解像力と色再現の革新 | Hasselblad 907X & CFV 100Cによる都市景観の芸術的表現

Amatou
解像力と色再現の革新 | Hasselblad 907X & CFV 100Cによる都市景観の芸術的表現

はじめに

Hasselblad 907X & CFV 100Cはクラシックなデザインに最新の1億画素デジタルセンサーを融合した中判デジタルカメラシステムです。
このシステムは、高解像度と16ビットのカラー深度により、微細なディテールや豊かな階調表現を忠実に再現します

本記事では、主にそのデザイン、操作性、画質、色再現性について詳述し、35mmフルサイズとの差別化要素についても触れながら、Hasselblad 907X & CFV 100Cの特性が都市風景の撮影でどのように活用され、どのような表現力を与えるのかを深く掘り下げていきます。

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 4/28P
設定:ISO64 28mm(フルサイズ換算22 mm相当) f11 271秒

中判デジタルカメラについて

機材の紹介をする前にまずは、馴染みの薄い「中判デジタルカメラ」について紹介いたします。

中判デジタルカメラは、35mmフルサイズカメラよりも大きなセンサーを搭載し、卓越した解像度と豊かな階調表現を可能にするカメラシステムです。そのセンサーサイズは、一般的に43.8mm×32.9mmから53.4mm×40.0mm程度で、35mmフルサイズ(36mm×24mm)と比較して約1.7倍から2.5倍の面積を持ちます。この大きなセンサーにより、より多くの光を取り込むことが可能となり、ハイライトからシャドウまでの幅広いダイナミックレンジを実現します。

今回紹介するHasselblad CFV 100Cのセンサーサイズは約44mm×33mmであり、厳密には「ラージフォーマット」に分類されますが、35mmフルサイズ機よりも大きなセンサーを搭載しているカメラのことを中判デジタルカメラの範囲として指すことが多いです。

中判デジタルカメラは、そのセンサーサイズの大きさから広告写真、ファッション写真、風景写真、建築写真など、精緻な描写と高い画質が求められる分野で広く活用されています。特に都市景観の撮影においては、建築物のディテールや街並みの質感を高精細に捉え、視覚的なインパクトを与える作品を生み出すことができます。

Hasselblad 907X & CFV 100Cの紹介

以上のように説明させていただいた中判デジタルカメラですが、その中でも中判カメラの分野で長い歴史と革新を誇るスウェーデンのメーカーがHasselbladです。フィルムカメラ時代からその品質の高さで知られ、NASAのアポロ計画での採用をはじめ、数多くのプロフェッショナルからの支持を得てきました。デジタル化が進む現代においても、Hasselbladはその伝統を守りつつ、革新的な技術を取り入れ続けています。

Hasselbladは特に「作品としての写真」を追求するフォトグラファーに向いています。たとえば、撮影の瞬間にとどまらず、そこから作品に仕上げて展示したい方や、広告やファッションといった場面で圧倒的な表現力が必要な方にとって、Hasselbladのカメラはその期待に応える性能を備えています。

大判プリントでも撮影時のディテールや質感が損なわれないため、ギャラリー展示やクライアントワークなどでの説得力が高く、フォトグラファーの意図を存分に伝えることができます。

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 4/28P
設定:ISO64 28mm(フルサイズ換算22 mm相当) f11 228秒

その中でも今回紹介するHasselblad 907X & CFV 100Cは、ボディである907XとデジタルバックであるCFV 100Cから成り立っています。
クラシックなデザインを再現しつつ、最新の1億画素センサーや独自のHNCS(Hasselblad Natural Color Solution)を搭載しています。これにより、自然で豊かな色再現と深みのある階調表現を実現し、芸術的な表現を追求するフォトグラファーにとって理想的なシステムとなっています。

907Xボディは、ハッセルブラッドの伝統的なVシリーズを彷彿とさせるミニマルなデザインを採用しています。その薄型で軽量なボディは、携行性に優れ、都市の狭い路地や高層ビルの間を移動しながらの撮影にも適しています。CFV 100Cデジタルバックは、3.2インチのチルト式タッチスクリーンを備え、直感的な操作が可能です。このスクリーンは、ウエストレベルでの撮影を可能にし、都市風景の独特なアングルを捉える際に有用です。シンプルで洗練されたユーザーインターフェースにより、撮影中の設定変更や画像確認もスムーズに行えます。

