新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.027 ライカ アラカルト

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.027 ライカ アラカルト

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。毎回どんなライカが出てくるのか予測不能な展開でお届けしていますが、今回もどんなカメラが出てくるのか楽しみです。

コンシェルジュのお薦めは?

今日お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの水谷さん。前回は卓球のラバーを外装に採用した特別モデル、ライカM-P ”grip” by Rolf Sachsを見せていただきましたが、水谷さんのお薦めは普通のライカの斜め上を行くひねりの効いたセレクトが特徴です。さて、今回はどんなライカが登場するのでしょうか。

カスタムメイドでライカを仕立てる

「今日は、『ライカ アラカルト』です」と、カウンターの上にずらりと並べられたM型ライカの数々。いずれもフィルム用のアナログ機ですがヴィンテージと呼ぶには少し若い印象のものばかりです。どうやらこのカメラたちが『ライカ アラカルト』ということらしい。視界の中にこれだけの数のライカがあると目移りしてしまって集中できないのですが、よく見ると貼り革の素材が通常モデルと違うオーストリッチ調のものなどがあります。

「今もデジタルボディの外装レザーを自分好みのカラーに貼り変えてくれる『ライカ アラカルト カスタムレザーサービス』やボディに自分好みの刻印を入れてくれる『ライカ アラカルト エングレーブサービス』をライカでは実施しておりますが、今回は2004年から2019年まで受注していた、4000以上もの組み合わせの中から自由に選べるカスタムメイドサービス、『ライカ アラカルト』をご紹介させていただきます」

ライカM7とライカMPの選択からスタート

「この当時のライカは2003年のMP エルメスエディションを皮切りに、2009年のM7 エルメスエディション、2012年のM9-Pエルメスエディションと2004年にエルメスの資本が入ったこともありフランスのセンスが入ってきたのでしょう。アラカルトというのはフランス料理でレストランが用意したコースではなく、メニューの中から1品ずつ客が自分の好きな品物を選ぶ注文の方法です」

通常品として販売されているカメラそのままではなく、自分の好みにジャストフィットする仕様で注文する。これはかなりエキサイティングな消費行動であり、注文する側のセンスも問われますよね。ライカ アラカルトでは、メインの料理を肉にするか魚にするのかをまず決める様に、絞り優先オートの効く電磁制御シャッターのライカM7もしくはマニュアル露出で機械式シャッター搭載のライカMPのいずれを母艦にするのかを選びます。

上下カバーと操作部品の形状・仕上げをセレクト

「次は、上下カバーの色です。シルバークローム、ブラッククローム、ブラックペイントの3種類から選べます。通常のラインナップに加えてM7の場合は新たにブラックペイントが、MPではブラッククロームが選べるようになりました。それぞれプラス7,300円でオーダー可能でした」おお、実用機の印象の強いM7をブラックペイントにしたり、クラシック調のMPを逆フリでブラッククローム化することも可能だったのですね。

「M7でブラックペイントというとこちらでオーダーしたもののみになります。MPであれば巻き戻し装置をノブ式からクランク式に変えたり、巻き上げレバーの形状も、M7ではM4以降に搭載されているプラスチックのカバーがついたものからクラシックタイプのものに変える、という選択肢もありました。仕上げの色を変更することで、ボデイをブラック、操作部品をシルバーにしてM8ブラックスペシャルのようなスタイルでオリジナルの1台を作ることもできました」

刻印のスタイルや有無もカスタマイズ可能

「上カバーの刻印のタイプを、通常のタイプ、シリアルナンバーを含めホットシューに集約することでステルス化したタイプ、M11-Pのような筆記体ロゴとLEICA CAMERA GERMANY AGの刻印があるクラシックタイプの3種から選べました。通常ではトップカバーに番号があるので、トップカバーの刻印を『なし』に指定すると10,200円追加で費用が掛かったそうです」なるほど。何もしないことに価値を見出す人は、そのためのコストが必要だったということですね。

「究極の仕上げは個人の刻印でしょうね。今もライカアラカルト エングレーブサービスとして受注しているのですが、自分で書いた手書きのシグネチャーなども彫刻ができるので、それを入れているアラカルトのライカは究極に個性的な一品です」

確かに、自分の筆跡で名前をトップカバーに入れたライカをオーダーするというのは勇気がいる行為だと思います。

貼り革で手触りと見た目の印象を決定づける

「続いて、革の種類と色。一番個性が出てくるところです。2020年からのライカアラカルト カスタムレザーサービスでは35種類選べますが、この時は11種類ですね。黒だけで7種類ありました。バルカナイト調、2色から選べるオーストリッチ調、トカゲ調などに加えてエルメスっぽいボックスカーフもありました。滑らかなテクスチャーのサドルレザーは最高級で33,400円。これは本革の手触りを大切にしたいユーザーにおすすめとのことでした」もう終わってしまったサービスですが、あの革にしてみたら、どんな雰囲気に仕上がるのだろうかなどと妄想が膨らみます。

「全体的な色味のバリエーションとしてはライカアラカルト カスタムレザーサービスで選べる目立つ赤や青などは用意されていません。渋い色で揃えられているがゆえ、どの色を選択してもすごく落ち着いたというか格好いいものになったのではないかと思います」

撮影スタイルに応じたファインダーを選ぶ

「ファインダー倍率もこだわりポイントで、0.58、0.72、0.85の3種類。この選択は外観というより使い勝手ですね。それだけでなくアラカルトではブライトフレームの組み合わせも選定できました。2005年に発売された特別モデルのライカMP3のようにシンプルに35、50、90の3種類にするなど、使わない焦点距離のフレームを消すというオーダーができました」

ファインダーの中に2種類の焦点距離の枠が出ない、スッキリした視界にすると撮れる写真も変わってくる気もしますし、消した焦点距離のレンズに対して買いたい気持ちが抑制されるという効果も期待できますね。「でも、これをやっている個体は残念ながら今の在庫にはありません」確かに、何かを減らすことへの決断というのは大概の人が躊躇してしまうものだと思います。

まとめ

クラシック風のディテールが渋いライカM7や、MPだけれどMAのように装飾が少なく、革だけ黒のオーストリッチ調でテクスチャーが感じられるものなど、集結したアラカルトは前のオーナーの個性が激しく表出しているということもなく、シックに収まっています。

ちなみに水谷さんが妄想するアラカルトを尋ねてみると「MPベースで、ノブはノーマル。トップカバーのロゴはこの時代は太すぎる気がするのであえて消しましょう。操作部品はシルバークロームを散らして、レーシンググリーンのナッパ革、これは青緑っぽいシックな色味です。ファインダーは0.85で、この倍率では本来フレームのオーダーはできないのですが、ここは妄想で35,50,90を出してもらいます。レンズはクロームのアポズミクロン。これは夢のセットですね」とのこと。この脳内シミュレーション、やりだすと結構ハマってくるので皆様も自分だけの妄想アラカルトを組んでみてはいかがでしょうか。

 

 

■ご紹介のカメラ
・ライカ アラカルト 価格 5,500,000円
※価格は取材時点での税込価格

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之
1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント。

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

関連記事

人気記事