蘇れ、名機たち 第3回:もっとも気軽で小さなX|FUJIFILM XQ2の魅力を語ろう
カメラマニアの喜びと悩み
自分が撮っている写真を、友だちや家族が気に入ってくれているとします。「なんだか綺麗なんだよね」「色がいいわ」「スマートフォンじゃこうは撮れないよ」とかいうふうに褒めてもらえると嬉しいですよね。高いカメラを買って良かったと思える瞬間です。
余談ですが、スポーツジムに通って筋トレを始めた頃に、インストラクターがプロテインと並ぶくらい重要だとして「周囲の人の声」を挙げていました。「あれ?なんか体つきが変わったんじゃない!」と言ってもらえるだけで励みになるからです。続けることは大切で、そのためには心にも栄養が必要というわけ。
写真は自己満足でいいと思うのですが、ときどき自信や勇気をもらって、モチベーションが向上する周囲の声があるといいですよね。
周りの人たちに「あの人は写真が上手い」「カメラのことで困ったら相談するといい」という評判が定着すると、「カメラが欲しいのですがおすすめはありますか?」と聞かれることがあります。
これは究極の質問。
安い買い物じゃないですし、その人が撮りたいものや生活スタイル、カメラを使う頻度、撮影スキル、着る服、手の大きさ、いつも使っているカバンといったものまで影響するから。おすすめランチを紹介するように気軽に勧めるわけにいきません。
何が撮りたいかわかったとして、じゃあレンズはどうするのか。同じカメラでも付けるレンズで使い勝手はまるで違います。単焦点の標準レンズだったら最高の写真が撮れたかもしれないのに、たまたま買った標準ズームとの相性が悪くて「なんだか撮りづらいな。写真って難しい」と思われたら残念すぎます。
彼や彼女のためのX
そんなとき気軽に勧められるから、コンパクトカメラの復活を熱望しています。そこで今回のXQ2。
サブカメラとしてもちろんのこと、写真家の家族が使っていたり、知り合いにプレゼントとして選んだり、Xユーザーが身近な人に勧める機種として定評がありました。ぼくもお世話になった人に贈ったことがありますが、「こんなに綺麗に撮れてビックリ」とメッセージが添えられ写真が送られてきたとき嬉しかったです。
自分が愛用しているのと同じメーカーだと、フィルムシミュレーションをカラーモードと言い換えたりしなくていいので教えるのが簡単なだけでなく、Xシリーズの場合はどの時代のどの機種でも色が揃っているのでありがたいです。
最新のフラッグシップX-T5のプロビアと、2015年発売のコンパクトXQ2のプロビアと、ほとんど同じに見える。それぞれのユーザーが「やっぱりプロビアはいいよね、ラーメンに例えるといつでも食べたくなる出汁の効いた醤油味だな」と話せるってすごいことだと思います。
XQ2はX-Trans CMOS IIが搭載されているので、X100T、X-T1、X-E2あたりと同世代になります。位相差によってXシリーズの弱点だとされてきたAFが劇的に改善され、大きく飛躍するタイミングでした。
先ほど、どの時期のカメラでも色が揃っていると書きましたが、中古で手に入れるときにバッテリーのことはもちろんとして、どうしても使いたいフィルムシミュレーションが搭載されているか確認したいところ。XQ2はクラシッククロームまで入っています。ACROSがないのは残念ですが、2/3型センサーでモノクロの階調やグレインエフェクトの効果を期待するのは難しいので十分だと思います。
それよりも小さなポケットに気軽に入れておける携帯性のほうが重要。現在のスマートフォンのスタンダードと比較して、圧倒的に小さいです。
XQ2との旅の記憶、後継機への期待
冬のパリとロンドンに持って行って、メインカメラが他にあるのにやたら楽しくなって撮りまくった記憶があります。
撮り直しができない旅先で、もっと画質がいいカメラがあるならそっちで撮らない理由がありません。ふつうは後で後悔します。でも気軽というのは絶対的な価値があって、ふだんだったら撮らないようなものにカメラを向けてシャッターが切れるため、いい写真が多いんです。
センサーは小さくても、開放F1.8のレンズと最短撮影距離3cmのおかげでボケの表現も自在。起動が早く、コートから取り出しながら電源を入れてさっと構えて撮るリズムが心地よかったです。四枚の非球面を含む7枚のレンズが全てガラス製とか、小さくてもXシリーズの魂を感じるカメラでした。
酷使しすぎたのか電池室の蓋が開きづらく、あちこちガタがきていて、このまま引退させようかと思っていたのですが、ここ最近また出番が増えています。
というのも趣味でロードバイクに乗っているのですが、そのとき持つカメラとして抜群だから。ロードバイクはシンプルさが魅力なため、カゴはもちろんスタンドさえありません。荷物はなるべく持ちたくない。
スマートフォンはナビとして緊急時のためにも必要として、電子マネーで財布をまとめることができます。これでポケットがひとつ埋まります。もうひとつポケットが空いているからカメラを持ちたいと思ったとき、凹凸が少なく電源オフのときにはレンズが格納されて守られるXQ2は最高。25-100mmのズームに手ブレ補正まであります。しかもフラッシュ内蔵。
センサーサイズでも画素数でもスマートフォンに太刀打ちできません。それでもXQ2はカメラを使っている喜びを感じさせてくれます。
もう一台買っておこうかな・・・と調べて、高騰している相場に震えました。後継機があったらいいですよね。
次があれば必ず搭載されるだろうクラシックネガはすごく似合うと思います。もともとが民生ネガを再現したわけで、気軽なコンパクトカメラと相性が悪いはずがない。
ジャージのポケットに入れておくと汗や湿気で不安になるから、防塵防滴だったらありがたいのだけれど。さらにわがままを言うならXF1の後継機だったら最高で、その話はいずれ。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist