LAOWA 9mm F5.6 W Dreamer レビュー |個性派の超・超広角レンズでスナップ撮影に繰り出そう
はじめに
レンズ式カメラを使っていると必ず一度は憧れる特殊レンズ。超望遠レンズや超広角レンズはだれもが一度はカタログを眺めながら『これを使ったらどんな景色が見えるんだろう』と妄想するはず。超広角レンズはアクションカムやスマートフォンにも搭載され始めたこともあり身近に感じることも多くなったのではないだろうか。
今回紹介する超広角レンズは、フルサイズに対応しつつ非魚眼レンズの超広角レンズである。その焦点距離はなんと9mm。マイクロフォーサーズやAPS-C用ではなくフルサイズ用で9mmなのだから驚きだ。この「LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer」をソニー α1と組み合わせて地元をスナップ撮影してみたので作例と合わせて紹介する。
外観や質感
超広角レンズなので前玉が大きくて重たいのでは?と思うかもしれないが、LAOWA9mmは手のひらにすっぽりと収まるサイズだ。外装の質感も金属で高級感があり所有感を満たしてくれる。AF非搭載ということもありこのサイズの収める事ができたのだろう。電子接点も非搭載であるため絞りは実絞りでの撮影となる。ボディ側の手ぶれ補正を使う時も焦点距離を手動で入力する必要があるので注意が必要だ。
LAOWA9mmは通称出目金と呼ばれるレンズの前玉がドーム状に手前に膨らんだ形状をしており、レンズ交換時などに前玉に触れてしまうこともある。かぶせ式のフードが同梱されているため、撮影していない時はなるべくフードを装着しておく方が良いだろう。
絞りは開放F5.6で最小絞りはF22となっている。焦点距離9mmともなれば開放F5.6でも既にパンフォーカス状態だが、私がよく使う撮影時の設定はF8.0〜11が多い。シャープさは開放よりも少し絞った方が高く、周辺の画質も若干上がる。画質云々書いてはいるが、兎にも角にもこのレンズは『焦点距離9mm』に価値があると思っているため、まずは別次元の超広角の世界を楽しむのが一番だ。
超広角を活用する
このレンズを装着してまず撮影して欲しいのは『家の中』だ。自分の家ってこんなに広かったっけ?とちょっと勘違いしてしまうほどに広く写る。強烈なパース(奥行き)が空間を広く見せてくれるため、特に屋内での撮影は効果が大きく感じられる。実際、私も広告の写真撮影でこのレンズを使ってお店の内観写真を撮影した時にまるで『ワンショットパノラマ』だなと思った。
普段の自分が見ている以上の視野を操るとになると構図の整理が非常に大変だ。ただ漠然とカメラを構えてもただ広いだけの一枚になってしまうので今まで以上に被写体に近づいての撮影や、周辺まで意識しての構図作りが必要となってくる。
もちろん難しいことを考えずただ超広角を楽しむのも全然OKだ。テキトーに撮影した一枚から意外性やヒントを得られることも多いので、まずは超広角でいろいろなシチュエーションを楽しみたい。
超広角でスナップ その1
9mmの超広角は魅力だが、9mmで何を撮れば良いのだろうかと悩んでしまうかもしれない。撮影ジャンルに応じて得意・定番なレンズというのは必ずあるが、9mmを日常使いするとなるとやはりスナップが一番しっくりくるかもしれない。必ずこれを撮らなければいけないというルールはないので、いろいろな被写体を9mmで撮影すると自分のイメージとしっくりくる瞬間が来るだろう。
今回は街中で撮影してみたが、いつもは画角に入りきらないビルも楽々入る楽しさや、強烈な遠近感が生み出す奥行き感は街中スナップとの相性の良さを感じた。
パンフォーカス撮影がメインとなるため、今回の撮影ではほとんどピントは合わせていない。開放でも問題ないが解像感を得るために絞りはF8.0〜11まで絞り、ピント位置は無限マーク少し手前に合わせておくと基本的に画面全体にピントが合う。9mmの超広角な画角も相まってレンズを向けると必ず目の前の景色は写っているので、気になったものをドンドン写しとるのが凄く楽しいレンズだ。