さらにこのカメラには1TBの内蔵SSDを搭載しています。このSSDは、書き込み速度が最大2370MB/s、読み込み速度が最大2850MB/sと高速であり、高解像度の画像データを迅速に保存・読み出しできます。RAW形式の写真を約4,700枚、JPG形式で約28,000枚保存可能です。この大容量かつ高速なストレージにより、長時間の撮影や高解像度の連続撮影でも、外部ストレージに依存せずに撮影を進めることができます。

907XとCFV 100Cを組み合わせた重量は約620g(バッテリー及びメモリーカードを除く)で、前世代モデルから120gの軽量化が図られています。中判デジタルカメラとは思えない軽量設計により、長時間の撮影や移動を伴う撮影でも負担が少なく、機動力が求められる撮影スタイルにも適しています。

長時間露光における優位性

Hasselblad 907X & CFV 100Cは、カメラ本体で最大68分のシャッタースピードを直接設定でき、長時間露光撮影を容易にする設計が特徴的です。NDフィルターを使用して30秒を超える露光が必要な場面でも、従来のようにマニュアルモードやバルブモードに切り替えて手動で時間を計測する必要がありません。適切なシャッタースピードを逐一計算する手間も省かれ、操作の煩雑さが大幅に軽減されています。

従来のバルブ撮影では、シャッターが開いている時間を手動で測るか、タイマーを使用して精密に管理する必要がありました。しかし、Hasselblad 907X & CFV 100Cでは、絞り優先モードを使用することでカメラが自動的に最適なシャッタースピードを計算し設定します。高濃度NDフィルター(例:ND32000やND64000)を装着して数分から数十分の露光が必要なシーンでも、瞬時に適切な露光を得られ、撮影に集中できます。

私自身、都市景観における長時間露光を好み、3分から10分の露光で動的な要素(流れる雲や水の動き)と静的な建造物のコントラストを強調する撮影を多用しています。Hasselblad 907X & CFV 100Cは、シャッタースピードの計算手間を解消し、精緻な表現が求められるシーンでもスムーズに対応できるため、長時間露光を用いた作品制作において非常に有用です。

このシステムは、露光と時間を正確に管理することで、創作の自由度を大いに広げる理想的なカメラと言えます。

日中の都市景観長時間露光におけるHasselbladの実力

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 4/28P
設定:ISO64 28mm(フルサイズ換算22 mm相当) f8 228秒

この写真は、都市の橋梁と背景の都市景観をテーマにしています。長時間露光により、滑らかな水面と静かに流れる雲が表現され、喧騒から離れた静寂が感じられます。全体のバランスのとれた階調と緻密なディテールが際立っています。

Hasselblad 907X & CFV 100Cは、暗部を含むシーンでも驚異的なダイナミックレンジとノイズ耐性を保ちます。この写真では、橋梁の下部が非常に暗く写っていましたが、レタッチでシャドウ部を持ち上げてもノイズが目立ちません。16bitカラーと中判センサーの強みが発揮され、撮影後の編集でも表現の自由度が広がり、作品のクオリティを損なうことなく繊細な調整が可能です。

この作品は、Hasselblad 907X & CFV 100Cが持つダイナミックレンジの広さや、暗部のノイズ抑制性能がいかに都市景観撮影で有効であるかを示しており、静寂さと壮大さを兼ね備えた表現を可能にする、他に類を見ないシステムであることがわかります。

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 2,5/55V
設定:ISO64 55mm(フルサイズ換算43 mm相当) f16 181秒

この写真は、高層ビル群と橋梁を主題とし、撮影後に若干のトリミングを行なっております。長時間露光により、雲の動きが滑らかに表現され、静的な建築物との対比が美しく際立っています。

Hasselblad 907X & CFV 100Cの1億画素センサーは、撮影後の大胆なトリミングでもディテールの損失や画質の劣化を心配する必要がありません。広い画角で撮影し、後に理想的な構図を自由に切り出すことが可能です。一般的なカメラでは大幅なトリミングは画質低下のリスクがありますが、このシステムではその懸念が大幅に軽減されます。

また、f16という絞り値でも、レンズの光学性能とセンサーの組み合わせにより、回折による解像度の低下が最小限に抑えられています。画面全域で高いシャープネスが維持され、細部まで鮮明な描写が可能です。中判センサーの大きさは被写界深度のコントロールにも寄与し、前景から背景までクリアなフォーカスを可能にします。

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 2,5/55V
設定:ISO64 55mm(フルサイズ換算43 mm相当) f11 241秒

