Hasselblad 907X & CFV II 50C|下を向いて世界を眺めれば素晴らしい世界が広がっている

はじめに
ここ最近の流れを見ていると、一般ユーザーにも中判フォーマットのデジタルカメラがその市民権を拡大しているように感じる。ちょっと前までは特殊とは言わないまでも、一部のプロが扱う機材といった感じでちょっと敷居が高い存在だった。それが表現の幅を広げる一つの選択肢として選ばれるようになったわけだ。
今回取り上げるHasselblad 907X & CFV II 50Cは2020年発売の中判ミラーレスカメラ。すでに中判を手にしている人、もしくはこれから中判の世界に足を踏み入れようとしている人にとって、発売から5年程経った今でも非常に気になるカメラではないだろうか。スペック周りは色々レビューされてきたので、今回は一切の忖度なしに良いところ・悪いところを薄型レンズ「XCD 4/45P」と共にぶった斬るつもりで書いていきたいと思う。
世界を見る目が変わるウェストレベルファインダー

■撮影環境:F8 1/180秒 ISO100
Hasselblad 907X & CFV II 50Cは、5000万画素16bitの中判センサーを搭載したデジタルバック部である「CFV II 50C」と、僅か2.8センチのカメラボディと呼んでいいのか分からないほど薄い「907X」の2ユニットから構成されている。Xシリーズのミラーレスカメラとしても使えるほか、「CFV II 50C」のみを使って500C/Mといった往年の名機をデジタルカメラとして蘇らせることができる。既に「CFV II 50C」はディスコンとなって高画素化した「CFV 100C」が現行機種となったが、1機種の息が長い中判デジタル、まだまだ「CFV II 50C」のポテンシャルは現役だ。
ハイブリッドな使い方ができる本機だが、表現を具現化する機械として見た時に一番の真価はやはり「ウェストレベルファインダー」にあると思う。

■撮影機材:Hasselblad 907X & CFV II 50C + XCD 4/45P
■撮影環境:F8 1/90秒 ISO100
撮影者の視線の位置は写真に影響する。特に下を向いて撮影するスタイルのウェストレベルファインダーは、それだけで世界の見え方が変わるようにすら思える。自然とローアングル気味になるので意識せずとも出てくる写真に変化が出てくる。世界の見え方に広がりが出ると言ってもいいかもしれない。
被写体からすれば撮影者の圧が減るので、ポートレートやスナップにも向いているとも言われてきた。

このように構えるため必然と普段よりもローアングルになる。かの有名なローライコードを構えたエルスケンのセルフポートレートを真似た人も多いのではないだろうか。

■撮影環境:F9.5 1/500秒 ISO100
ただ、ハッセルやローライと違って搭載しているセンサーは43.8 × 32.9mmと正方形ではない為、縦位置で撮ろうとするとこのまま撮るのは難しい。欲を言えばマミヤRB67のように、センサー部をリボルビングできる機構があればなお良かったのにと無い物ねだりをしてしまう。

■撮影環境:F5.6 1/1250秒 ISO200
また、従来のHasselbladのようにスクウェアで撮ろうとアスペクト比を1:1に変えても背面モニタではトリミングされるだけなのでちょっと味気ない。
筆者のフィルムHasselblad歴は500C/Mと500ELXだけで、このスタイルのカメラはブロニカSQ-Aのほうが長く使ったが、お世辞にもHasselbladで撮っている感はほぼ感じられないのがもったいない。無論それを望むならデジタルバックとして使えばよいのだが・・・。
これが16bit 14階調の絵か ただ・・・

■撮影環境:F9.5 1/350秒 ISO100
ちなみに筆者がHasselblad 907X & CFV II 50Cに興味を持ったきっかけは、作品のレタッチ依頼を受けてPhotoshopで開いたそのデータに驚愕したことに端を発する。非常に高い解像感と共存する滑らかな質感、しかもISO400でこれとは恐れ入った!と、モニタを前にしばし静止してしまったのを今でも覚えている。

■撮影環境:F9.5 1/350秒 ISO100

■撮影環境:F9.5 1/1000秒 ISO100
レンズが良いのか、センサーのせいなのか。今まで中判デジタルに関してはPENTAX 645D/Z、FUJIFILM GFX 50S、PhaseOne IQ4と使ってきたが、それらとは明らかに異なる方向性のデータなのだ。
今回はAdobeにてRAWデータを現像しているが、ハッセルが提供する現像ソフト「Phocus」を使っても大差ないように感じられた。シグマのフォビオン(Foveon)データのように純正ソフトを使わないとそのポテンシャルが発揮されないという事もないので、UIが合う方を使えば良いと思う。
ちなみに今回はレンズの周辺光量落ちなどはそのまま伝えようと、現像時にプロファイル補正はしていない。

■撮影環境:F6.8 1/1500秒 ISO100
出てくる絵はこんなにも素晴らしいのに、2020年発売のカメラに言うのもなんだが、背面モニタの再現性がイマイチなのが惜しい。ハイライト側の再現が微妙なせいか、初代SIGMA DP1のようなフォビオンカラーにも似た絵が映し出されることがままある。
良く言えば、家に帰ってみてパソコンで開いたら「このカットすごくいいじゃん!」となる嬉しさはあるが。ここはヒストグラム確認に割り切った方が良いだろう。
タッチパネルでの操作はどうなのか?

■撮影環境:F4.8 1/350秒 ISO100
前章に引き続き背面モニタの話になるが、Hasselblad 907X & CFV II 50Cは別売りのコントロールグリップをつけない限り、ほぼ全ての操作・設定がタッチパネルを使うことになる。一応シャッターボタン周りにダイヤルがついているが、操作性は良いとは言えない。
デジタルバックでもあるので仕方ないといえばそれまでだが、この機種を買う人はおそらくこのコンパクトさも魅力と感じているだろうからこの組み合わせで使う事のほうが多いだろう。

■撮影機材:Hasselblad 907X & CFV II 50C + XCD 4/45P
■撮影環境:F8 1/250秒 ISO100
結論から言えば、タッチパネルは「思っていたよりは使える。が、やはり物理ボタンがあればもっと快適だった」というところだ。
特にこれといった誤作動を生むことは無いが、指の湿気のせいか時折タッチ操作の反応が悪くなることがある。そのせいで肝心なショットを撮り逃しては目も当てられない。快適に使うには別売りのコントロールグリップとなるが、コンパクトさが犠牲になってしまう。いやはや難しいところだ。
レンズシャッターの素晴らしさに舌を巻く

■撮影機材:Hasselblad 907X & CFV II 50C + XCD 4/45P
■撮影環境:F5.6 1/1250秒 ISO100
大型センサーを持つ中判デジタルは僅かなブレでも大きな画質劣化につながる。高画素センサーもそうだが、特に作品を数メートルにプリントする筆者にとってブレは極力排除したい要素だ。
メインとして長く使っているPENTAX 645Zでは、シャッタースピードが1/500以下にならないようにするなど細心の注意を払っている。ところがこいつはレンズシャッター、しっかり構えて撮れば1/60でもブレないのだ。今回使用しているのが45mmとワイドレンズのせいもあるが、これには驚いた。

■撮影環境:F8 1/350秒 ISO100

■撮影環境: F5.6 1/100秒 ISO100
手ブレ補正が入ったフルサイズ機を使っている方からすれば、何を言っているんだ?と、なるかもしれないが長くフォーカルプレーンを使ってきた身としては、アメ車なのに燃費がプリウスを超えたかのような驚愕ぶりなのだ。

■撮影環境: F4 1/400秒 ISO1600
中判としては高感度に強いセンサーだが、低速が切れることでより良好な描写が得られる低感度で撮れることは大きい。今までなら陽が落ちてカラスが鳴いたら撮影終了だったところが、そこから一時間は撮れるわけだ。本機は現像ソフトによるところもあるが、ISO1600あたりでも出てくるノイズに嫌味がないので、好みによってはISO400辺りを常用としてもいいのかもしれない。
割り切りが必要なAF
本機の一番のウィークポイントはAFかもしれない。都市風景をメインとしている筆者はたいてい5メートルから無限遠あたりなのでそこまで気にならないが、そこからちょっと寄ってみようとするとすぐ迷ってしまう。

■撮影環境: F4 1/250秒 ISO400

■撮影環境:F4 1/250秒 ISO400
ではMFにすればいいのかと思えば、ピーキングが分かりにくい。何度も細かい設定が隠れているのではないかと思ったが、クセに慣れるしかないみたいだ。マクロレンズなどにあるように、フォーカスリミットを全てのレンズで使えるようにしてくれたらもっとストレスなく撮れたように思う。

■撮影環境:F6.8 1/350秒 ISO100
AFはイマイチと感じるものの、一般的なフルサイズとは違って一つの被写体としっかり対峙して丁寧に撮るというのが中判の良さだと思うので、正直筆者は使っていて苦にはならない。
135フォーマット機の延長と捉えるか、全くの別物と捉えるか、ここは撮影者次第だろう。
まとめ
結構辛口に気になるポイントを述べてきたが、それらを踏まえても持っているだけで撮りたくなる「写欲」を掻き立ててくれるカメラであることは間違いない。作品撮りから、そのコンパクトさを活かして日常をリッチに切り撮りたくなる魅力にあふれている。
気がついたら横にいた、そんな存在ながら出てくる絵はとてつもない。実際日常というものをあまり撮らない筆者であったが、今までカメラを向けなかったところを撮るようになった。
写真というのは自分がどう世界を見ているか可視化するツール、その見方をリッチにしてくれるカメラである。
■新納翔 写真展「BUG」
京都市内で開催中の公募型アートフェスティバル「KG+」にて、5月1日(木)~5月11日(日)の期間で作品展示を行います。

都市風景を撮影していると、ふと妙な違和感を抱くことがある。まるでコンピュータウィルスが作ったバグのような、そこだけ時代のリンクが切れてしまったかのような景色。それが未来都市の片鱗に思えた。都市に散らばる欠片を集めていけば未来を写し撮ることが出来る気がした。1960年代、輸送網の発達によって巨大都市が結びつく様が「メガロポリス」と提唱された。ネットワークが仮想空間にまで広がった現在、その未来都市をメガの単位をより大きくし「ペタロポリス」と呼ぶことにした。 今作は2022年発表の「ペタロポリス」を再考・拡張し、バグにまみれた都市風景を可視化したものだ。メイン作品は一枚の写真を20枚ほど複製し、部分的に切り取り変形させて合成したモンタージュである。その作業は都市のスクラップアンドビルドにどこか通じる。様々な問題に揺れる今、我々の未来は豊かになっているのだろうか?バグだらけの都市風景から未来を垣間見るのだ。
展示期間:2025年5月1日(木)~5月11日(日)
展示場所:GALLERY GARAGE
京都市南区東九条北松ノ木町7-1
時間:12:00 – 19:00
入場無料
詳細ページ:https://kgplus.kyotographie.jp/exhibitions/2025/sho-niiro/
■写真展開催記念トークイベント
「ばぐった世界の先にあるもの」
写真家 新納翔とオカルト研究家 角由紀子によるクロストークを開催します。バグった都市風景をアートとオカルトの視点から切り開きます。
日時:2025年5月3日(土)18:00~
場所:GALLERY GARAGE(写真展と同会場)
参加費:1,500円

■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。