新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.002 ライカM3初期型“段付き” 沈胴ズミクロン5cm f2

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.002 ライカM3初期型“段付き” 沈胴ズミクロン5cm f2

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。初回はいきなり真っ赤なライカMデジタルと真っ赤なアポズミクロンが出てきてビックリしましたが、さて今回はどんなライカが登場するのでしょう?

ライカフェローのお薦めは?

お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でライカフェローの肩書を持つ丸山さん。物腰は静かで穏やかですが、いわゆる“通好み”のヴィンテージライカを語るとき、マグマのようなカメラ愛が伝わってくる方です。そんな丸山さんがカウンターにそぉっと出してきてくれたのは、クローム仕上げのライカM3。なかなか渋いセレクトです。

一見すると普通のライカM3ですが

ご覧のとおり、ライカM3です。現在のMデジタルの礎となった、実像式レンジファインダーと撮影レンズに応じたブライトフレーム表示機構を搭載した35mm判小型速射カメラの傑作であるライカM3の発売年は1954年。それ以前の、いわゆるバルナック型ライカをコピーしていた日本のカメラメーカーがライカM3を見てとても真似できないと尻尾を巻き、そこから一眼レフタイプのカメラ開発に邁進していったというのは有名な逸話です。

ここに登場したライカM3はストラップ吊り金具が大きい福耳タイプで、フィルム巻き上げはダブルストローク、シャッター速度も倍数系列で、レンズ交換しなくても任意の焦点距離のブライトフレームを出せるフレームセレクターは装備されていないなど、初期型のライカM3の特徴が見て取れます。やっぱり初期型って雰囲気抜群でいい感じですよね。

よく見ると、このライカには“段”がある!

で、よく見るとこのライカM3は普通の初期型とちょっと様子が違うんです。発売翌年の1955年製造のライカM3と並べて比較してみましょう。左にあるのが、僕たちが普通に知っている初期型のライカM3で、右にあるのが今回のお薦めライカ。発売初年1954年の製造だそうです。その違いがどこにあるのかお分かりになるでしょうか?

正解は、右のライカM3には“段”があるんです。この場合の段というのは書道や花道や柔道などの技能の等級を表すものではなく、物理的な区切りのこと。距離計の測距用の小窓のあるところから左に向かってカメラボディの端っこの丸く付けられたカーブと接する面がひとつながりではなく“段”になっていますよね。これがライカコレクターの珍重する対象である“段”の正体なのです。いちど気がついてしまえば、「うわ、このライカM3は“段付き”だ!」と驚けるようになります。

ごく初期型だけに現れる“段付き”モデル

この個体の製造番号は700621。ライカM3は製造番号700000からスタートするので622台目のライカM3ということになります。ライカM3って実はものすごくたくさん作られていて、製造初年度の1954年だけでも1万台、翌年の1955年には何と5万台も製造されていたことを鑑みると、621番というのは初期型のなかでもかなりの初期型です。

丸山さんによると、カメラの正面だけでなく裏蓋側にも段のあるものがごく少数存在するらしく、海外のコレクターからは2コーナーと呼ばれているそうです。丸山さんが実機を目の当たりにして確認した経験があるのは1台だけ、あともう1台、海外のショップで売られている商品の画像を確認したことがあるとのこと。2コーナーのライカM3の製造番号は、この1コーナーの600番台より更に前のもので、70万の末尾が2ケタの番号のものだったそうです。

そもそも何で“段”がついたのか?

段が2つあるライカM3に関しては、不肖ガンダーラも見たことがあります。この取材が終わって数日後、ライツ・フォトグラフィカオークションNo.43の下見会で出品物の実機が東京で展示されていたのですが、そこに何とライカM3のプロトタイプがありました。トップカバーに打刻された番号は0025。この数字からして尋常ではありません。

通常の初期型ライカM3と比較してフィルムカウンターが小窓ではなくディスクが露出していたり、巻き上げレバーの形状が異なっていたりしていることに加え、ライカM3プロトタイプには“段”が2つありました。ウィーンから来日していた専門家の方によれば、真鍮製のトップカバーをプレス加工するのに使う金型が違うのだろうとのこと。距離計窓などを額縁状に飛び出させるための前後方向のプレス工程で、“段”が出たのだと思います。

ものづくりマインドが随所で炸裂

ライカM3プロトタイプには段が2つあり、量産型のごくごく初期に段が2つのものがあり、それが1つになり、やがて段は消えた。ライカM3を初年度から1万台も製造していく初動のタイミングでトッププレートの形が何回か変わった経緯を推測すれば、2コーナーはプロトタイプと同じような作り方のもので、1コーナーも量産の一歩手前、プリプロダクション的な性質を持ったまま世に送り出されたのかなと考えるとゾクゾクします。

今回のお薦めライカM3(段付き)の裏蓋をパカっと開けてみると、初期型の特徴であるガラス圧板ですね。フィルムの平面製を担保すべく、金属枠に平滑に研磨されたガラスが嵌め込んであります。これは正直やりすぎということだったのか、後期のライカM3ではバルナックライカ時代と同じように金属の圧板に戻ります。やはり初期型は気合の入り方が違います。

初期型ライカM3に似合うレンズ

レアな段付きのライカM3に触らせていただくと、これに似合うレンズってどんなのでしょう? と聞きたくなりますよね。そこで丸山さんがカウンターにそぉっと出してくれたのがこのレンズでした。レンズをググッと引っ込めて持ち運ぶことのできる沈胴ズミクロン5cm f2です。ライカM3とくればまず思いつく最初のレンズはズミクロンと相場が決まっていますが、これは1951年生産のごく初期型。レアなスクリューマウント仕様です。

ボディよりも製造時期が早いですが、初期型には初期型で合わせるというコンセプトでの見立て。この微妙なずらし感が粋ですねぇ。レンズ番号は920015。資料によればズミクロン5cm f2の製造番号って920000からなんですよね。そうするとこのレンズは16番目のズミクロンということですか! 初期型コーデもここまでくると脱帽ものです。

まとめ

ぱっと見では、これぞヴィンテージカメラの代表という風貌のライカM3初期型ですが実は激レアな“段付き”モデル。クロームメッキの表情も梨地のザラザラした感じが強くて初期型の勢いを感じさせるだけでなく、製造工程の変遷を垣間見るような独特な“段”がついている。そんな些細なことと思われるかも知れませんが、カメラをコレクションしていくという観点で初期型にこだわる方って数多くいらっしゃるそうです。

そうすると、レンズなんかも初期型でコーディネートしたらいい感じ。ということでズミクロン5cm f2も最初期のスクリューマウントのモデルをライカMバヨネット変換リング経由で装着。こうしてボディとレンズの組み合わせを眺めてみると惚れ惚れしますね。

 

■ご紹介のカメラとレンズ
・ライカM3(段付き)700621   価格990万円(税込み)
・ズミクロン5cm f2 920015   価格165万円(税込み)
※価格は取材時点の税込み価格

■ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山 豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント。

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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