この写真は、都会のビル群と橋梁をモノクロームで表現した作品です。Hasselblad 907X & CFV 100Cの特徴を活かし、長時間露光によって水面は滑らかに、雲は柔らかく流れるように表現され、静謐でドラマティックな都市の風景が描き出されています。

Hasselblad 907X & CFV 100Cには、他社のカメラでよく見られるようなフィルムシミュレーション機能や、モノクロの撮影モードはありません。しかし、膨大なダイナミックレンジと16bitカラー深度により、レタッチによって簡単に自然なモノクロ表現が可能です。この写真も、カラーで撮影したものを後からモノクロ変換し、都市の硬質な質感と陰影を強調しています。Hasselbladのカメラは、画像の階調が非常に豊かで、細部の描写力が高いため、モノクロに変換しても失われる情報が少なく、深みのある表現が得られます。

HasselbladはHNCSにより、フィルターやシミュレーションに頼らない「素材そのものの質」を重視するフォトグラファーに最適です。後処理でモノクロやトーン調整を自由に行えるため、撮影者の意図や表現に応じて作品の方向性を柔軟に変えることができます。このように、ハッセルブラッドのカメラは、都市の静かな威厳を感じさせる作品作りにおいて、他にはない表現力と柔軟性をもたらしてくれるツールです。

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 4/28P
設定:ISO64 28mm(フルサイズ換算22 mm相当) f8 609秒

この写真は10分以上のシャッタースピードで撮影することで、都市景観を滑らかかつ精緻に表現しています。長時間露光による空の流れや水面の静けさが、動的と静的の対比を強調し、高層ビル群を際立たせています。

長時間露光では、一般的に熱によるノイズが発生しやすく、暗部や微妙な階調でノイズが目立つことがあります。しかし、Hasselblad 907X & CFV 100Cはその高解像度と中判センサーの特性により、長時間の露光でもノイズを抑え、シャープでクリアなディテールを再現しています。実際の撮影では、ノイズはほとんど確認されず、建築物や水面の細やかな質感がしっかりと表現され、作品全体に統一感のある洗練された印象を与えています。

また、16ビットのカラー深度により、建造物と空や水面の微妙な色彩の変化が滑らかに再現されています。これはHasselblad独自のHNCS(Hasselblad Natural Colour Solution)によるもので、自然な色調と繊細な階調を実現し、詩的な表現を可能にしています。

おわりに

使用機材:Hasselblad 907X & CFV 100C + XCD 4/28P
設定:ISO64 28mm(フルサイズ換算22 mm相当) f11 304秒

Hasselblad 907X & CFV 100Cは、クラシックなデザインと最先端の技術を融合した中判デジタルカメラシステムであり、都市風景の撮影でもその真価を発揮します。高解像度センサーによる圧倒的な描写力、豊かな階調表現はフォトグラファーの創造性を最大限に引き出します。

しかし、このシステムにはいくつかの制約も存在します。例えば、動画撮影機能がないため、映像制作には適していません。また、1億画素の高解像度でありながら手ぶれ補正機能が内蔵されておらず、シャッタースピードが遅い撮影時には三脚の使用が必須となります。さらに、オートフォーカス(AF)はシングルポイントのみの対応であり、動きの速い被写体の撮影には不便さが伴います。これらの点は、一般的なカメラと比較すると制約が多いと言えるでしょう。

決して万人におすすめできるシステムではありませんが、Hasselblad 907X & CFV 100Cは、精緻なディテールを追求するフォトグラファーにとって、他に類を見ない表現力を与えるでしょう。長時間露光におけるノイズ耐性やダイナミックレンジの広さ、内蔵SSDによる高速なデータ転送と大容量ストレージは、撮影後のワークフローを効率化し、作品制作における創造性を最大限に発揮させてくれるシステムと言えます。

総じて、Hasselblad 907X & CFV 100Cは、フォトグラファーのビジョンを忠実に形にし、都市風景の撮影においても他にはない表現力をもたらします。作品としての写真を追求するフォトグラファーにとって、Hasselblad 907X & CFV 100Cは信頼できるパートナーとなることでしょう。

 

 

■写真家:Amatou
1995年千葉県生まれ。非現実的な都市景観の表現をコンセプトとしたファインアートフォトグラフィーをメインに撮影している。その独特な世界観が評価され、International Photography Awards、Sony World Photography Awardsをはじめ、国際的写真コンテストで数多くの上位入賞を果たす。

 

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