新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.003 ライカM11

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.003 ライカM11

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。真っ赤なライカMデジタル、そして激レアな“段付き”の初期型ライカM3と神棚級のライカが続きましたが、ヴィンテージサロンでは新品のライカも取り扱っています。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でコンシェルジュを務める前にはカメラマンとして活動されていた経歴を持つ中明昌弘さん。仕事の道具としてカメラと接してきたけれど趣味のカメラも大好きという中明昌弘さんがカウンターに出してきてくれたのはデジタル機のライカM11。現役バリバリの現行品なので新品で入手可能なモデルです。

幅広い層のユーザーにお薦めできるライカ

ライカM11は2022年1月の発売で、このブラックのモデルと同時にリリースされたシルバーのモデルは2023年11月19日に生産完了がアナウンスされたそうです。ブラックのモデルに関してはバックオーダーがあるのでまだ生産が続けられている模様。ライカM11はご覧のとおり伝統的なM型ライカのスタイリングを踏襲しています。

前機種のライカM10からの変更点としては60MPセンサーによる撮影性能の向上や、ブラックのモデルに関してはトップカバーにアルミを採用することでフィルム機のM型ライカ並みに軽くしたことなど。動画機能はあえて搭載せず、写真だけが撮れるカメラです。中明昌弘さんによるとライカM11を購入されているのは写真撮影にのめり込んでいるアマチュアの方々だけでなく、プロからライカに初めて触る人まで幅広い層とのこと。

使いやすさという視点でブラッシュアップ

ライカM11が発売されてから議論になったのが、底蓋を廃止したことの是非です。デジタル初号機のライカM8以来、フィルム機のライカと同様に底蓋を外してからバッテリーやSDカードを取り出すしくみだったのですが、ライカM11ではミラーレス機のライカSLシリーズやライカQシリーズと同様にバッテリーロックレバーを操作することでロックが解除されダイレクトにアクセスすることが可能になりました。

要するに、普通のデジタルカメラみたいにバッテリーやSDカードが脱着できるのですが、底蓋がなくなって寂しいという継続支持派と、便利だからこっちの方がいいという実用派で議論が起きてしまったのです。それはM型ライカの操作に関する所作には1954年にライカM3が登場して以来、それぞれのユーザーがライカに触ってきた記憶の蓄積があり、『M型とはこういうものだ』という確信をそれぞれのライカユーザーが持っているからなのだと思います。

普通のミラーレス機のように使うアクセサリー

ライカM11がM型ライカとして受け継いだ最大の特長とは、実像式の光学距離計を搭載するレンジファインダーカメラであること。レンズを装着するとその焦点距離に応じた撮影フレームが視界に浮かび上がり、中心部に見えるキラキラとした小さな矩形の二重像をレンズの距離リングを回すことで合致させるとピントが合うという、カム機構と精密な光学部品によって構築されたマン・マシン・インターフェイスです。

このことに加え、ライカM11はアクセサリーシューにオプションで外付け電子ビューファインダー「ビゾフレックス2」を装着することもできます。背面の液晶モニターと同じ画像を高精細な370万ドットの有機ELビューファインダーで見ることができるので日中の屋外など、外光が強くて背面モニターが見づらい条件下でも活躍してくれます。

最大60MPのトリプルレゾリューション

最大60MPの画素数を持つライカM11は、JPGだけでなくDNGのRAWデータでも3つの異なる記録画素数(60MP、36MP、18MP)から選択することが可能。中明昌弘さんが実際に撮影した印象としては、画素数を抑えた設定にして超高感度で撮影してみるとノイズが減っていると感じたとのこと。それは画素数を減らす場合にピクセル全数から間引くのではなく、複数個のピクセルを合体して1画素とみなす処理をしているからでしょう。

このトリプルレゾリューションテクノロジーと呼ばれる技術の導入により、画像のデータ量を小さくしてもDNGの利点である色深度やダイナミックレンジの広さを活かせるというのがライカM11の技術的なポイントです。それだけでなく、撮像素子の保護ガラスに関してもUVカットとIRカットの役割を果たす2枚のガラスを貼り合わせて理想的な光学特性を持たせるなど、コストを度外視した妥協のない設計です。

フォーカスピーキングで安心してピントを合わせる

はい、これはブラックのライカM11を被写体にして、シルバーのライカM11で撮影しているところです。通常のライカMシステム交換レンズは初期で1m、それ以降では70cmが最短撮影距離で、カメラ本体の連動距離計も近方は概ね70cmまでしか対応できません。でも、最近では光学式の距離計連動範囲を超えて繰り出せるレンズが登場しています。そんなレンズで被写体に近づいて撮る場合にはLV(ライブビュー)を起動します。

ミラーレス一眼では当たり前のことではありますが、この技術的なトレンドを取り込むことで伝統的なレンジファインダーカメラの弱点とされてきた近接領域での撮影もこなすことができます。LVは背面モニターだけでなく前出のビゾフレックス2での運用も可能で、フォーカスピーキング機能も併用すれば安心してマニュアルフォーカスが楽しめます。

M11に似合う、アポ・ズミクロン

さて、ライカM11に似合うレンズは何でしょう?というベタな問いかけに対して中明昌弘さんがブラックのモデルに装着してくれたのはアポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.でした。これはライカMシステムを代表する超高性能標準レンズですね。そしてシルバーのモデルに装着してくれたのがアポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.。こちらは50mmのアポ・ズミクロンに続いてリリースされ、35mm準広角レンズの新基準を打ち立てたレンズです。

恐ろしいほどの解像力と、最短撮影距離30cmまで繰り出せるヘリコイド、φ39mmフィルターのコンパクトな外観、クルクルとねじ込んでいくと四角い切り欠きが間違いない位置にパチッ!と止まる金属製フードなど数多くの魅力を備えたこのレンズは全世界で大人気なので新品の入荷はいつになるかわからず、プレミアム価格であれば中古品が手に入るという状況だそうです。

まとめ

カメラとしての基本性能を磨き上げ、余計な機能を付け足すことはしない。そんなコンセプトで開発されたライカM11は伝統的なレンジファインダー機としての姿を持ちながら、デジタル機として求められる“使いやすさ”が進化しています。オートホワイトバランスでの安定した色再現など、撮影後のレタッチの知識のない人にも優しいです。

国産機のユーザーには手ぶれ補正機能がないのが気になるところかもしれませんが、手ぶれは100%撮影者の自己責任です。「何かをミスしていたら自分が悪いということ。だから、ある意味で上達も早くなるカメラです」と中明昌弘さんは穏やかに語ります。こういうカメラだと理解していただき、覚悟して使って欲しいカメラだそうです。買ってくれたお客さんが「すごくいいです!」とわざわざ報告してくれることも多いそうですよ。

 

■ご紹介のカメラとレンズ
・ライカM11 ブラックペイント (新品)価格132万7150円 ※納期未定
・アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH. (中古AB)価格95万2600円
・アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. (中古AA)価格176万円
※納期、価格(税込)は取材時点のものです。

■ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のカメラはライカM7ブラッククローム、MP0.72 ブラックペイント、ライカA型改(DII相当)

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。
企画、主筆を務めたライカM11ムック「LEICA M11 Book 進化するMシステム、その写りと使い方」(玄光社)が発売中です。撮影Tipsや豊富な作例など見応え十分の内容になっていますので、ご興味のある方はぜひ。

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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