新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.030 ライカM3(シングル&ダブルストローク)

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.030 ライカM3(シングル&ダブルストローク)

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画はコンシェルジュの方に「今はこのモデルを見せたい」と感じるままにお薦めライカを用意してもらい、いろいろ教えていただくという企画です。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さん。さて、今日のアイテムは何でしょう?

M型ライカの起点となったモデル

この連載も30回目を迎え、通い慣れてきた感じのヴィンテージサロンのカウンター越しに中明さんが差し出してくれたのは、クローム仕上げのライカM3でした。「今更というところもありますけれど、この企画は最初からすごいスピードで駆け抜けていると思ったので、基本に立ち戻っていただこうと思ってライカM3を紹介できたらと思います」

確かに今までレアなライカを中心にグイグイと紹介してきましたが、M型ライカの起点となったM3のプレーンなモデルに触れてみるというのは良い提案ですね。「こちらは700~の製造番号から始まる1954年生まれのファーストロットです。それから5年後の1959年に製造されたダブルストロークと呼ばれる後期型のモデルも用意しましたので、その違いについて見ていきましょう」

M型ライカの基礎をおさらいする

「ライカM3は、それまでのスクリューマウントのライカとは決定的に構造が異なる画期的な新型ライカでした。長きに渡りライカM型は進歩を続け今日に至りますが、そのオリジナルはライカM3になります。ライカMに盛り込まれた新機構としては、巻き上げレバー、バヨネットマウントなど我々の馴染みのあるもので、カメラの基礎のようなものです。採光式ブライトフレームがファインダーに組み込まれ、50,90,135ミリの撮影範囲が取り付けるレンズに応じて出現します」

撮影範囲を示すフレームを、レンズを装着しなくても切り替えられるレバーが初期型(左)にはありませんが、後期(右)になると装備されていきます。

「初期・後期に関わらず、ライカM3は後に出てくるライカM2と比較してみるとファインダー採光窓などに飛び出した枠が作り込んであったりして、カメラとしての表情が違います。かなりこだわって時間と手間をかけて作られています」

実像式の距離計と高倍率のファインダー

「ライカM3といえば、0.91倍という等倍にほぼ近いファインダーの測距用の基線長が従来のバルナック式ライカよりも長く、ファインダーの精度は画期的に向上しています。ライカM3は本当にファインダーが見やすいですね」と中明さんが力説するファインダーの切れ味は、皆さんにも体験していただきたい部分です。シャッターボタンの下にある小さな小窓から導かれた画像をファインダー中央部で合致させるのですが、そのエッジがしっかり見えているのは実像式の光学系だから。ちなみに測距窓の左下にトッププレートを固定するビスがあるのが初期型(左)で、後期型(右)では省略されます。並べて比べてみると、巻き戻し用のクラッチ解除レバーのサイズも変わっているのが分かります。

巻き上げ回数で分かれるジェネレーション

「M3には前期・中期・後期という分け方もありますが、大きく分けるとフィルム巻き上げを2回の動作で行うダブルストロークと、その後に生産された1回で巻き上げられるシングルストロークに分かれています。その違いを見ていきましょう」

上:ダブルストローク

・シャッター速度ダイヤルが大陸式でグロッシー (1,1/2,1/5,1/10,1/25,1/50,1/100,1/250,1/500,1/1000秒)
・フィルム巻き上げレバーが少し短い
・フレーム切り替えレバーがほとんどのモデルでない

下:シングルストローク

・シャッター速度ダイヤルが倍数式でサテンフィニッシュ (1,1/2,1/4,1/8,1/15,1/30,1/60,1/125,1/250,1/500,1/1000秒)
・フィルム巻き上げレバーが少し長い
・フレーム切り替えレバーがある

シングルストロークとダブルストロークでシャッター速度の系列が変わるので、クリップオン式の純正露出計ライカメーターを選ぶ時には自分のライカM3がどちらのシャッター速度系列なのかを認識しておく必要があります。

ジェネレーションで異なるディテール

ところで中明さんはダブルとシングル、どちらのモデルがお好みですか?

「僕は断然ダブルストロークの方が好きです。フィルム巻き上げで動かす親指の幅が狭いので、よりスピーディーに撮れると思います。シングルストロークは動作角度が大きいので、1回手首を返すような動作になるので、ダブルストロークを触ってしまうとシングルストロークは長いなという感じがします。巻き上げ機構としてダブルストロークはスプリング式、シングルストロークは基本的にラチェット式を採用していますが、シングルストロークのスプリング式というものもあり、中期型と呼ばれていたりもします」

この中期型スプリング式のシングルストロークを操作した時の感触が、私は1番の大好物です。それはそれとして、ダブルとシングルの見た目の違いの比較を続けましょう。

上:ダブルストローク

・巻き戻しの部中心部の指標が赤い線もしくは赤点1つ (赤い点2つのバージョンも存在する)
・ストラップアイレットが“福耳”と呼ばれる大きなもの

下:シングルストローク

・巻き戻しの部中心部の指標が赤い点2つ
・ストラップアイレットがシンプルなかたちのもの

ダブルストローク時代のアイレットは大きく豪華な造作で、ボディの中心部から吊り下げる配置ですが、後期のアイレットはレンズマウント側に寄せて吊り下げた時の重心位置を変えてあるので、同じレンズを装着しても微妙に吊り下げた感覚が変わってきます。

カメラの背面や内部にも仕様の変化がある

左:ダブルストローク

・初期ではフィルム厚版がガラス
・裏蓋開閉のクリックストップ機構がある
・裏蓋のビスの位置が内側
・フィルムメモ用の指標の数値ASA6-200 (生産後半になるとASA4-1000)

右:シングルストローク

・フィルム厚版は金属
・裏蓋開閉のクリックストップ機構なし
・裏蓋のビスの位置が外側
・フィルムメモ用の指標の数値ASA4-1000(M2登場の時代になると4-1300)

ダブルストロークとシングルストロークの背面を見比べると、あれこれディテールに変化があったことが分かります。ファインダーアイピースの形状も変わっているようです。

まとめ

こうして比べてみると、プレーンなクローム仕上げのライカM3という一言では片付けられないバリエーションがあることが分かります。それぞれのボディに用意してくれたレンズは、シングルストローク(右)にズマリット5cmF1.5、ダブルストローク(左)にズマロン35mmF2.8のメガネ付きの組み合わせ。「ズマリットは芯まで柔らかい描写をしてくれるのでそれを楽しみたいですね。モノクロとの相性もいいです。後期型では望遠レンズで楽しんでいただいてもいいのですが、ズマロン35mmF2.8のメガネ付きです。ボテッとしているのが格好いいと思います」

中明さんの個人的な好みのM3は「こだわろうとしてこだわるのであれば、すべてのパーツが初期型になっているものがいい。という方もいらっしゃるかと思うのですが、僕もそのうちの一人です(笑)。700番台を過ぎて710番台に入ると中古の販売価格も普通になってくるので、僕はその番号帯で探しています」とのこと。同じタイプを狙っている人は、早めに決断して、中明さんに買われてしまう前に行動を起こしたほうがいいかもしれません。

 

 

■ご紹介のカメラ
ライカM3ダブルストローク 価格1,650,000円
ライカM3シングルストローク 価格198,800円
※価格は取材時点での税込価格

■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

関連記事

人気記事