新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.018 ズミクロン50mm F2 第4世代
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんな品物にお目にかかれるのか楽しみです。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さんが用意してくれていたのは、M型ライカ用の交換レンズ。ズミクロン50mm F2でした。
M型ライカ用標準レンズの定番モデル
「今日のレンズは、ズミクロンの50mmです」とカウンター越し差し出された1本のレンズ。ズミクロンの50mmといえばヴィンテージサロンのライカフェローである丸山さんが見せてくれた初期のブラックペイントのズミクロンはレアなコレクターズアイテムの象徴的な存在という感じでしたが、こちらのズミクロンは一度どなたかの手に渡った経緯のある中古品ではありますが、現在も販売されている第4世代と呼ばれるタイプです。
「ズミクロンの50mmといえば当たり前すぎるかもしれませんが、自分としてはこれかなと思ってご用意しました。レンズ設計の年代からすると自分よりも年上なのですが、標準レンズの完成形として現在も発売されているのが、このフード内蔵タイプのズミクロンです」
デジタル対応の6bitコードを装備
このレンズには、デジタルのM型ライカで使用する際にレンズの形式を認識させるための6bitコードがマウントに装備されています。この仕様になったのはMデジタル初号機のライカM8の登場と同時期の2007年ですから、それからもう17年も経つんですね。
Mマウントのズミクロン50mmは、光学的には3世代、見た目は4世代の変化があります。レンズ構成は1954年にスクリューマウントから切り替わった初代が6群7枚、1969年に登場する第2世代が5群6枚、さらに光学系を進化させて1979年に登場した第3世代では4群6枚となります。凸、凸+凹、絞りを挟んで凹+凸、凸とシンメトリーにレンズが並ぶ無駄のない設計ですね。その光学系を受け継ぎながらフードを組み込み式のスタイルにしたのが今回ご紹介している第4世代ズミクロン50mmとなります。
組み込み式のフードを内蔵
M型ライカ用の標準レンズとして長い歴史を刻んできたズミクロン50mmですが、この第4世代が登場するまではレンズ本体とは別にフードを用意してあげる必要がありました。
ラッパ型でクロームのリムとブラックペイントの施された遮光パーツのコンビネーションが工芸品のような仕上がりのIROOA、アルミニウム製で軽量かつブライトフレームへの干渉を防ぐべく三カ所に切り欠きを設けながら先窄まりの意匠が秀逸な12585、その形をそっくりプラスチックでトレースした後継の12538がそれぞれの世代のズミクロン用として用意されていてフードを集めるのも楽しいものではありますが、本体にフードが内蔵してあればそれで用は足りるのです。旧式のフードと遮光性を比較すると劣るのかもしれませんが、必要ならレンズの先端からスゥーッと引き出してやればいいので可搬性という意味でも優れています。
第3世代との外観の違いを検証
光学系は同じだけれどフードを組み込みにして実用性を高めた第4世代と、ズミクロン50mmの進化の樹形図を1つ前に戻した第3世代ではどのような違いがあるのでしょう? ということで第3世代の在庫がありましたので並べて比較させていただくことができました。左のブラックのレンズが第4世代、右のシルバーのレンズが第3世代です。
「第3世代はフードが別体なので細身でシュッとした感じではありますが、前玉の大きさは全く変わっていないので第4世代もフィルター径はφ39mmという小径です。第4世代はフードを内蔵させるために少し太くなってしまったけれど、寸胴(ずんどう)になっているかといえば、そうでもないです」両モデルの大きな違いは第3世代ではピント合わせがフォーカシングレバーを用いる仕様なのと、絞りリングの位置がボディ側に近い点です。
ズミクロンの写りに対する評価
「写りは本当に標準的にバシッと写るんですけれど、開放にするとズミルックスほどではないですけれど柔らかめの描写になったりもします。フレアやゴーストは出づらいので、どの様な環境でも対応して本当にオールマイティに使えるレンズなのではないかと思います」
M型ライカ標準レンズの決定版として1954年に登場して以来、ズミクロン50mmはライカのレンズの基準点のような存在として球面設計レンズの伝統を貫き通しています。
「50mmでもF1.4のズミルックスの球面タイプはもう生産完了して非球面を採用したもの(ASPH.)しかないですが、ズミクロンの50mmだけは非球面を使わずに昔の写り、ボケの出方をそのまま引き継いで作っているので本当に伝統的な設計のレンズです。これ1本持っておけばいいというレンズで、逆につまらないからイヤという方もいらっしゃるのですが、あえて今回は出してみようと思いました」
サファリ仕様のズミクロン50mm
この写真は、オリーブグリーンにペイントされたライカM10-Pサファリに同色のズミクロン50mmを装着してみたところです。M10-PサファリはシャッターダイヤルやISO感度設定ダイヤルなどがシルバー仕上げなのでシルバーのレンズとの相性も抜群なのですが、ボディと同色のレンズと組み合わせると一体感があって格好いいですね。
オリーブグリーンに塗装したライカといえばドイツ軍用のM3やイスラエル軍用のM4-2といった軍需モデルに端を発し、民生用では一眼レフのライカR3をオリーブグリーンに塗装したサファリモデル用に交換レンズも同色にペイントされたものがリリースされていましたが、ライカR3のグリーンはライカM10-Pサファリの採用色よりもやや明度が低いので、組み合わせるならこのズミクロンの方が適任だと思います。
まとめ
個人的にはズミクロン50mmの第1世代をライカレンズの第一歩として使い始めた経験があり、その描写を受け継ぐレンズが現行品として現在も販売されているのは嬉しい限りです。
「最初の1本としてお薦めするレンズとしてクセとかボケとかを選ぶならズミルックスで、スナップでフィルムでという方にはズミクロン。自分の好みが分からなければまずこの1本をとりあえず持っておけばと思います。絞っても硬くなりすぎず、彩度も高すぎず、開放からそれなりに撮れる。逆に45年前からこれなのかと思うとすごいレンズです。今の時代でも新しいレンズで伝統的な写りを体験できる。M11で使っても大丈夫だし、フィルムでの撮影もいい。シンプルだけど奥が深いレンズです」と熱く語る中明昌弘さんに賛成1票。ライカレンズの写りを語るうえで欠かせない存在だと思います。
■ご紹介のカメラとレンズ
ズミクロン50mm F2 第4世代 ブラック 価格35万円
ズミクロン50mm F2 第4世代 チタン色 価格50万円
ズミクロン50mm F2 第4世代 サファリ
※価格は取材時点での税込価格
■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3
■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。
新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン
新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。