新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.015 ライカQ2 Reporter
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなライカにお目にかかれるのか楽しみです。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さんが用意してくれていたのは、ライカQ2 Reporterでした。
ライカQ2のスペシャル外装モデル
「こちらが、ライカQ2 Reporterです」とカウンター越しにカメラを差し出してくれた中明昌弘さん。カメラ自体はおなじみのライカQシリーズですが、見慣れた黒いボディとは明らかに容姿が違います。艶消しのダークグリーンに塗装されていて、貼り革の雰囲気も通常品よりマットな感じ。この個体は中古品でかなり使い込まれているけれど、それが逆にいい雰囲気を醸し出しています。
「ちょっと頭の悪い言いかたをするなら、すごく格好いいなぁ。というカメラです(笑)。ミリタリージャケットを着て、これをぶら下げていたら、格好いいだろうなと思います。本当にファッションの一部としても成り立つと思えるのが、このカメラの魅力です」と語る中明昌弘さんの意見に賛成1票です。こういう“飾り立てる”という価値観の真逆にあるような、軍事物資あるいは特殊な用途の道具っぽい雰囲気のデザインに僕も心惹かれてしまうタイプです。
タフなアラミド繊維を外装に使用
ライカQ2 Reporterに貼られている人造皮革は、マットな質感で繊維の織り込まれたパターンで凹凸が生み出されています。通常品ではガラス繊維の基布をおそらくPVCと思われる化学樹脂で挟み込んだ素材が使われていて、樹脂の部分に型押しで革シボやブロックのパターンが転写されているのですけれど、この外装は素材そのものが持つ触感が剥き出しです。
貼り革部分の素材は、アラミド繊維を独特なパターンに編み込んだものだそうです。アラミド繊維は高い耐熱性により消防服に用いられたり、高い耐久性から防弾服に活用されていることに加え、NASAの無人火星探査機のサスペンションコードにも使用されている激タフなスーパー化学繊維なのだそうで、これをカメラに貼ったから何が起きる訳でもありませんけれど、独特の手触りがあり精神的には静かな高揚感が得られる気がします。
モノトーンで統一された指標や数字
ライカQ2 Reporterと通常品のライカQ2を並べてみました。レンズや撮像素子、ファームウエアからユーザーインターフェイスに至るまで、内容的には両モデルとも同じです。その違いは、ダークグリーンの塗装色、アラミド繊維の外装、そして細かい部分ですが指標や数字にはオレンジ色や赤は用いずに、ライトグレーで統一することで、さらにストイックな雰囲気になっていることが挙げられます。
ダークグリーン、アラミド繊維、モノトーンの指標というデザイン基調を持つライカQ2 Reporterですが、このスタイルのカメラは本品だけではなく、ライカM10-P Reporter、ライカSL2-S Reporter、そしてライカQ2モノクローム Reporterの4種類が存在します。
ライカQシリーズ特有の“窪み”は健在
ライカQ2 Reporterを斜め後ろから見てみると、カメラボディ背面にある窪みの部分がブラックボディよりも一層はっきりと認識することができます。ライカQシリーズは初代のQ、今回取り上げたQ2から現行品のQ3に至るまで、ボディラインに大きな変更を加えることなくデザインの継続性を保っています。
この窪みは、カメラを保持する際に右手の親指を添えることを促すためのものです。この深さ数ミリの窪みに注意が向くことにより、ホールド感が増すんですね。一般的なカメラのグリップは“出っ張り”を設けるものですが、ライカQは逆転の発想で窪みを設けているのが大発明だと思います。これがフィルム機であれば窪ませようとしても巻き上げギアの輪列がトップカバーの内側にあるから不可能ですが、デジタル機では機構部品が存在しないからこそ実現できたアイデアなのです。
Reporterモデルが出現してきた理由
引き裂くことがまず不可能だとされるアラミド繊維でボディを覆ったライカのReporterモデル各種が出現してきたのは、シリアの置かれた厳しい状況を取材中に対戦車グレネードにより重傷を負いながら、顔と胸の前に持っていたライカSLとライカQにより生還したイタリア人写真家の事例が発想の起点になっているそうです。
数年前にドイツ・ウェッツラーのライツパーク内にあるアーカイブセンターにて、被弾したその2機種の実機を拝見する好機を得ましたが、グレネードの破片がガッツリ当たって金属ボディの地金が生々しく露出したライカに戦慄した記憶があります。そこまでタフな状況で撮影する根性がなくても、普通に使い倒すのにReporterシリーズは好適だと思います。
まだまだ実用十分のライカQ2
先ほどの写真と同じカットがダブって載っている? いえいえ安心してください。このカットはMF時に距離リングをMACROに持っていくと17センチまで近づいてピント合わせができることを示したものです。ライカQ2は防塵防滴の仕様でマクロも搭載しているし、28mm F1.7レンズを固定装着しているので、外部からセンサーにゴミが入る心配も回避できます。
ライカQ3の6000万画素には及びませんが4730万画素なのでクロップすれば何本もレンズを持っているのと同じ効果が得られるライカQ2はまだまだ実用十分のカメラであることに加え、絞りとシャッター速度を両方Aマークに持っていったプログラムオートの傾向はISO低め、絞りはF8やF11などに絞り込みすぎずレンズの性能が最大限に発揮できるという、画質を重視したものになっていると感じると中明昌弘さんは教えてくれました。
まとめ
ライカQ2 Reporterは世界450台の限定品で、今では中古でしか入手できません。「限定版ではありますが、変に気を使ったりせずに使い倒した方が格好いいと思える機種です」カメラには使ったことが良い印として刻まれていくタイプのデザインと、使うほど見すぼらしくなる2種類があると思うのですが、本機は前者のタイプですね。もうひとつ付け加えると、Reporterシリーズは多少くたびれていても下取り価格はあまり下がらないそうです。
「これからカメラを始めたいというお客さんには、デザインで選んでくださいと言っています。これで写真が撮ってみたい、このカメラが使いたいという感覚はとても重要です」この言葉、いろんなカメラを手にしてきたベテランの方々にも当てはまる気がします。
■ご紹介のカメラとレンズ
ライカ Q2 Reporter (中古 B):830,000円
※価格は取材時点での税込価格
■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3
■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。
新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン
新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。