富士フイルム「XF18mmF1.4 R LM WR」って星空撮影で使えるレンズなの?星空写真家がその性能をレビュー
XF18mmF1.4 R LM WRについて
XF18mmF1.4 R LM WRは「高画素化にも対応したレンズ」として、富士フイルムから2021年5月に発売された広角単焦点レンズ。f1.4の開放から驚くべきシャープネスを誇り、最短20cmまでの近接撮影も可能、富士フイルムが威信をかけた高性能レンズと言ってもいいと思います。2020年10月に行われたライブイベントで開発が告知され、発売後のレビューも軒並み高評価ばかりでとにかく素晴らしいレンズのようです。そんな中、開発者の方がこう言っていました。
「星空を撮影する人にも使って欲しい」
星空の撮影と言っても、風景と星空を同一構図で撮影する「星景写真」と、星空だけを撮影する「天体写真」とがあります。実際にこれらの撮影している人ならこの発言を聞いて「んんん?」と思うでしょう。なぜならば35mm換算27mmは、星景写真にも天体写真にも中途半端な焦点距離だからです。
そんな印象のレンズでしたが、さてその実力はいかなるものか。実際に星空をメインで撮影している私が検証してみました。
星空適性を検証
まずは開放f値1.4での星空と、f2.8での星空を比べてみましょう。どちらも画像処理なしです。
【f1.4で撮影】
【f2.8で撮影】
違いが分かりやすいよう、f1.4とf2.8が交互に現れるアニメーションgifにしてみました。
f1.4だと若干周辺減光が見られますが、それでもf1.4にしては相当少ない方です。画像処理ができる方なら簡単に直せます。そして、f2.8になるとほぼ周辺減光がなくなることがわかります。f4でも一応試しましたが、f2.8時とほとんど変わりませんでした。また、ホワイトバランスをAWBに設定してみましたが、f1.4時は少しマゼンタっぽく、f2.8時はそれがなくなるのもわかります。この辺りはf1.4時のピントの精度にもよるかもしれませんが、f2.8まで絞ると周辺減光と一緒に背景の色ムラも改善するようです。
次にこれらの画像の中心部分を拡大して、解像感を比較してみましょう。
さらに、周辺像(右上の隅)も同様に比較してみます。
通常、開放f1.4のレンズというのは、ここまで周辺が点で収まることはありません。これは驚愕の性能だと感じました。f2.8まで絞れば中心から周辺まで、限りなくフラットな星像を維持できることがわかります。しかしながら、画像処理前提にはなりますが、f1.4での星像も十分に実用範囲であると言えます。私はこのレンズを星景写真で使用するなら、迷わずf1.4で使用するでしょう。
35mm換算27mmってどうなの?
さて、評判通り驚愕のレンズ性能であることがわかりましたが、これは広角レンズとしては狭い35mm換算27mmという、設計的にあまり無理をしていないからこそ実現したという意見もあると思います。何より、星空と風景を広く撮影するためには24mmよりもワイドな超広角レンズが適していると考えられており、XF18mmF1.4 R LM WRは星景写真で使用するには少々物足りない焦点距離です。星空の描写が素晴らしいものであったとしても、それが焦点距離を考えると実用的かというと、う~ん……というのが正直な感想です。
いくつか撮ってみた作例を見ていきましょう。
「Sequator」は星空と風景を別々に加算平均合成(コンポジット)して、ノイズを平均化して目立たなくさせるフリーソフトです。このソフトを使用する場合、周辺像が点で写っていなければ同心円状に星像が乱れるため、普段は絶対f1.4では使用しません。でも、このレンズであれば全く問題ありませんでした。それだけ突出した画質を誇っているということがわかります。何よりこの撮影データ見てください。シャッタースピード5秒ですよ……5秒で適正露出が出るって……なんともスゴイことです。露出が短い分、地球の自転の影響で星が流れにくいため、赤道儀がなくてもしっかりと点で写せるわけです。
こちらは合成なしの一枚撮りで、f2.8で撮影しました。ピントは星空に合わせています。f1.4だと完全にオブジェがボケるのでf2.8で撮影しました。f2.8に絞ると隅々までしっかりと写る点像がものすごく心地よい。光害カットフィルターとの相性も良く背景ムラも少なくなるため画像処理も楽です。
