新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.004 ライカM3J アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.LHSA特別限定モデル

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.004 ライカM3J アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.LHSA特別限定モデル

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。真っ赤なライカMデジタル、激レアな“段付き”の初期型ライカM3、現行品のライカM11に続き、今日はどんなライカにお目にかかれるのか楽しみです。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの水谷さん。初回に出していただいた真っ赤なライカMデジタルには度肝を抜かれましたが、今回ご用意していただいたのはどんなモデルなのか気になります。水谷さんの得意ジャンルはもしかしたらモダン・クラシック的なアプローチなのかなと推測しつつ、カメラの登場を待ちます。

クラシックテイスト溢れる21世紀のライカ

「こちらになります」とカウンターの上に置かれたカメラは、黒塗りのライカM3に見えました。でも、それにしてはペイントがものすごくキレイで、ヴィンテージ品では見たことのないようなミントコンディションです。これはいつ発売されたモデルなのですか?と尋ねれば、水谷さんは「2006年です」と落ち着いたトーンの声で教えてくれました。

21世紀に入ってから作られたライカにしてはクラシカルな雰囲気なのが印象的なこのモデルは、その名もライカM3J。M3っぽいけれどM3ではなく、2006年にライカ銀座店がオープンすることを記念して200台だけ作られた日本市場の限定モデルとのこと。ライカの歴史のスケールからすればつい最近とも解釈できますが、2006年といえばデジタルMの初号機であるライカM8の発売年。そう考えると結構昔のような気もしてきます。

AG(株式会社)だけどゾルムスの時代

トッププレートの刻印を見れば、画像ではちょっとピンボケですがLEICA CAMERA AGとあります。AGとはアクチュエンゲゼルシャフト、すなわち株式会社を示すドイツ語の略称です。続いてSOLMS GERMANYと地名および生産国が記されています。

ライカM3Jが作られた2006年当時、ライカを作っていたのは古いライカの刻印でお馴染みのエルンスト・ライツGMBH(有限会社)ではなく、カメラ部門が独立して株式会社となったライカカメラ社。所在地はライカ愛好家には1920年代のライカから現行品のライカまでカメラボディにWETZLARと刻印されていることでお馴染みのウェッツラー(ヴェッツラー)ではなく、そこからから少し離れたゾルムスに社屋があったということになります。この地名の記されたライカは、ある意味レアだと言えます。

見た目はM3でも中身のベースはライカMP

ライカM3Jはフィルムカメラです。巻き上げレバーを操作して布幕横走りのシャッターをチャージすると、露出計を反応させるための丸い白ペイントが見えます。見た目はライカM3の意匠を再現していますが、中身は2003年に発売されたライカMPの0.72モデルをベースにしているので、35mmや28mmのファインダーフレームも表示できます。

この記念モデルの発端となったのは、ライカが世界初の直営店として開店を目論んでいたライカ銀座店。ライカカメラ社の現地法人として2005年に設立したライカカメラジャパンからのリクエストで実現した企画だったとのこと。このカメラを見せていただいていると、驚くような偶然ですが「これ、俺が作らせたんだよ」とライカM3Jの仕様指示をした張本人を名乗る人物がその場に現れました。新宿 北村写真機店ヴィンテージサロンってすごいところです。

こだわりのブラックカウンター

その張本人を名乗る方にお聞きしたところ、特注品の図面のやり取りでパーツの全てに対して『黒くすること』と、指示を入れて行ったそうです。どこもかしこも、とにかく黒くしたい。だからストラップの吊り金具もシャッターボタンの小さなマイナスネジの頭も、シャッターボタン周囲の指皿も黒く指定したそうです。

それだけでは飽き足らず、フィルムカウンターも白抜き文字の黒文字盤なんですね。これは通称ブラックカウンターと呼ばれるライカM3ブラックペイントの初期型にごく少数存在する黒いカウンターへのオマージュが込められているのを感じると水谷さんは語ります。ライカM3を想起させるトッププレートの立体感のある窓枠や長く伸びたエプロン部の凝った意匠に加え、マニアを唸らせるようなディテールや加工がライカM3Jには随所に見受けられます。

このカメラを使っても大丈夫ですか?

たった200台しか生産されなかったライカM3J。このカメラで写真を撮るのはすこし気が引ける気もしたのですが「ぜひ使っていただきたいです」と水谷さんは自説を披露してくれました。「ブラックペイントが擦れて地金の真鍮が出てきても味わいがありますし、それが更にこの個体の持つ個性となって、オーナーの愛着につながってくると思います」

でも、現状ではペイントに光を当てるとスクラッチが少しある程度なんですけれど、ここから真鍮が出てきたら買取価格って下がりませんか?「このモデルそのものに価値があると思うので、あまり変わりません。革を張り替えてあるなどではなく純正部品がキープされていれば経年変化は価値の減少にあまり影響しないと思います。ただし、ぶつけて凹んでいるような外観上の変化は別です」とのこと。そうなると撮るのもやぶさかではないですね。

アポ・ズミクロンの特別限定モデル

では、ライカM3Jに合わせるといい感じになると思うレンズは何でしょう?と水谷さんにお薦めレンズを尋ねると、カウンターの上に登場したのはクラシカルな雰囲気のレンズでした。金属製のピント調整リングに細かく縦筋が刻まれたローレット加工は1950年代のライカレンズに見られるもの。これは当時の黒塗りのズミクロンか?と思いつつ、少しだけプロポーションが違う気もします。さてこのレンズの正体は?

よく見れば刻印された文字や数字のフォントは最近のライカ製品と同じです。正解はアポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.LHSA特別限定モデルでした。光学系は通常モデルと同じですが真鍮製の鏡筒をクラシックスタイルで再設計してブラックペイント仕上げしたもの。2017年にLHSA(Leica Historical Society of America)50周年を記念してブラックペイント300本、シルバークローム200本限定生産されたものでライカM3Jの製造年とは10年以上の隔たりがありますが、伝統的なスタイルの再現という共通項で結ばれているということですね。

まとめ

現行のフィルム機として通用する中身でありながらクラシカルなスタイルを持つM型ライカ。そのような視点で21世紀にリリースされたセミクラシックのライカを物色してみるとライカM6TTLのミレニアムモデルのブラックペイントやライカMPクラシックなどが存在していて、そのジャンルの階段を上がって行った一番上の場所に置いておきたいモデルとしてライカM3Jが筆頭に挙げられるということかと思います。

ライカ銀座店は世界初のライカ直営店。その店舗設計や運営に関して、資本提携の関係にあったエルメスから学んだ部分が多かったと社主のアンドレアス・カウフマン博士はコメントしています。このライカM3Jの発売のタイミングと同期して、ハイブランドという概念が写真機にも応用できるのかという壮大な実験が始まったのだろうと思います。

 

■ご紹介のカメラとレンズ
・ライカM3J(中古A) 価格550万円
・アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.クラシックスタイル(中古A) 価格583万円
※価格は取材時点での税込価格

■ヴィンテージサロン コンシェルジュ:水谷浩之
1985年生まれ。憧れのカメラはM3J、M3ブラックペイント

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。
企画、主筆を務めたライカM11ムック「LEICA M11 Book 進化するMシステム、その写りと使い方」(玄光社)が発売中です。撮影Tipsや豊富な作例など見応え十分の内容になっていますので、ご興味のある方はぜひ。

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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