907X 50C レビュー|ハッセルブラッドらしいコンパクトな中判デジタルカメラ
はじめに
ローポジションで海と富士山を撮影。生憎の天気ではあったが、中判デジタルカメラの繊細な再現力により細かな部分までしっかりと表現できている。曇り空の濃淡までしっかりと表現できているのはさすがハッセルブラッドだ。
中判カメラファン待望のカメラ Hasselblad 907X 50Cがついに発売になった。筆者はハッセルブラッドのデジタルカメラを長らく使用しており2015年にはローカルアンバサダーまでさせていただいた。フィルムのHasselblad Vシリーズは学生時代から複数台所有し、H5D、X1Dなど様々なハッセルブラッドカメラを使用している。そしてついにHasselblad 907X 50Cが発売になった。実は筆者はHasselblad 907X 50Cの発売前に一足先に発売されたHasselblad 907X Special Editionを愛用してる。実際に様々な写真を撮影しているので作例を元にHasselblad 907X 50Cの魅力、中判デジタルカメラの魅力をご紹介していきたいと思う。
中判デジタルカメラの魅力はなんと言っても、独特の立体感とダイナミックレンジの広さだ。16bitのRAWから得られる最高の色情報のお陰で絶妙な色もしっかりと表現できている。
スペック
Hasselblad 907X 50Cはハイブリッドなカメラで2通りの使い方が可能だ。まず、本カメラはカメラ部分の907XとCFV II 50Cの2つのパートに分けることができる。まず、カメラ部の907Xは厚みは2.8cmと非常に薄く重量はなんと200gの軽量さを誇る。この907XをCFV II 50Cに装着するとオートフォーカスの中判ミラーレス機として使用できる。使用できるレンズは専用のXCDレンズやXH CONVERTER 0,8を使用して一部のレンズを除きほぼすべてのHCレンズを使用可能。その他のアダプターを使用すればXPANなども使用可能だ。筆者のオススメは専用設計のXCDレンズを使用することだろう。21mmF4や45mm F4P、80mm F1.9など魅力的なレンズが揃っている。専用のXCDレンズはすべてレンズシャッターで振動が少なくブレにくい設計になっている。また、1/2000秒まで全速でストロボと同調するのもポイントだ。
パンケーキレンズを付ければ中判とは思えないコンパクトなカメラになる。
CFV II 50Cはデジタルバックとなっており単体でHasselblad Vシリーズやアダプターを使って大判カメラなどにも装着できる。アナログカメラをデジタルカメラとして使用できるのもポイントだ。ハッセルブラッドのVシリーズやSWCカメラは殆どケーブルレスで使用できるのもポイントだ。CFV II 50Cは43.8 × 32.9 mmの大型CMOSセンサーを搭載する。画素数は5000万画素でピクセルピッチは5.3μmとなっている。16bitの階調でダイナミックレンジは14段と圧倒的な画像データを誇る。記録媒体はUHS-II対応のデュアルスロットだ。SDカードは順次記録と同時記録が可能だ。液晶モニターは236万画素、3.2インチのタッチパネルを採用している。チルト式のため液晶は90度可動する。
90度チルトする液晶のお陰で猫目線でバッチリと撮影できた。動物AFなどはないが最大 117点の選択可能なオートフォーカスポイントのお陰でしっかりとピント合わせができる。
筆者愛用の905SWCに装着。バッテリーが内部に入るため違和感がない。非常にバランスが良い印象だ。
フィルムバックと比べるとフィルムバックの方が小さいが、バッテリーが外に出ていないので違和感なくつかえる。
VシリーズやSWCシリーズなどオールドカメラを使用する場合はカメラのメニューから使用するカメラを選択しよう。
F8.0まで絞り込んで風景を撮影。CFE80mmの描写は未だ現役のシャープな描写が魅力だ。ディテールまでしっかりと表現できており、レンズ自体の階調も豊かだ。
最大で90度までチルトできるのウエストレベル撮影も楽々こなせる。
2枚のUHS-II対応のSDカードスロットを2つ搭載している。バッテリーもボディー内に収納可能になっている。バッテリーはX1Dシリーズと同じバッテリーを採用。
外観
外観はハッセルブラッドらしいソリッドで高級感が感じられる。丁寧な造りはプロダクトとしての美しさが感じられる。殆どのパーツは金属製でずっしりとした重さがある。ボタン類は少なく操作の多くはタッチパネルで行う。バッテリーはX1Dシリーズと共通となっており、カメラ内部に入れることができる。今までのCFVシリーズはデジタルバックの外にバッテリーを装着していたが、CFV II 50Cよりバッテリーはカメラ内部に収納できるのでデザイン的にもすっきりしている印象だ。それによりSWCのボディーとの干渉がなく使い勝手が良い。インターフェースはUSB-Cを外部に備えておりテザー撮影※や充電なども行える。その他、ストロボの入出力、動画用にオーディオ入力なども備える。
※テザー撮影とは、カメラとパソコン/タブレットを接続し、撮影した画像をパソコン/タブレット側のモニターで確認したり、カメラをパソコン/タブレットで制御して撮影を行うこと。
ボタン類は最低限でシャッター周りにはダイヤルを備えており絞り値や露出補正ができるようになっている。
使用感
実際に使用してみて感じたことは、シンプルだということ。基本の操作はタッチパネルで行い直感性がある。メニューも少なく操作する項目は少ないので撮影に集中できるのも本カメラの魅力。筆者はX1Dも使用しているが、X1Dはボタン類も多くよりスピーディーに設定を変えたい場合はX1Dシリーズが勝るが、じっくり撮影するには907X 50Cでもストレスは感じられない。907X 50Cはカメラ自体が小さいため大きめのレンズを装着した時は少しバランスが不安定になるので注意したい。別途アクセサリーでコントロールグリップが用意されているので80mm F1.9やマクロ、ズームレンズを使う方はコントロールグリップをオススメしたい。907X 50Cを日常使いするのであれば45mm F4のパンケーキや65mm F2.8などがオススメだ。また、縦位置は撮れなくはないが、液晶モニター自体が少し斜めになっているので少し馴れが必要だろう。縦位置が多いユーザーは X1D IIの方が正直使い易いかもしれない。CFV II 50CはHasselblad Vシリーズとの相性も抜群なのでフィルムカメラファンにも使って欲しい。
画質
筆者がハッセルブラッドを使う理由の1つは圧倒的な画質だ。16bit RAWを撮影できるため安心感がある。16bitのRAWから得られる色情報は圧倒的で深い色味をしっかり表現できる。また、ハイライトの粘り、シャドウ部の粘りはさすが中判。圧倒的なダイナミックレンジを体感できるだろう。14段分のダイナミックレンジは驚くほど表現力が高く、輝度差のあるシーンにおいても表現力は格別だ。夕日のあるシーンでもディテールを崩すことなく表現できる点はとてもメリットがある。自然風景はもちろんのこと都市風景、ポートレート、スナップなど様々なシーンにおいて圧倒的な画質を堪能できるだろう。もちろん5000万画素のセンサーから得られる世界は驚くほど緻密で立体感が感じられるはずだ。高感度性能に関しても、CMOSセンサーのお陰で中判デジタルカメラとは思えないほど高感度に強い。一昔前の中判デジタルカメラの高感度性能と言えばISO200やISO400だったが本機ではISO6400も十分実用できる印象。ISO1600やISO3200ではノイズ感もあまり感じられないだろう。恐れることなく高感度を使って欲しい。
CMOSセンサーになり高感度もフルサイズミラーレス機感覚で自由に使えるようになった。ISO1600で少し暗めの室内を撮影したがノイズレスでクリアな印象。ノイズリダクションによるディテールの破綻などもない。
夕日の絶妙なトーンや色もしっかりと表現できるのが中判デジタルカメラの魅力。暗部からハイライトまでしっかりと粘っており表現力豊かだ。
マクロレンズと自然光でホオズキを撮影した。シンプルな写真ではあるが 5000万画素のセンサーと120mmのマクロの組み合わせにより圧倒的な解像感を表現できた。
スマートディバイスとの連携
本カメラはWi-Fiを搭載しているため、iOS用のアプリPhocus Mobile 2を使うことでiPadなどのタブレットで写真を見たり、RAW現像をしたりできる。必要なiPadは、iPad ProまたはiPad Air (2019)が必要になる。大きなRAWデータではあるが、サクサクと動きPCなしでもRAW現像や画像の確認ができるのもポイントだろう。人物撮影などでは有線でテザー撮影することも可能なので、PCレスでも十分活用できるので撮影現場などでも役立つ印象だ。
まとめ
実際に使用してみて907Xは個性的でワクワクするカメラであるということ。所謂、万能で超高速AF撮影や連写ができるようなカメラではないが、じっくりと被写体と向き合ってワンショットずつ撮影するには最適なカメラ。造りもよく本当に撮影していて楽しいカメラだ。それ以上に本カメラで撮影できる圧倒的な写真を見るとハッセルブラッドの力と魅力を感じられるだろう。XCDレンズも増え様々なシーンに対応できるようになり、HasselbladのフィルムカメラもCFV II 50Cと組み合わせることで問題なく使える。現代レンズにはない温かみのある柔らかな描写により印象的な写真を撮影できるのも本カメラの面白い所だろう。様々な使い方を楽しめ、最高の画質で表現ができるので是非読者の方にも中判デジタルカメラの世界を楽しんでいただきたいと思う。
ガーデンでくつろぐ猫を撮影。一般的に黒猫を撮影するとディテールは潰れて真っ黒になりやすいがハッセルブラッドなら絶妙なトーンを表現できるのでしっかりとディテールまで表現することができた。
■写真家:上田晃司
米国サンフランシスコに留学し、写真と映像を学び、CMやドキュメンタリーを撮影。帰国後、フォトグラファー、映像作家として活動開始。現在は、雑誌、広告を中心にライフワークとして世界中の街や風景を撮影。講演や執筆活動も行っている。また、YOUTUBE チャンネル 「写真家夫婦 上田家」 で写真、旅、カメラについて情報発信している。