タイムラプス機能満載のポータブル赤道儀「スカイメモSW」を徹底レビュー!【後編】

成澤広幸

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はじめに

 前編では、スカイメモSWの外観や基本性能、赤道儀としてのポテンシャルについて解説しました。スカイメモSWが前機種よりも大きく変わった点に、タイムラプス撮影に関する機能アップが挙げられます。後編はタイムラプスモーション機器としてのスカイメモSWについて解説します。

モーションタイムラプス機器としてのスカイメモSW

■スカイメモSWで可能な3つのモーションタイムラプス
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 タイムラプスとは、複数枚の写真をつなげてコマ送り動画で表現する手法です。時間の経過を圧縮して表現できるので、通常は感じることができないダイナミックな雲の動きや天の川の動きを楽しめることで人気があります。

▼タイムラプス作例

 タイムラプスは通常、三脚+カメラでの定点撮影で行うのが一般的ですが、カメラ自体を回転させたり、レールに沿って動かしたりしながら撮影することでタイムラプス動画自体に動きをつけることができます。このような動きのあるタイムラプス動画のことを「モーションタイムラプス」と呼び、そのために使用する機器のことを「モーション機器」と呼びます。

 赤道儀の星空に合わせて回転する機能を利用して、設置方法を変えることでモーション機器・タイムラプスローテイターとして活用できるのですが、スカイメモSWはこのようなタイムラプスに関する機能が強化されているのが特徴です。特に「天体タイムラプス」機能は海外製のハイエンドなタイムラプスモーション機器(20万~30万くらいの価格)にしか搭載されていない機能であり、比較的安価なポータブル赤道儀に搭載されているのは業界唯一(成澤調べ)で、実は他の競合機種にも備わっていない機能なのです。

スカイメモSWで表現可能なモーションタイムラプスの種類

 スカイメモSWにはSMS(シュート・ムーブ・シュート)という機能が実装されています。通常、赤道儀は星を追いかけますので、回転し続けています。このままタイムラプス撮影をしてしまうと、露出中も回転しているため、一枚一枚の素材がブレて写ってしまいます。SMSは、露出中は回転を止め、露出が終わってから少しずつ回転するという機能で、高精細・高画質なタイムラプス動画を制作する上でとても重要な機能になっています。スカイメモSWには北半球モード(N)と南半球モード(S)があり、Nにすると時計周り、Sにすると半時計周りに動きます。

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パンモーション(横方向)

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 スカイメモSWを水平に設置してタイムラプス撮影を行うと、横方向に動くモーションタイムラプスを表現できます。

■赤道儀:Kenko スカイメモSW(「長時間タイムラプス」で撮影)
■撮影機材:Nikon Z 7 + NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
■撮影環境:ISO10000,f2.8,14mm,13秒
Photoshop Lightroomで画像処理、Premiere Proで150枚を動画に書き出し

 スカイメモS/SW用微動雲台には高度メモリが記載されていますので、「90度」のメモリの位置に微動雲台を設置すればスカイメモを設置することができます。

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 スカイメモSWをしっかりと水平に設置できていないと、どんどん傾いていくタイムラプスになってしまいます。スカイメモS/SW用三脚・微動雲台にはそれぞれ水準器が付属されていますので、三脚設置時に水平が取れているか必ず確認しましょう。

ティルトモーション(縦方向)

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 スカイメモS/SW用微動雲台を「0度」のメモリの位置にしてスカイメモSWを取り付けると、縦方向に動くモーションタイムラプスのセッティングになります。

■赤道儀:Kenko スカイメモSW(「長時間タイムラプス」で撮影)
■撮影機材:Panasonic LUMIX DC-S5 + SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:ISO10000,f2.8,14mm,20秒
Photoshop Lightroomで画像処理、Premiere Proで232枚を動画に書き出し

 この時も三脚・赤道儀・カメラの各部が水平に設置できているように入念に確認をしましょう。

この価格帯ではオンリーワン!(成澤調べ)
「天体タイムラプス」モードに注目

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 ここがスカイメモSW注目の撮影機能です。天体タイムラプス機能について説明する前に、なぜこの機能が注目なのかを説明します。画像の通り、通常の赤道儀を使用するときと同じで、北に向けてセッティングします。しかし、このまま撮影をすると、星は点で撮れますが風景部分がどんどんずれていくタイムラプスになります。

※手前にちらちら写っているのは私です

 このセッティングのまま東の星空を撮影した場合のタイムラプス作例です。星を追尾しているので、風景部分がどんどん構図から外れていきますね。もちろんこれはこれでOKです。では逆の場合はどうでしょう。

 こちらは西の空を撮影したタイムラプス作例。星を追尾するのは変わりませんが、今度はどんどん風景部分が多くなっていきますね。しまいには地面だけが写るようになってしまいます。

 じゃあ赤道儀を使わないで三脚+カメラだけで撮影すればいいじゃん、ということになりますが、それだと構図は固定されるものの、肝心の星の描写が線になって写ってしまいます。

 決してこれがだめ!という訳ではないですが、もっとしっかりと星を点で描写したい……という欲求に応えてくれるのが、スカイメモSWに備わった「天体タイムラプス」機能なのです。

 「天体タイムラプス」機能を使って撮影をすると、露出中は星を追尾し、露出を終えると星を追尾するために回転した分を逆回転し元の位置に戻ります。そして次の撮影に入ります。つまり、星を追尾しつつ、風景部分は固定されて動かないタイムラプス動画素材が撮影できるということなのです。

 そんなうまくいくのかよ……と思ってしまいますが、実際の撮影結果を見るとびっくり。

 見事に風景部分が固定され、しかも星がしっかりと点で撮影されています。星の描写を重視したい撮影者には大変ありがたい機能ではないでしょうか。

 以下は、天体タイムラプス機能ありなしで撮影したタイムラプス中の1枚で、60秒露出しています。これを比較・拡大してみると

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25-4_天体タイムラプス素材(拡大).png

 星が点で写っていますが、風景部分が動いていますね。こういった前景の目立つ構図ではむしろ風景のブレが気になりますので、先ほどの動画のような前景が不明瞭な場合やシルエットのときなどに効果を発揮するでしょう。

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■赤道儀:Kenko スカイメモSW(恒星追尾モードで撮影)
■撮影機材:Nikon Z 7 + NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
■撮影環境:ISO6400,f2.8,SS30秒
Sequatorで8枚をスタック処理、Photoshop CCで画像処理

 「天体タイムラプス」機能を使って撮影したタイムラプス素材を8枚スタック処理しました。風景が動かず、でも星を追尾撮影してくれているので、とてもスタック処理に向いた機能だと感じました。

本体・アプリの設定方法

 カメラとスカイメモSWを各カメラに対応したシャッターケーブルで接続し、本体のダイヤルを「APP」に設定します。これでスカイメモSWからWi-Fiが飛んでいる状態になります。スマホの設定画面から、スカイメモSWとスマホをWi-Fi接続したあとで、スカイメモアプリを開きWi-Fi接続します。アプリを立ち上げると以下のような画面になります。

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1.天体写真撮影設定・・・天体写真において、複数枚の加算平均合成やタイムラプスを撮影するときに使用します。

2.タイムラプス撮影モード・・・後述

3.手動制御・・・構図を少しずつ動かす、微調整するときに使用します。

4.極軸設定・・・スカイメモSWを北極星に正確に合わせる(極軸合わせ)するときに使用します。広角での星景写真やタイムラプスでは使用する必要はなく、標準~中望遠クラスの焦点距離のレンズを使用したときに設定が必要だと考えましょう。極軸望遠鏡のスケール内に、現在時刻での北極星の位置が表示されます。この図を頼りに極軸合わせを行います。アプリを使用した極軸合わせと表記されているので、よく間違えられるのですが、スカイメモSWはスマホアプリで自動的に極軸合わせを行なってくれる訳ではありません。アプリの表示を頼りに、自分で極軸望遠鏡をのぞいて極軸合わせを行います。

27_スマホ極軸合わせ.jpeg

 今回は3つのタイムラプス設定の部分について説明します。タイムラプスの制御モードは「天体タイムラプス」「タイムラプス設定」「長時間タイムラプス」があります。

 このうち「タイムラプス設定」は昼間の撮影モードというもので、「長時間タイムラプス」はパン・ティルトモーションを撮影するときの撮影モードです。ただ、「タイムラプス設定」ではシャッタースピードが0.5秒に固定され、SMS動作をしません。昼間の雲の動きや車の光跡など、動きの速い被写体をモーションをつけて表現する際に有効的だと思います。よりシャッタースピードを遅くして使用したいときは昼間用の「タイムラプス設定」ではなく、「長時間タイムラプス設定」を使用すると良いでしょう。

「天体タイムラプス」モードのアプリ画面

 このモードで撮影するときは、完全にシャッターの制御をスカイメモ側で行います。カメラの露出設定は「バルブ」にしておきましょう。スカイメモSWはSMSで動作を行います。

28_天体タイムラプス.jpeg

「タイムラプス設定」モードのアプリ画面

 このモードで撮影するときは、シャッタースピードが0.5秒で固定されます。それよりも速い露出設定をしたい場合は、カメラをマニュアルモードにして、カメラ側でシャッタースピードを0.5秒より速い設定にしましょう。このモードではSMS動作はせず、スカイメモSWは回転し続けます。

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「長時間タイムラプス」モードのアプリ画面

 このモードで撮影するときは、完全にシャッターの制御をスカイメモ側で行います。カメラの露出設定は「バルブ」にしておきましょう。スカイメモSWはSMSで動作を行います。

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設定項目の注意事項

 スカイメモSWアプリは、ユーザーの撮影意図・事情にあった観点からの設定が可能です。最低限の項目を入力すればあとは自動計算してくれるのですが、少しわかりづらいので整理しておきます。

1.動画撮影時間・・・私は何時間撮影するぞ!というときに使います。あとはシャッタースピードとフレームレートに合わせて、時間内で何枚撮影できるのかを自動計算してくれます。

2.録画時間・・・最終的に○秒の動画にしたい、という意図があるときに設定します。あとはシャッタースピードとフレームレートに合わせて、時間内で何枚撮影する必要があるのかを自動計算してくれます。

3.撮影回数・・・何枚撮影したい、というときに使います。あとはシャッタースピードとフレームレートに合わせて、撮影が終わるまでに何時間かかるのかを自動計算してくれます。

4.撮影間隔・・・シャッタースピード+インターバルを入力します。例えばシャッタースピードを10秒にして、2秒おきに撮影をする場合は10+2で、撮影間隔は12秒と設定します。

アプリがなくてもタイムラプスモードは使えるぞ!

 これだけ多機能なんですが、なんだ~これ全部、アプリがないとできないの?と思ったあなた。違うんですよ。本体だけでも動作します。カメラとスカイメモSWが接続されていれば、ダイヤルを切り替えた瞬間に撮影がスタートします。

 最初は工場出荷時の設定になっています。ここから詳細な設定・変更はアプリで設定しますが、一度アプリ撮影をすると、その設定を記憶してくれますので、次回からはダイヤルのみでOKです。天の川が撮れるような場所でのタイムラプスは同じ設定で撮影することが多いですから、これは時短になるので大変便利ですね。ちなみにダイヤルを切り替えて別のモードにすると一枚余分な撮影をしてから、撮影を再スタートするようです。

撮影時の注意点

 大変多機能なスカイメモSWですが、注意点もあります。この注意点を把握しておけば素晴らしい作品が撮影できるでしょう。

1.ダイヤルの赤光が風景に写りこむことがある
 両サイドのボタン・ダイヤルが赤く光りますので、近い距離にオブジェなどがあった場合は、この光が前景を照らしてしまいます。気になる場合は黒い布をかけたりして、光を遮る配慮をしてください。

2.本体底の1/4変換ねじが取りづらい
 購入当初は本体底の3/8インチネジに1/4インチ変換アダプターが取り付けられていますが、ちょっと短いようで奥にねじこまれています。10円玉で回そうとしたところ、届かなかったので大きめのマイナスドライバーで取り外しました。

3.ダイヤルが回転しやすい
 カメラバッグにスカイメモSWを収納していたところ、いつの間にかダイヤルが回っており電池がきれてしまってました。収納時にはテープで貼るなどの対処が必要のようです。

4.各部のネジが緩むことがある
 私の使い方がハードなせいかもしれませんが、各部のネジがゆるみ、ガタツキがでることがありました。本体で使用しているネジにあった六角レンチなどは常備しておいた方が良いかもしれません。

5.微動雲台の角度を大きく変える場合は、微動雲台から上を外して角度を変更しよう
 たとえば、タイムラプス撮影で0度から90度に変更する場合など、すべてのセッティングを終えた状態で微動雲台のネジを動かすと、キックバック(がくがくと動く)が起こります。これは微動雲台に余計な負荷がかかっている状態で故障の原因にもなります。角度を大幅に変えたい場合は、スカイメモSWから上を全て取り外し、角度を変更するようにしましょう。

 新製品のポータブル赤道儀「スカイメモSW」。星空の撮影もタイムラプスも……と欲ばりな人や、初めて使うけど何がいいの?という方には手をだしやすい機材だと思います。みなさまもぜひスカイメモSWで素晴らしい作品を撮ってくださいね!

 また、スカイメモSWのアプリ設定や実際の作業などについて、私のライブ配信で解説をしました。少々長い動画ですが、目次を振ってあります。詳細なアプリ設定について知りたい方は、ぜひこちらをご覧ください。

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

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