富士フイルム XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR|旅写真家が選ぶ望遠ズームはどれ?
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。富士フイルムから今年3月にXF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRが新たに発売され、Xレンズにおける望遠ズームの選択肢が広がりました。これから望遠レンズを追加しようという方はどのレンズにするか迷うのではないでしょうか?
私は海外での撮影が多く(現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で行けませんが)、公共の交通機関を使っての移動が多いためなるべく荷物を減らすことを考えています。そのため以前は軽くて写りの良いXC50-230mmF4.5-6.7 OIS IIを使っていましたが、さらなる焦点距離とAFスピードを手に入れるため今はXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISをメインで使っています。このレンズの写りは気に入っているのですが何分大きいので海外に持っていくには少し躊躇してしまいます。
そのため今回発売されたXF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRにはとても興味がありました。今回はこの新製品を、使い慣れているXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISとの比較を交えながら紹介していきたいと思います。
望遠レンズの特徴
望遠レンズは遠くの被写体を大きく写すために使うというのは当然ですが、それ以外にも望遠レンズを使って撮影することで得られる効果があります。ここでは圧縮効果とボケ方について簡単に説明させていただきます。
1.圧縮効果
望遠側で撮影することにより遠くの被写体が大きく写り、近くの被写体との距離感があまり感じられなくなるのが圧縮効果。遠くの被写体が手前に近づいたかのような写真になり、密集感を生み出すことでより印象的な画作りができるようになります。
下の写真では3種類の色の花が写っていますが、実際にはこれらは離れて咲いています。ですが、望遠で切り取ることにより圧縮効果が働きあたかも同じ場所に3種類の花が咲き乱れている、という状況を作り出すことができるのです。
2.後ボケ
ボケを作りだすのに重要なのが被写界深度です。被写界深度というのはピントが合っているように見える範囲のことで同じセンサーサイズのカメラで撮影した場合、絞り値(F値)が小さいほどその範囲が浅くなります。それだけでなく、レンズの焦点距離が大きくなるほど被写界深度は浅くなりボケの量も大きくなります。下の写真ではレンズのテレ端、焦点距離300mmで撮影することで背景を大きくぼかし主題を引き立たせています。
3.前ボケ
前述の後ボケの応用となりますが、同じ原理で手前のものをぼかす手法です。手前にボケを入れることによって写真全体を柔らかな印象に仕上げることができます。うまく前ボケを作るためには思い切って手前の被写体に寄ってみましょう。
富士フイルム望遠レンズ比較
次に、フジフイルムから現在発売されている望遠ズームレンズを、焦点距離の長い順に並べてみました。
1:XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS (35mm換算:152-609mm相当)
2:XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR (35mm換算:107-457mm相当)
3:XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II (35mm換算:76-350mm相当)
4:XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS(35mm換算:84-305mm相当)
5:XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR (35mm換算:76-213mm相当)
新発売のXF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRは、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISに次ぐ望遠域を持つことが分かります。似た焦点距離を持つレンズにXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISがありますが、このレンズとの比較記事は以前にありますのでこちらも参考にしていただければと思います。
▼富士フイルム XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRレビュー|広い焦点距離をカバーする望遠ズームレンズ
https://www.kitamura.jp/shasha/article/480461443/
XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISとのスペック比較
次にレンズのスペックを比べてみましょう。参考までにXC50-230mmF4.5-6.7 OIS IIのスペックも載せています。
XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR | XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS | XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II | |
焦点距離(35mm換算) | 107-457mm | 152-609mm | 76-350mm |
重量 | 580g | 1375g | 375g |
最短撮影距離 | 83cm | 175cm | 110cm |
F値 | 4-5.6 | 4.5-5.6 | 4.5-6.7 |
手ブレ補正 | 5.5段 | 5段 | 3.5段 |
フィルターサイズ | 67mm | 77mm | 58mm |
絞り羽 | 9枚 | 9枚 | 7枚 |
防塵防滴 | あり | あり | なし |
一番の違いはやはりサイズです。下の写真のように並べてみると一目瞭然です。重さも倍以上の違いがあります。特に公共交通機関で移動する場合やトレッキングなどに持っていく場合には、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRのコンパクトさは非常に魅力的だと思います。
望遠側の焦点距離は100mm違いますが、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRはテレコンバーター「XF1.4X TC WR」「XF2X TC WR」に対応しているのでその差を容易に埋めることができます。このクラスのレンズでテレコンバーターに対応しているのはありがたいことです。ただ、テレコンバーターをつけるとF値が一段(XF1.4X TC WRの場合)暗くなりますので、常時つけっぱなしにするのではなく必要な時のみつけるようにしてください。
また、これは使ってみて気づいたのですが、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRの300mmで撮影したときとXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISの300mm付近で撮影したときでは最小F値に違いがありました。XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRではF5.6でしたが、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISはF5~5.2になりました。これはカタログスペックには書かれていないことですが、特に望遠系で動物などの動きものを撮影する際には気になる部分ではないでしょうか。
手ブレ補正の段数もわずかに違いがありますが、ボディ内手ブレ補正対応のカメラを使用する場合はそこまで大きな差ではないかと思います。
近接撮影比較
XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRの特徴である最短撮影距離83cmという点は、個人的にとても便利だと感じます。私はあまりマクロ的な撮影は行いませんが、小さな花を見つけたときなどは近接撮影をしたくなります。マクロレンズを持ち歩くと荷物がひとつ増えてしまうので標準レンズで寄って撮影するのですが、もう一歩近づけたらなと思うシーンがよくあります。そのようなときにはこのレンズは望遠マクロレンズ的にも十分使えると感じました。
四季折々の花が咲く奈良県河合町にある馬見丘陵公園で、チューリップが満開との情報を聞き出かけました。ここでは夏にはバラや花菖蒲、ヒマワリ、秋にはダリアやコスモスなど色とりどりの花が咲き被写体に事欠きません。
XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISの400mmで撮影。最短撮影距離が175cmなのでかなり離れた位置から撮影することになります。このようなシーンではもう一歩近づいて撮れればと思ってしまいます。
次にXF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRの300mmで撮影。35mm換算457mmの焦点距離と最短撮影距離83cmとが相まって、まるで望遠マクロレンズで撮影したかのような写真を撮ることができました。
さらに、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRにテレコンバーター「XF1.4X TC WR」を装着し、35mm換算640mm相当で撮影。同じ位置からの撮影ですが、画角がさらに狭まったことで花びらの模様のひとつひとつまで見えるようになりました。
参考までにXC50-230mmF4.5-6.7 OIS IIの230mmで撮影。キットレンズとしてはかなり近接撮影ができますが、焦点距離が230mmと他の2本のレンズと比べると少し見劣りします。
結局どれがいい?
望遠レンズを選ぶ際には、今使っている標準域のレンズとの組み合わせも重要です。また、旅や風景の撮影の場合は極力撮影できない焦点距離がないことが理想です。
標準レンズはすでに持っていて望遠レンズを追加でということであれば、手持ちがXF16-80mmF4 R OIS WRの場合は迷わずXF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WRがおすすめです。XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRの場合は、標準レンズで比較的望遠域まで撮れてしまうのでXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISを選択するのもいいと思います。
XF18-55mmF2.8-4 R LM OISもしくはXF16-55mmF2.8 R LM WRの場合は、XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS(またはXC50-230mmF4.5-6.7 OIS II)も選択肢に入るでしょう。
ただ、最望遠側を使う頻度が多い方にはXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OISをお勧めしたいです。
標準レンズ選びについては以前に記事を書いていますので、そちらも参考にしていただければと思います。
▼富士フイルム レンズ比較|旅写真家が選ぶ標準ズームはどれ?
https://www.kitamura.jp/shasha/article/473424050/
XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR作例
今年の春は新型コロナウイルス感染拡大の影響で遠方の撮影には行けませんでしたので、私の住む奈良の春の景色を紹介させていただきます。来年こそは安心して撮影にいけることを願うばかりです。
1.福貴畑(奈良県生駒郡平群町)
あまり知られていない場所ですが3月中旬頃には桃、白や赤のモクレン、レンギョウ、サンシュユ、ボケ、椿、桜などが咲き乱れその光景はまさに桃源郷。家から近いのでよく通っています。日の出の時間帯がお勧めです。
2.又兵衛桜(奈良県宇陀市大宇陀)
戦国武将後藤又兵衛が当地へ落ち延び、僧侶となって一生を終えたという伝説が残るしだれ桜です。例年なら駐車場に入るのに大渋滞するほどの名所ですが、今年は訪れる人も比較的少なくゆっくりと樹齢300年の巨木と向き合うことができました。
3.高見の郷(奈良県吉野郡東吉野村)
林業を営む土地の所有者が植え始めたしだれ桜が年々成長して、今ではまるでしだれ桜の海のような光景が広がっています。しだれ桜が1000本咲き誇る光景は全国的にも珍しく、最近話題のスポットになっています。実は今年初めて訪れたのですがその圧倒的なボリュームに感動しました。
4.吉野山(奈良県吉野郡吉野町)
世界遺産地域でもあり奈良が全国に誇る桜の名所「吉野山」です。吉野の桜は下千本・中千本・上千本・奥千本のエリアに分かれ、下から順に見ごろを迎えます。カメラマンに人気の上千本は例年ですと4月中旬ごろが見ごろなのですが今年はとても早く4月上旬に満開を迎えました。とくに雨上がりの早朝には雲海が発生することが多く毎年狙うのですが、短い満開時期と雲海がうまく重なることは稀です。
5.くろんど池(奈良県生駒市高山町)
最後は私の住む生駒市にある「くろんど池」で撮影したものです。寒暖差の大きい日の早朝には湖沼霧がよく発生します。日の出の光が湖面に差し込む時間帯、背景が影になり神秘的な光景が現れました。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師