新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.024 ライカM-P ”grip” by Rolf Sachs

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.024 ライカM-P ”grip” by Rolf Sachs

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。毎回どんなライカが出てくるのか予測不能な展開を基本としてお届けしていますが、今回もどんなカメラが出てくるのか楽しみです。

コンシェルジュのお薦めは?

今日お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの水谷さん。この前はエルメスとコラボしたライカM9-Pの特別モデルという激レアなライカを見せていただきましたが、水谷さんのお薦めは毎回通常モデルとは一味違う。今回もかなりレアな品物が出てくるようです。

製造数79セットのライカM-P特別モデル

「こちらがライカM-P “grip” by ロルフ・ザックスのセットになります」とシリアルナンバー付きの防水ケースから出てきたライカは、水谷さんのセレクトらしく普通のライカではありませんでした。貼り革の部分が鮮烈な赤色で、通常品の人造皮革とは異なる質感が遠目からも分かります。

「2016年に35mmのズミルックスM 35mm F1.4 ASPH.とセットになって79セットが販売されました。卓球のパドルをモチーフにした、ドット構造のユニークなラバー素材が用いられているのが特徴です」なるほど、卓球のラケットに貼ってあるイボイボの付いたラバー素材をカメラに貼ってあるのでグリップ感が良い!だからライカM-P “grip”ということなのですね。

ロルフ・ザックスとは誰なのか?

カメラの背面、アイピースの横には、控えめにrolf sachsの刻印があります。この人が本機のデザインディレクションをされたとのことですが、どんな人なのでしょう?

「ロルフ・ザックスさんは、ブリジット・バルドーの3番目の夫でもあったギュンター・ザックスさんの息子です。お母さんはブリジット・バルドーではありません。ギュンターさんはVOGUEでも撮影していた女性のポートレートで有名な写真家で、ブリジット・バルドーとは避暑地のバーで出会い、ロールスロイスの趣味が一致したことで意気投合したそうです。ちなみにギュンターさんの祖父は自動車メーカーのオペルの創業者だったりします。要するに、お金持ちの息子さんです」

ふむふむ。とにかくスゴイ家系の人だということだけは分かりましたが、ご本人は何をしている人なのでしょう?

アーティスティックなアプローチのデザイン

「ロルフさんの社会人としてのスタートは投資銀行の仕事だったそうですが、父のギュンターさんと同様に写真家でもあります。2013年には世界遺産にもなっているスイス鉄道の車窓風景をライカSシステムで撮影した長期プロジェクト“Camera in Motion – From Chur to Tirano”で動画の撮影もされています。1980年代から家具デザイナーとしての経歴もあり、FORTISの腕時計デザインも手掛けていて、いずれもアーティスティックなアプローチが特徴です」

左がロルフ・ザックスさんによる“grip”で、右が通常のライカM-P(Typ240)。ボディはシャッターダイヤルの色が赤白逆転していて、Aとフラッシュマークが白、シャッター速度が赤に。オンオフ表記も赤で、ライカロゴはブラックアウトしてあり、動画ボタンやレンズ着脱ボタンも黒に。レンズは距離スケールのfeet表示を赤にしてあるので全体に統一感があります。

通常モデルには同梱されない付属品

本セットには特別にデザインされたライカM-P(Typ240)とズミルックスM 35mm F1.4 ASPH.に加え、ライカSF40フラッシュ、コットンキャリングストラップ、クリーニングクロス、クリーニングブラシ2本が同梱されています。SF40フラッシュは通常品と変わりありませんが、ここのところM型ライカにクリップオンのフラッシュをつけて撮影するのが流行っていますよね。水谷さんによると「SF24やSF40は出てくるとすぐに売れてしまいます」とのこと。

このコットンストラップの構造は、登山用のザイルを用いたストラップに近いのですが感触は柔らかくて体に優しい感じで全長も約95cmと短めです。そして木製のクリーニングブラシが2本あるのですけれど、そのうち1本は歯ブラシみたいな格好をしています。

このブラシの使い心地はクセになりそう

「ロルフ・ザックスさんの手がけてきた作品には、先入観にとらわれず視点を変えていくことがメッセージとして込められています。ライカM-P “grip”に関して卓球のラバーを使ったのは、本来はラケットの打面に貼って卓球のボールに回転をかけるためのものではありますが、球に回転がかかるということは、つまり引っかかりやすい、手にしても落としづらいという発想でラバーを張るに至ったのではないかと思います」

この逆転の発想の代償として、ラバーのイボイボの溝の部分に洋服などの繊維が引っかかってくる可能性も否めず、その時のためのブラシが同梱されているという次第。ブラシをかけるショリショリした感触、これはクセになりそうです。

赤と黒で統一されたデザイン

この限定モデルがリリースされた2016年は、次期機種であるライカM10が登場する前の年でした。そういうタイミングはスペシャルモデルの当たり年になる傾向があるようです。

「ライカM(Typ240)をベースにしたライカ銀座店の10周年記念チタンモデルや、シンガポールのマリーナベイ・サンズホテルの外観がボディに、レンズにはライオンのエッチングの入ったシンガポール限定モデルが18台出るなどスペシャルモデルの種類は多いですが、M9-Pのエルメスエディションのように外観のデザインに及ぶ全体のパーツを変えたものではないのがすこし物足りない印象もあります」とはいえ、本機の赤と黒で統一されたデザインの世界観はユニークですし、何よりカメラを握りしめたときの感触は唯一無二のものです。

まとめ

視覚のインパクトだけでなく、触覚にも訴えかけてくるライカM-P “grip” by Rolf Sachsモデル。本機が発表された2016年当時に卓球のラバーを用いているらしいと噂になり、不肖ガンダーラは卓球ショップで赤いイボイボのラバーを買い求めて自分のカメラに換装しようと裁断してみましたが、これがうまく切れないのに愕然とした記憶があります。

それはそれとして、このカメラをどんな人に使って欲しいか水谷さんに聞いてみました。「卓球のラバーが使ってあることと、自分と苗字が同じなので北京・ロンドン・リオデジャネイロそして東京五輪で卓球の日本代表をされていた、水谷隼さんが持っていたら素敵だと思います。赤と黒の対比が美しく、水谷さんに限らず男性にも女性にも使っていただきやすいデザインのカメラです」

 

■ご紹介のカメラとレンズ
ライカM-P “grip” by Rolf Sachsセット 価格 275万円
※価格は取材時点での税込価格

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之
1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント。

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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