トキナー SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF|ピントを合わせる楽しさを実感できる超望遠ミラーレンズ
はじめに
トキナーから発売されている超望遠MFミラーレンズ「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」は、超望遠であるにも関わらず、長さが僅か168mmと超コンパクトなマニュアルフォーカスのレンズです。しかも、重さは約725gと信じられない軽さ!今回は、ピントを合わせる楽しさを実感できるレンズ「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」で撮影した野生動物写真とともに、その魅力をたっぷりご紹介したいと思います。
シンプルで頑丈な外観
レンズの低価格化を実現するために「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」は、非常にシンプルな作りとなっています。レンズには三脚座が付いていないので、カメラボディー側の三脚座を使用します。フードはねじ込み式で、フードとレンズボディー共にアルミ軽合金を採用しており、軽量化と同時に堅牢性も意識した作りとなっています。
マニュアルフォーカスのレンズはフォーカスリングの滑らかさや、トルクの重さがとても重要です。フォーカスリングが軽いとピントを合わせる際、ピントが定まらなかったり、フォーカスリングに少し触れただけで、大きくピントが動いてしまったりと、精密なピント合わせが迅速に行えない要因となります。
「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」のフォーカスリングは適度な重さがありながらも、非常に滑らかに動作するため、野生動物をマニュアルフォーカスで追い続ける際も、一度外れたピントの立て直しを精密かつ迅速に行うことができるので、マニュアルレンズの醍醐味でもある「ピントを自分で合わせる楽しさ」をより一層味わうことができます。
フードはねじ込み式となっています。素材はレンズボディーと同じアルミ軽合金製のため、カメラバックに他機材と収納する際、機材同士が干渉して傷が付かないようにする着意が必要です。
マニュアルフォーカスの「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」は手ブレ補正が付いていません。超望遠のレンズでもあることから、様々なブレに対しては非常にシビアです。そのため、三脚撮影が推奨されます。
また、電子接点がないのでカメラがレンズを認識しないため、カメラの設定の「レンズなしレリーズ」を「オン」にしなければシャッターが切れません。事前に設定変更をしましょう。
シャッターを切る際にも、ブレを起こさないように細心の注意が必要です。そのため、三脚とリモートレリーズ等を併用し、様々なブレによる影響を最小限にすることが重要です。
F値11固定でも納得の解像力
超望遠の「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」はAPS-Cのカメラでは35mmフルサイズ換算1350mmとなります。しかも、これだけ超望遠でF値11固定なので、皆さんが気になるのはその「解像力」ではないでしょうか?
ニホンキジのホロ打ちを「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」で撮影しました。これだけシャープな解像力を提供してくれましたが、このレンズの価格を考えれば大変満足できる内容だと思います。
F値11固定の深い被写界深度を効果的に活用するために、キジの大きさを加味して、適切な距離を取ることにより、キジの瞳を起点として被写界深度内にキジ全体を収め立体感のある写真が撮影できました。
近距離の撮影でもF値11固定の被写界深度により、被写体の顏全体をフォーカスしてくれるので、顏のしわや細部の毛並みまで忠実に表情を作ることができます。
遠距離の撮影では、F値11固定の深い被写界深度の効果で平面的に写真を撮影することができます。「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」の特性を活用して古来の日本画や掛け軸のように、平面に描かれた花鳥風月をイメージした作品を撮影してみるのも良いのではないでしょうか。
マニュアルフォーカスでピントを合わせる楽しさ
近年オートフォーカスの著しい進化で、「ピントは全てカメラ任せ」になり、「ピントが合わないのはメーカーや機材のせい」とされる一方で、マニュアルフォーカスはピントの照準を野生動物の素早い動きに、いち早く自分で合わせ続けながら撮影するため、ピントの良し悪しは自分の「腕」に委ねられます。
一発勝負のゲーム性があり「撮れるか?撮れないか?」適度な緊張感を味わうことができるのも、マニュアルフォーカスの面白さです。
陽炎や水蒸気の影響で描画性能が不安定になる条件でも、「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」で撮影した写真は、荒れることなく、柔らかくふんわりした個性的な写真が撮影できます。悪条件を上手くソフトフィルター効果に変換してくれるので、諦めることなく楽しく撮影ができました。
ミラーレンズ特有のリングボケを味わう
「SZ900mm PRO Reflex F11 MF CF」は反射式光学系を採用したミラーレンズのため、特有のリングボケを楽しめることが魅力の一つです。
うるさい背景でも「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」のリングボケを活用することで、リズムや流れで背景をまとめてくれるので良い効果を発揮してくれます。
野原に佇むニホンザルを撮影しました。背景には満開の桜を入れたので、ポップなピンク色のリングボケになってくれました。野原にも光が当たり、沢山のリングボケが発生して不思議な写真になりました。
シンメトリーのタイミングで水面のキラキラを「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」で撮影しましたが、動きのある水面のリングボケは歯車のようになりました。背景の状況でリングボケも様々な表情を見せてくれるので、撮影していてとても楽しいです。
授乳するニホンザルの親子のポートレート。
この場合も背景のガチャつきを、丸みのあるリングボケを活用して幾何学模様に変換することで、被写体を際立たせる効果が生まれました。
まとめ
美しいリングボケが手軽に楽しめる「SZ 900mm PRO Reflex F11 MF CF」の活用法を、撮影した野生動物写真をご覧頂きながら解説いたしましたが、いかがだったでしょうか?
同レンズのコストパフォーマンス抜群の価格や解像力をはじめ、「機材性能と撮れ高」だけを重視した近年の無機質な野生動物撮影から脱却し、マニュアルフォーカスで自分の「腕」を信じ、ピントの照準を合わせ続けて撮影する「不便な楽しさ」をご理解頂けたかと思います。
誰でも簡単に不自由なく機材性能だけで野生動物が撮影できる昨今だからこそ、アナログの原点に立ち返り、「撮れるか?撮れないか?」やってみないと分からない肩の力を抜いた「本気の職人撮影」を楽しんでみるのも、近年の高性能撮影機材の「有難み」を実感する上で非常に良いのではないでしょうか。
ゲーム性のあるマニュアルフォーカスの「難しいが撮れた時に100倍嬉しくなる」撮影にあなたがはまるのも時間の問題です。(笑)
■自然写真家:高橋忠照
1982年北海道札幌市生まれ・山形県育ち。上富良野町在住。陸上自衛隊勤務を経て、2019年自然写真家に転向。自衛隊時代に培ったスナイパー(狙撃手)の技能を生かし、自然の中に同化して野生動物を探し出す独自のスタイルでの撮影を得意とする。作品は小学館、チャイルド本社、フレーベル館等の児童書や雑誌、カレンダーなど掲載多数。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員