超広角レンズなので通常のレンズよりも歪曲は多い。が、9mmという特殊な焦点距離から考えると想像以上に歪曲は少ない。手にする前はもっと盛大に歪むものだと思っていたが実際に使用してみるとそこまで気にすることなく使えることに驚いた。
歪曲よりも周辺減光の方が気になる人が多いかもしれないが、RAW現像ソフトを使うことで歪曲も周辺減光も軽減する事ができる。周辺減光に関しては、中央と周辺とでは1EV以上あるので補正をする場合は多少画質が落ちると考えておこう。
超広角でスナップ その2
せっかくなので街中以外でも撮影をしてみることに。普段は24mm〜50mmで撮影する港町にLAOWA9mmを持ち出してみた。よく撮影する場所でもレンズが変われば新しいフィールドに早変わりだ。見慣れた景色がいつも以上に新鮮に感じる。
正直、「広すぎる」と感じる事が多い9mmだが慣れてくるとどういう被写体やシーンが自分にしっくり来るのかがわかってくる。歪みを活かすのか抑えるのかでも好き嫌いがかなり分かれるだろう。私の場合、歪みはなるべく抑えた一枚が好みということもあり水準器を使ってなるべく水平垂直をしっかり出す様にして撮影している。
特に街中での撮影は直線の物が多いので垂直がしっかり出ると気持ちがいい。ネイチャー写真ではそこまで目立たないため、多少ラフに撮影してもレンズ効果がしっかりと出るので動きのある一枚を撮りやすい。
9mmの画角を活かして上下をカットしてワンショットパノラマも楽しめる。展望台などから撮影した一枚を16:9や16:8のアスペクト比にトリミングすることでパノラマ撮影した様な一枚に。通常の広角レンズで複数枚撮影してパノラマ写真を生成すると、繋がりが甘くなったり歪みが目立ったりすることがあるが、ワンショットで写すことで繋がりも歪みもどちらも気にすることなく撮影できるは嬉しい。このレンズのために高画素機が欲しくなる人も出てくるのではないだろうか。
広い画角には広い景色、ということで海岸に。日が暮れてきて空のグラデーションが美しい時間帯の撮影となった。コンパクトなレンズであるため一日撮影しても疲労感は少ない。気軽に撮影できるレンズは撮影が楽しくなる。広角ズームも便利だが、手のひらサイズのLAOWA9mmを割り切って使うのも面白い。コンパクトであるため持っていくか悩んだらとりあえずカメラバッグに入れておいても邪魔にならない。それも含めてのレンズスペックであるため手頃な超広角が欲しいという人にはぴったりな一本だろう。
高画素機ユーザーであれば撮影後にトリミングをして構図を詰めていくのもいいだろう。広く撮影しておいて後でいろいろなトリミングを試してみることで次の撮影の予習・復習にもつながる。超広角であるため手ぶれも目立たないので、ボディ内手ぶれ補正が搭載されたカメラと組み合わせればスローシャッターも楽々手持ちでいける。
まとめ
LAOWAにはメーカー純正にはない個性的なレンズが数多くラインナップされている。特に広角系はバリエーションも多く、この9mmも発表された時からずっと気になっていた一本だ。過去にLAOWAのレンズを何本か使用していたこともあり写りに関しては何の心配もしていなかったが、今回9mmを使ってみてLAOWAレンズへの信頼性が更に高まった。
超広角レンズが欲しいけど純正は手が届かない…他にはない個性的な特殊な焦点距離のレンズが欲しいという人にはぴったりのブランドだ。レンズ接点が搭載されていないレンズが多いためMFオンリー、実絞り撮影、手ぶれ補正の焦点距離の入力の手間などもあるが、それ以上に撮影が楽しくなるレンズが多いため気になることはないだろう。レンズの造りの良さも撮影のモチベーションが上がるので大切なポイントだ。
今回紹介した9mmはこれぞ特殊レンズといえる個性を持っているし、使いこなすのも難しい。しかし、このレンズでドンピシャの一枚が撮れた時の喜びは一入だ。
定番レンズの隙間を埋めてくれるバイプレーヤーポジションのレンズだが、こういうレンズがあるおかげで表現の幅も広がっていく。LAOWAが今後どの様な「個性」を見せつけてくれるのか楽しみだ。LAOWAの個性に負けない様に今まで以上に自分の個性も磨いておくことにしよう。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。