発見と驚きは写真の醍醐味 XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro|写真がもっと楽しくなるX
メーカーの顔と言っていいマクロレンズ
XF60mmF2.4 R Macroのときだったか、「一般的にマクロレンズは、解像力でそのメーカーのベンチマーク的な性能をもっている」と書きました。そのためマクロレンズの歴史は伝説として語られています。
おそらく無理して小型軽量にするより画質に特化したレンズ設計がしやすいことや、「味わいとやさしさ」といった基準で評価されることがないので、ひたすら性能を追求できるからでしょう。
このXF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroもXFシリーズとしてはかなり重く大きいです。初めて使ったときには「うわっ、等倍テレマクロが手持ちでバンバン撮れるよ、すげえ!」と感激しましたが、先に書いたようにマクロレンズにはどこのメーカーも力を注いでいるので、ライバルになるレンズがいくつかあります。
これもXF60mmF2.4 R Macroのときに書きましたが、マクロレンズをメインで使うような人たちは、そのレンズの描写と使い勝手だけのためにメーカーを選ぶくらいの覚悟と要求の厳しさがあります。逆から考えれば、いいマクロレンズがラインナップされていれば一定数のユーザーを確保できるということです。そこもメーカーが力を注ぐ理由かもしれません。
マクロレンズの評価は人それぞれ
難しいのは、マクロレンズの性能のどの部分を評価するか、人それぞれなところ。ポートレートならまずはボケの美しさ、次がピント部分のキレ、質感描写、逆光に対するタフさが続いて、AF速度はそれほど重視されないでしょう。多少は優先順位が違ったとしても、人気のレンズは誰が使っても評価は高いのが普通です。
ではマクロは?
扱う被写体は意外に幅広いです。ジュエリーや時計のブツ撮りだと、近接いっぱいで絞り込んで使われることが多く、解像力がひたすら求められます。ネイチャーだと、風で揺れる花や宙を舞う蝶を追えるAF、ボケの美しさ、ピント部分のシャープネス、悪天候に対するタフさ(防塵防滴)、撮影スタイルによっては手ブレ補正の効き具合など、総合的なバランスを気にする人が多いのではないでしょうか。
そういった背景が反映するのか、総合点が高いマクロレンズはあっても、万人が認めるレンズは稀で評価が分かれる傾向にあるようです。
Xシリーズの場合、等倍で撮れるレンズはXF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroとXF30mmF2.8 R LM WR Macroしかありませんから、メーカーを優先して「フジのカメラが好きで、この色で撮りたい」と思っていたら、このレンズを選ぶことになります。
そこで今回は、マクロをメインで使わない写真家がこのレンズを使ってみて正直に思ったことを書いてみます。
いつの間にか時代は変わっていた
フィルム時代に等倍マクロといったら、専門のスキルがないと撮るのが難しく、レンズカタログの華でした。近接になるほど被写界深度が浅くなり、わずかなピント位置の違いで写真の印象が激変します。三脚は必須。
ところがスキルがまったくないのに、試してみたいという気持ちだけで風の強い野外に持ち出して、三脚も立てずに絞り開放で撮っても、ちゃんとAFでピントが合います。マクロレンズはボディ内手ブレ補正よりもレンズ内手ブレ補正のほうが効果が高いとされていて、そのおかげでファインダー像が揺れないのも助かりました。フレーミングの精度が違います。無理なホールディングをしないでいいため、軽いレンズではありませんが疲れにくかったです。
マクロレンズの使い方に斬新なアイディアがなく、どこかで見たような写真を真似することしかできないけれど、子どもに戻ったような楽しさがあります。あっちの花はどうだろう、こっちの草は、とマクロレンズを通して見る世界の美しさに夢中になって、すぐにバッテリーが空になりました。X-T3だったので400枚くらいでしょうか、フィルムだったら10本以上を一瞬で撮り切った感覚です。
「こりゃあ、マクロレンズのファンが多いはずだよ」と納得しました。
もちろんスキルがあったほうがいいですけれど、「マクロって難しいんでしょ?」というハードルは、この世代のレンズからはずいぶん下がっていると思います。気軽にチャレンジしてもらいたいです。テクノロジーが手助けしてくれる部分は多いので。
描写性能
ずっと繰り返してきたように解像力ではメーカーのベンチマーク級という先入観があるため、ピント部分は鋭すぎるくらいなのではと想像していたのですが、カリッとした感じはありません。どちらかといえば甘さを感じない程度に軟らかいです。
口径食もしっかりあって、XF90mmF2 R LM WR(このレンズも素晴らしいので近いうちに取り上げる予定)のほうがむしろマクロレンズっぽいのではと思ったほど。マクロではないのに近接に強く、絞り開放から恐ろしいほどシャープで、口径食がほとんどありません。
そんな気持ちを抱きつつ写真を並べて見ていて、マクロレンズ特有の違和感がないことに気づきます。写真として見たときに美しいんですね。かなり近距離で撮っていて、他のレンズでは踏み込めない距離なのに、日常の延長として見ることができます。
パソコンのモニターに近寄って、等倍に拡大して「くぅ~!」と唸るような鑑賞ではなく、プリントや印刷で見たときに、色やトーンとの相乗効果で美しさを感じる描写だと思います。プロセッサーでシャープにしているような不自然さがない。おかげで被写体の美しさが主張してくれます。
令和のマクロ写真
等倍マクロの撮影など滅多にないので、まずはベルビアにして、フォーカスリミッターを近距離に設定して……と、どこかの教則本に書いてあるようなことを無意識にやっていました。XF60mmF2.4 R Macroの記事を見てもらうと、あちらのほうがずっと自由でクリエイティブなチャレンジをしていると思います。ということは、レンズに使わされてしまったという部分があるのかも。
まだまだマクロレンズには未知の可能性があると思います。レンズ越しにしか見られない驚きがあって、写真の醍醐味を感じさせてくれるジャンルですので、このレンズを手に入れた人たちの挑戦を見たいです。
マクロレンズで撮るポートレートは、インパクトはあるけどシャープすぎて……という声が多かったですが、このレンズなら大丈夫。第五世代から搭載されたスムーススキンエフェクト(解像力が上がりすぎることで肌の質感が美しく見えないことを補正する機能=効果がすごい)を組み合わせるのもお勧めです。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist