心して使えるレンズだと感じた。逆光にもすごく強い。
「くぅ~、この80mmあたりの絞り開放は絶品だぜ」なんて楽しみはないけれど、そういう人たちのために単焦点レンズがある。とくに18mmから90mmまで素晴らしい単焦点が小刻みにラインナップされているので、好みの焦点距離だけは単焦点も買うと楽しみが広がるはず。
旅行のお供に最適な一本
メーカーの公式サイトで「トラベラーズーム」とアピールされているが、旅に持っていいったときの快適さが思い浮かぶ。
高台から見下ろした街の全景、休憩に寄ったカフェ、宿泊した部屋、建築物などを広角で、出会った人のポートレートや看板を中望遠で、0.2倍の近接によって料理や工芸品を撮り、乗り物や動物もこれくらいの望遠域があれば大丈夫だろう。気が向いたら動画も抑えられる。しかも使っていてまったく疲れない。
レンズのほうがカメラの機能を制限するようではいけない、少なくとも標準ズームにはその責任があると思う。好奇心の向くままにいつでも持ち歩き、気になったものはなんでも撮ってみる、悪天候でも気にしない、というようなタフなレンズであることが必要だ。
もちろんズームレンズの役割は、散歩さえも旅行のように楽しめること。そう言った意味で、人生を旅するように写真を撮るトラベラーたちのためのレンズになって欲しい。
公式サイトでは10月下旬の発売予定となっているが、X-H2/X-H2sにファイルトランスミッター FT-XHを利用することで、4台までのカメラ操作を外部ソフトでオペレーションすることが可能になる。そういった用途でこのレンズの価値はさらに高まるだろう。
結婚式場やスタジオ、イベント会場などに固定でカメラを設置しておいて集中管理できる。全長や開放F値が変わらないことで、煩わしい設定に悩まされることもない。Xシリーズの可能性と使用用途を拡張していく役割も期待したい。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist