LAOWA 9mm F2.8 ZERO-D レビュー|シャープで安価な小型軽量の超広角レンズ!
超広角13.5mm相当で49mmフィルターが使用可能
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、シャープで解像力の高い広角レンズという側面と、最大撮影倍率が2倍を超えるようなスーパーマクロを持ち合わせた、ユニークで高性能なマニュアルレンズで、多くの写真愛好家に知られるラオワ(LAOWA)のAPS-C機向けレンズです。
APS-C機向けレンズという表現をとっているのは、本レンズは基本的にAPS-C機向けでキヤノン EF-M、富士フイルムX、ソニー Eマウント向けのものがそれぞれ用意されているためです。
ただし、マウント以外は同じ仕様のLAOWA 9mm F2.8 ZERO-D MFTというレンズもあり、マイクロフォーサーズ(以下、MFT)機でも利用できます。APS-C機に装着するとEF-Mは14.4mm相当、それ以外は13.5mm相当(画角113度)の超々広角になります。
これに対してMFT機に装着すると18mm相当(画角100度)となります。ただし、MFT機用にはLAOWA 7.5mm F2 MFTという製品も用意されており、こちらならMFT機で15mm(110度)という画角が得られます。MFTユーザーにとってはこちらも興味深いレンズなのではないでしょうか。
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dのレンズ構成は、10群15枚、ガラス非球面レンズを2枚、ED(特殊低分散)レンズを3枚含んでいます。構成レンズの1/3が特殊レンズという豪華な内容です。
また、35mm判フルサイズに比べるとイメージサークルの小さいAPS-C向けのレンズということもあってか、大きさは最大径約53mm×60mmとコンパクト、しかもレンズフードや鏡筒部などは堅牢な金属製にもかかわらず質量は約215gと非常に軽量に仕上がっています(※大きさ、質量ともにマウントによる変動があります)。
フィルター径は49mmです。実は、このフィルター径がわかっている方にとっては重要なポイントでしょう。LAOWA 9mm F2.8 ZERO-DはAPS-C機装着時に13.5mm相当の超々広角でありながら、レンズ前玉が大きく膨らんだ出目金レンズではないので、レンズ先端部分にねじ込み式の49mmフィルターが普通に装着できます。風景を撮影する方ならC-PLやND、星景写真を撮影する方ならプロソフトンや最近流行の光害カットフィルターのスターリーナイトなどが、通常のレンズと同じよう使えるわけです。
しかも、フィルター径は49mmと小さいのです。最近35mm判フルサイズ用のレンズでは珍しくなくなった直径82mmといった大型フィルターに比べると、49mmのフィルターは種類にもよりますが、価格がだいたい1/2から1/3なのでアクセサリーのコストも安くなります。
35mm判フルサイズ用に比べ撮像素子の小さなAPS-C向けレンズであるメリットを生かした小型軽量なLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、実勢価格は2020年3月現在で65,000円前後と開放F値2.8の超広角レンズとしては、コストパフォーマンスも高いです。そんなマニュアルフォーカスレンズ、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dの描写性能を具体的にみていきましょう。
カメラ性能を凌駕する絞り開放からの高い解像力
まず、解像力のチェックです。各種光学性能は私たちがAmazon Kindleで出版しています電子書籍『LAOWA 9mm F2.8 ZERO-D レンズデータベース』に掲載しました実写チャートの結果を元に解説しています。
今回のテストはSony α7R IIIのAPS-Cモード(有効画素数約1,800万画素)で行っていますので、解像力の基準となるチャートは1.3なのですが、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dとの組み合わせでは絞り開放からひとまわり小さなチャートの1.2を解像する結果となっています。
本レンズの中央部分の解像力は非常に高く、絞り開放のF2.8から、基準となるチャートである1.3よりもひとまわり小さな1.2を解像し、本来は画素数的に解像しないはずの1.1のチャートまで一部解像しています。F4.0まで絞ると、さらにワンランク、シャープネスが上がり、高い解像力をF11くらいまで維持します。
ただし、F16以降では絞り過ぎによる解像力の低下、小絞りぼけなどが起き始めますので注意が必要です。あまりいいことではないのですが、ローパスフィルターレスのカメラで、カメラの画素数に対してレンズの解像力が高すぎるときに起きる傾向にある、カメラ(撮像素子)側に起因するチャートへの色付き(偽色)が、解像力のピークであるF8.0でもっとも増えるのも、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dの解像力の高さを証明しています。
周辺部分の解像力についても良好なのですが、掲載したチャートを見てもらうとわかるように、周辺光量落ちの影響で周辺側のほうが実写の結果が暗く、解像しているため、コントラストが低くみえる結果です。周辺側でも開放のF2.8から、基準値よりもひとまわり小さなチャートの1.2をほぼ解像する優秀な結果ですが、絞るほどにさらにコントラストが上がり、F8.0でピークを迎えます。周辺部分もF16以降では顕著な絞り過ぎによる解像力低下が見受けられますので注意しましょう。
基本的に絞り開放から安心して使えるレンズですが、絞るほどのシャープネスやコントラストが向上、F8.0が画面全体の解像力のピークです。広角レンズながら、絞り開放の周辺部分にも、気になる色収差などはなく、この点も優秀な結果と言えます。
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-DのZERO-Dは「ディストーション0」、限りなくディストーション(歪み)をゼロに抑えた設計を表していますが、実焦点距離9mmの超々広角としては非常に少ないですが、わずかに陣がさ型の歪曲が見られます。
最短撮影距離はわずか12cmと近接撮影に強い
ラオワの広角レンズは、超広角なのにシャープで、最短撮影距離が短く寄れることで知られています。今回、テストしたLAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dも同様の傾向で、最短撮影距離は、なんと12cmです。当たり前ですが、レンズ交換式カメラのレンズに記載される最短撮影距離は撮像面(撮像素子)からなので、実際の撮影時にはレンズ先端から数㎝のところまで被写体に近づくことができます。そして最大撮影倍率は、0.13倍です。
「すごく寄れるのに意外と撮影倍率は低いな」と思った方がいらっしゃるかもしれません。ただ、最大撮影倍率も焦点距離と同じように35mm判フルサイズを基準に表記されるので、実際には長辺が約185mm×短辺約123mmの範囲を画面いっぱいに撮影することができます。13.5mm相当の超広角でありながら、実際には約0.2倍近い最大撮影倍率のレンズと同じレベルの接写撮影が可能です。
0.2倍というと一般的レンズでも、十分に寄れると感じる領域ですので、13.5mm相当の超広角で寄るとパースペクティブも付き、非常に楽しい映像が撮影できます。この点も頭に入れて最短撮影距離も活用しましょう。
ラオワの超広角の周辺光量落ちは確信犯!?
焦点距離9mmで開放F値2.8、しかも小型軽量のLAOWA 9mm F2.8 ZERO-DはAPS-C機向けのレンズとはいえ、周辺光量落ちはそれなりに発生するだろうと予測していました。しかし、実際にチャートを撮影した結果は予想以上でした。
開放のF2.8では、どうしても四隅に発生する周辺光量落ちですが、絞ると多少改善するものの、基本的にはF16やF22まで絞っても大きく改善することはテストの際にはありませんでした。。レンズ設計はどこに比重を置くかのバランスが重要といわれますが、ラオワの超広角は基本的に小型軽量で周辺までの高い解像力に比重を置いており、周辺光量落ちはレンズ設計時から確信犯的に行われていると思われます。
無理に絞って解決しようと考えるよりも、撮影時にRAW画像も撮影しておき、後処理のRAW現像時などに周辺光量落ちの補正を行うのがおすすめです。デジタルカメラ、特にミラーレス一眼では、周辺光量落ちの発生はレンズ設計時から織り込み済みであり、デジタル補正で対応するのは珍しくもなんともないですが、カメラメーカー純正レンズのようにカメラ本体とレンズが情報をやりとりし、リアルタイムで周辺光量落ちなどをカメラ側でデジタル補正できるレンズが少し羨ましくなります。
9mmの超々広角にぼけまで求めるのは酷かと
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dの絞り羽根枚数は7枚です。開放測光などを行う一眼レフ用のレンズであれば、少ない枚数ではないのですが、フルマニュアルのミラーレス一眼用のレンズとしては絞り羽根の7枚はあまり多いとはいえません。ぼけに注力したレンズならば10枚越えも珍しくないのが現状と言えます。この点からも、本レンズはあまりぼけに注力したレンズでないことが伺えます。
実際にぼけディスクチャートを撮影した結果は、絞り開放のF2.8から中央部を含め、ぼけの形は円形にならず、7角形です。絞るほどに7角形ははっきりし、玉ぼけの形が丸くなることはないようです。また、ぼけの質もややザワつきの強い結果と言えます。
とはいえ、焦点距離9mmの超望遠にぼけの美しさを期待して購入するユーザーは非常に少数派でしょう。基本的に被写界深度が深いためぼけづらいので、ぼけよりも解像力を重視するのは、超広角レンズの設計において当然と言えます。ただ、LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、最短撮影距離が12cmと短いため近距離にピントを合わせて、開放付近の絞りを選択するとそれなりにぼけるわけです。ぼけの質や形はあまりよいとはいえませんが、この利点は理解して撮影時に効果的に利用することをおすすめします。
多くのAPS-Cミラーレス一眼ユーザーに勧めたい1本
LAOWA 9mm F2.8 ZERO-DはAPS-Cミラーレス一眼で、35mm判フルサイズの14mmF2.8よりも広角での撮影を可能にしてくれるレンズです。ターゲットをAPS-C以下の小さな撮像素子を採用するミラーレス一眼とすることで、安くて軽くて小さく、しかも高性能なレンズになっています。数多くラインナップされる35mm判フルサイズ用の14mmF2.8でも画面全体で本レンズと同等以上の高い解像力を実現しているレンズは少数派といえるでしょう。
しかも、35mm判フルサイズ向けの14mmF2.8クラスのレンズで前玉が大きくドーム状にせり出していないレンズは非常に少なく、フィルターなどの利用に制限が多いのが一般的です。C-PLにND、プロソフトンなど広い風景や夜景、星空の撮影ではフィルターの撮影したいシーンも多く、35mm判フルサイズで超広角撮影をするユーザーはさまざまな工夫をして、なんとかフィルターを使っているのが現状と言えます。LAOWA 9mm F2.8 ZERO-Dは、そんな苦労もなく普通に丸型のねじ込み式フィルターが使え、余計な苦労なく撮影に集中でできるのは、素晴らしい特徴です。
9mmという焦点距離のため、ぼけの形と質を求めるのは酷ですが、これはほかの超広角でも大差ありません。また、解像力を重視したラオワの設計ポリシーといってもいいのかもしれませんが、周辺光量落ちは強めです。この点を理解して、必要なシーンではRAW現像時にプロファイル補正などを行えば、非常に優れたレンズに仕上がっています。
14mm相当を越える超々広角がそもそも初心者向きとはいえないですが、RAW現像時の周辺光量補正が可能なユーザーであれば、多くのAPS-Cミラーレス一眼ユーザーにおすすめしたいレンズです。RAW現像時の周辺光量補正といっても、アプリにもよりますが基本的にはレンズ名と周辺光量補正オンを選択するだけといったことがほとんどなので、初心者の方でも問題ないと思います。
あまりにも手軽でコンパクトなので14mmF2.8を凌駕する明るい超々広角レンズなのが、頭でわかっていても、撮影時にファインダーをのぞく度に「そうか、こんなに広く写るんだ」と毎回驚きながら作例を撮影しました。ぜひ、APS-Cミラーレス一眼で超々広角を探している方にチャレンジしてほしい1本と言えます。