新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.006 ライカMP 0.72

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.006 ライカMP 0.72

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。前回は1958年製のライカM2ブラックペイント(連載vol.005参照)という博物館級の大物でしたが、ヴィンテージサロンにはもうすこしカジュアルな品物も沢山あります。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。前職はプロのカメラマンだった彼が前回お薦めしてくれたのはデジタルの現行機種ライカM11でした。今回も実用的でありつつこれぞライカというセレクトをしてくれるのではと期待しつつ、カメラの登場を待ちます。

現行品のフィルムM型ライカ

「こちら、ライカMPです」とカウンターの上にカメラを置きながら微笑む中明昌弘さん。ライカMPはドイツのライカカメラ社が製造している35mmフィルムを使う現行のレンジファインダー機です。布幕横走りの機械式フォーカルプレーンシャッターを搭載していて、フィルム巻き上げはレバー式。フィルムの巻き戻しはレトロなノブ式になっています。

ファインダーの倍率は0.72倍なので、肉眼で見るより少し縮小された視界の中に交換レンズに応じた撮影フレームが浮かび上がります。以前はファインダー倍率に0.85倍と0.58倍が用意されていて選べたのですが、現在は0.72倍のみが販売されています。この倍率は1958年に登場したライカM2から連綿と受け継がれているお馴染みのものですね。

見た目はクラシックだけど露出計を内蔵

ライカMPはブラックペイントの施されたクラシカルな外観ですが、フィルム巻き上げレバーを操作して横走りのシャッター先幕を露出させると、測光用の白いペイントが見えます。この白い部分にレンズから来た光線が反射して、その光をシャッター幕に向けて底面に設置されている受光素子がキャッチして、ボディに内蔵した露出計に反映させるしくみ。これは1984年に登場したライカM6以来の伝統的な方式です。

「僕は露出計の入っていないカメラの方が玄人(くろうと)っぽくて好きなんですけれど、実用を考えると露出計はあった方がいいですよね。今はフィルム代も高騰しているので、露出計は昔よりもさらに必要になっていると思います。適正露出だったか心配でもう一回撮っておこうというのも防げます」と中明昌弘さんは露出計の有効性について語ります。

現行のライカMP、その名前について

ライカにはMPという名前のカメラがこのモデルより前に存在していたので、おさらいをしておこうと思います。ライカMPという名前で最初に発売されたカメラは、1956年から1957年にかけて400台ちょっとが製造されたもの。これはライカM3をベースにして、バルナックライカ時代にあった迅速フィルム巻き上げ装置であるライカビットをM型用の底蓋サイズに拡張したアクセサリー、ライカビットMPに対応させた特殊モデルでした。

それから約半世紀が経過した2003年の初頭に、ライカM6をベースにしてクラシカルな外装にしたライカMP6というブラックペイント仕上げのモデルが400台の限定数で発売され、同年にライカMPが通常モデルとして登場したという次第です。似たような名前のデジタル機でライカM(Typ240)の外観を変更したライカM-Pが2014年に上市されましたが、こちらはMとPの間にハイフンが入ります。

原点回帰するディテール

ライカMPには、20世紀に発売されていたM型ライカのデザイン要素が散りばめられています。巻き上げレバーは指の当たる部分まで金属素材で、これはライカM3、その改造モデルである元祖ライカMPおよびライカM2を想起させるもの。その後のライカM4からM7までは指当てにプラスチックの可動式パーツが採用されていますが、それはあえて踏襲していないレトロなスタイルです。

指皿がクローム仕上げでピカピカ光っているのはライカM4ブラックペイント仕上げへのオマージュかと思います。フィルムの巻き戻しはクランクではなくノブ式で中心軸に赤いドットが2つ入れてあるのは、ライカM3の最後期のバージョンにあやかったもの。ちなみに最初は横線が刻まれていて、そのあと赤点1個の時代があって最終的に赤点が2個になりました。こういうディテールの変化をたぐる楽しみがライカにはあります。

ライカMPとライカM-Aの違い

この写真のシルバーのカメラがライカM-Aで、ブラックのカメラがライカMPです。おおよそ同じ外観ですが、シャッター速度ダイヤルのB(バルブ)表示のところにOFFと併記されているのがライカMPで、内蔵露出計の電源を切るためのもの。ライカM-AはライカMPから露出計を抜いたモデルだから玄人っぽくて中明昌弘さん好みだと思うのですが、実は露出計が内蔵されているライカMPのオーナーだそうです。

その理由は、2023年の3月に誕生した息子さんと同じ製造年・製造月のライカMPと偶然にも出会ってしまったから。そうなると露出計が入っているとかいないとかの問題ではないですよね。「そのMPは息子が大人になったらプレゼントしようと思っています。使ってペイントを剥げさせるか、メチャクチャきれいな状態で保とうか、いまだに悩んでいます」とのこと。

定番のレンズといえばズミクロン

ライカMPに似合うお薦めレンズを尋ねると、定番の標準レンズであるズミクロンM f2/50mmを見立ててくれました。「これは現行品のフード内蔵モデルです。今となってはごく普通のスペックですが、ライカMPは1/1000秒までのシャッターなので開放F値はF2で十分です」とのこと。オーソドックスな組み合わせで、落ち着いた雰囲気です。

ちなみに中明昌弘さんが個人的に使っているライカMPにもズミクロン50mmをつけているそうですが、現行品ではなくフードが脱着できる3世代目のタイプだそうです。その理由は、自分の生まれ年の1988年製のレンズだから。「子供の生まれ年のライカMPに自分の生まれ年のズミクロン50mmをつけて、親子セットにして使っています(笑)」いろんな時代のカメラボディとレンズを組み合わせて楽しめるのもライカも魅力の一つですね。

まとめ

2024年の現在でも35mmフィルムを使うレンズ交換式のレンジファインダーカメラが新品で入手できるというのは素晴らしいことだと思います。2003年に登場したライカMPは20年以上のロングセラー。あえて初期型のライカMPを探しているお客さんも存在するそうで、その理由は現行のグッタペルカ風の貼り革よりも初期型のザラっとした感触の梨地っぽい貼り革が好みだからとのこと。カメラの手触りって結構大事だと思います。

ライカMPはブラックペイントのモデルに関してはゆっくり時間をかけて使い込んで真鍮の地金を出して自分のカメラに育てていく楽しみもありますし、シルバーもブラックも親から子に受け継ぐという夢を叶えてくれる気がします。それがデジタルカメラだと「お前が生まれた年の最新機種だよ」と手渡されても子供はリアクションに困ってしまいますよね。

■ご紹介のカメラとレンズ
・ライカMP ブラックペイント
・ライカ ズミクロンM f2/50mm

■ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはM7 ブラッククローム

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン

撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン

新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

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