狭いと言っていた画角ですが、なんとか地上風景と星空が収まりました。しかしながらこれは今の時期だからできることで、星空と風景が離れてしまう冬の天の川などでは同じ構図では撮れません。あくまで、低い位置に背景となる天の川や星座がある時期・方角でないと、こういった星景写真らしい構図では撮れないだろうと感じました。
ところが使い慣れてくると「こういうのもいいかもしれない」と感じ始めました。普段、超広角レンズでばかり撮影しているので、少し狭めのこの画角がとても新鮮に感じたのです。たまにはこういったアプローチもするべきだなと、レンズから学ばせてもらったような気持ちになりました。
背景ボケの美しさは星景写真でも生きる
こちらの写真はさらにオブジェに近づいて、背景の星をぼかしてみました。
驚くべき口径食の少なさです。隅々までボケた点が丸いままです。下の写真は別のレンズでの作例ですが、通常は開放f1.4で撮影するとこうなります。
背景の星がレモンのような歪な形になっているのがわかりますでしょうか。これが口径食です。XF18mmF1.4 R LM WRは背景ボケにも拘ったとありましたが、まさかここまでとは思いませんでした。昼夜を問わずに活躍するレンズであることは間違いありません。
XF18mmF1.4 R LM WRで撮る星空タイムラプスのメリット
星空タイムラプスで、背景の星空が動くスピードを決めるのはインターバルタイムとシャッタースピードです。通常は極端に短くすることができないため、背景の星がどのシーンでも同じスピードで動いてしまい、視聴者が飽きてしまうというパターンがありますが、XF18mmF1.4 R LM WRを使用すれば開放f1.4での撮影で十分な解像力が得られるため、星空タイムラプスでは稀な非常にゆったりとした動画を撮影することができます。
これにより、緩急をつけた動画制作が可能になります、思わぬところで自分の作品に広がりを持たせることができました。
ここが気になる!今後に期待したいこと
さて、ここまでXF18mmF1.4 R LM WRを撮影して大変満足できる撮影体験ができたのですが、一点だけ気になることがあります。それは、開放f1.4でのピント合わせの難しさです。f1.4でこれだけの解像力を出せるレンズなので、性能が良すぎるがゆえにピント位置が非常にシビア。マニュアルフォーカスが難しいのです。
富士フイルムXシリーズのカメラは他社と違い、液晶モニターの拡大率が10倍までです。さらに拡大することができれば、ピント合わせの難易度も下がるのですが、人間の目はその日の体調によって変わるもの。暗所でのピント合わせならば尚更です。残念ながら常にジャストピントにすることはプロの私でさえも難しいと感じました。
また、上記の比較画像ではそのような結果は出ませんでしたが、メーカー見解によると絞り羽根が完全に円形ではないため、f2.8にすると若干回折現象が出るそうです。そのため、開放f1.4のほうが中心像が鋭いのだとか。
GFXシリーズになると、液晶モニターの拡大率をさらに上げることができるため、もしかしたら画素数の問題で液晶モニターの拡大率が上がらない……ということなのかもしれません。今回の作例のように、多少ピントが甘くても作品の品質が大きく落ちるほどではありませんが、気になる人はf2.8からの運用をお勧めしたいと思います。
しかしながら、「高画素化」を見据えて開発したというこのレンズ。今後のXシリーズに期待してしまいますね。
動画性能もすごい
今回は星空適性に絞ってレビューをしましたが、動画性能も素晴らしいです。私は写真家でありYouTuberでもあるので動画撮影もしますが、XF18mmF1.4 R LM WRはXシリーズで動画を楽しむならマストなレンズかもしれません。
動画性能に関しては私のチャンネルでレビューをしています。作例も載せていますのでぜひチェックしてみてください。
また、少し内容が被るところもありますが、星空適性に関しても動画でレビューをしています。こちらも合わせてご覧ください。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員