新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.026 ライカM3 ブラックペイント セカンドバッチ

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.026 ライカM3 ブラックペイント セカンドバッチ

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなアイテムを見せてもらえるでしょうか?

ライカフェローのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でライカフェローの肩書を持つ丸山さん。ヴィンテージライカに関する豊富な知見を持っている丸山さんが前回見せてくれたのは、1964年製のライカM3ブラックペイントでした。そして前回の取材で予告めいた発言をされていたとおり、今回もカウンター越しに黒いライカが出てきました。

1960年製のブラックペイントのライカM3

「こちらが、M3のブラックペイントです」と丁寧な所作で差し出されたボディ。いや、このカウンター越しの風景には既視感があるというか、前回と同じ展開ですよね‥。いくら黒く塗られたライカを語るからにはライカM3は欠かせないとはいえ、製造番号が違うだけのブラックペイントのライカに出てこられてもネタになるのでしょうか?

「今日のカメラも黒いM3です。前回は109万番台でしたが今回はそれよりも前に製造されたセカンドロットです。993から始まる250台の中の1台で、通称セカンドバッチとも呼ばれています。1960年の製造ですが、この年に作られたエレキギターなども評価が高くヴィンテージとして販売価格も高騰してきています。カメラやギターに限らず、さまざまな工業製品において注目されている時代であり、その象徴の一つがブラックペイントのライカM3だと思います」

経年による塗装面の芸術的な変化

「このロットのブラックペイントは、前にご案内しました1964年製の109万番台とは違いペイントにプツプツとした泡が出やすい傾向があると言われています。特にこの機体は丁寧に取り扱われた様子で、シャッターダイヤルの天面にペイントの剥がれが少々あるだけで、全体的に泡が出ていてなんとも言えない雰囲気です」と、多幸感に満ちた微笑みを浮かべながら丸山さんは語ってくれます。

確かに、この塗装面のテクスチャーは釉薬をあえて沸騰させて表面にニュアンスを出した伝統工芸品の器みたいですね。「そうなんですよ、こういう塗装をしたのかと思ってしまうくらいです。これは正にヴィンテージの楽しみのひとつです。元の塗料がほとんど残っていないほどに使い込まれたものにも味わいがありますが、これはこれで、このままの状態を維持しないと本当に申し訳ないなという、骨董の世界に通じる個体だと思います」

この塗装の景色を「泡が出る」と称する

こんな感じにプツプツと、細かく塗装の表面に銀河の星々の様な表情が現れている状態をヴィンテージライカの世界では何と呼ぶのでしょう?「泡が出る。あとはバブルという呼び方です。トップカバーだけでなく、巻き上げレバーの部品にも同じ感じで泡が出ているんです。これだけ芸術的な泡が出ていながら、目立った傷などはなく、絶妙な塗装の剥げ方をしています」

改めて今回のブラックペイント仕上げのライカM3を眺めていると、これは長い時間と置かれていた環境要因によって独特の雰囲気に到達したのだろうなぁ。と感慨深いものがあります。機体の概要としてはシングルストロークのフィルム巻き上げ機構を搭載し、三脚ネジ穴は大ネジの規格。ライカの記録によりますと1960年に993501-993750の250台が作られた、ブラックペイントのセカンドバッチに相当します。

セカンドバッチの2台を並べてみる

新宿 北村写真機店6Fヴィンテージサロンの驚くべき点は、取材した時点で世にも珍しいセカンドバッチのブラックペイントのライカM3が2台も在庫として存在しているところ。せっかくなので並べて写真を撮らせていただきました。

上の機体は、塗装面にバブルがほとんど出ていなくて、よぉ〜く観察すると巻き上げレバーのごく一部に特徴的な泡が出ていることが分かります。一般的な価値観であれば、塗装がしっかりしている機体の評価が高いのでは?と思いますが、「ペイントの表情によって同じセカンドバッチでも販売価格は変わってきます。下の機体はこれだけ芸術的な泡が出ていながら、目立った傷などはなく絶妙な塗装の剥げ方をしていることが評価のポイントです」とのことで、この2台ではバブルが全体を覆う感じで出ている機体の方が販売価格もグンと高いそうです。

M3だけでなく同時期のM2にも泡が出る

ブラックペイントの塗装面にプツプツと泡が出てくるのは、ライカM3のセカンドバッチだけの症状なのでしょうか? その問いに対する検証をすべく、同時期のライカM2ブラックペイントも見せていただきました。上がM2で下が今回取り上げているM3です。M2はトッププレートのエッジ周辺部からペイントが剥がれ落ちていて、黒と真鍮の地金が織りなす模様が襖絵に描かれた山の連なりの様にも見えます。

それはそれとして、ペイントが残っている部分に注目すればM3と同様のバブルが出ているのが分かります。しかも泡の量が半端ないですね。「同年代のライカM2、こちらは990番代の個体ですが泡が出ています。この頃のブラックペイントのライカは機種に限らず泡が出やすい様です。ライカM2のブラックペイントは948番台がファーストロットですが、その時期ではあまり泡が出ていないという印象があります」

泡の出たズミクロン50mmとコーディネート

では、この芸術的に泡の出たブラックペイントのライカM3に似合うレンズは?という問いかけに、丸山さんが「この泡の感じでしたら‥。」と呟きながら席を外し、しばらくして戻ってきたとき手にしていたのはブラックペイントのズミクロン50ミリでした。

この個体、レンズのコンディションはいまひとつですが、レンズ鏡筒のブラックペイントに泡が出ていて、その景色がライカM3の塗装面とすごくマッチしていて痺れます。このカメラはどんな人が持っていたら似合うでしょう?「ポルシェ911のタイプ993を所有していらっしゃる方には、この993から始まる製造番号のM3を助手席に乗せて走ってもらいたいです。ポルシェのボディカラーも、もちろんブラックであって欲しいですね。この泡がキレイに出ているM3と、中古のポルシェ993の販売価格は偶然にも大体同じみたいです(笑)」

まとめ

ヴィンテージライカを極める人にしたら、このカメラを頂上としていいですよね?と丸山さんに問えば、「頂上では、ないですね。普通のシルバーのモデルからコレクションが始まったとすれば、だいぶ上の方に来ています。でもM3ブラックモデルの中ではまだ山の中腹です。ブラックペイントではファーストロット、そのファーストロットの中でもブラックカウンターがあり、その上には91から始まるプロ仕様のブラックカウンターも控えていますので、今回ご紹介したセカンドバッチは4番目にあたります。だから6合目といったところです」と妥協のないお返事が戻ってきました。いやはや、ライカ蒐集というものは本当に奥深いものです。次回は一体どんなライカが出てくるのか楽しみです。

 

 

■ご紹介のカメラとレンズ
・ライカM3 ブラックペイント 価格 13,553,700円
・ズミクロン50mm F2 ブラックペイント 価格 1,980,000円
※価格は取材時点での税込価格

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山 豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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