43mmの最高峰レンズをつけたクールなコンパクトカメラ ライカQ3 43
クールでコンパクトなうえにタフ
とにかくクールである。ボディ前面に施されたチャコールグレーの貼り革、今までのQシリーズよりもさらにレンズとの一体感のある短い角形フード。コンパクトなボックスに収納されたライカQ3 43を取り出して手に取ると、すんなりと手に馴染むサイズ感。いままでのライカQシリーズが搭載していた28mmの広角レンズとは異なり、43mmの標準レンズ、しかも世界最高峰のレンズのひとつといわれているライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. というスペックだ。
ライカQ3 43を受け取った次の週末、ちょうどわたしが講師を務める写真クラブの撮影会があったので早速かばんに入れて向かった。酷暑の影響だろうか、例年であれば10月は秋晴れの日が続くのに今年は雨降りの日が多い。この日も朝から結構な雨。とはいえ、そんな日こそ ライカQ3 43 の出番である。ライカQシリーズの防塵・防滴性能の高さはライカQ2で実証済みである。幾度となく風の強い海岸で使用しても、大雨のなか傘もささずに撮影に熱中しようとも、埃だらけのチベットの街で撮影しようがチリひとつ入ったことがない。
最高峰レンズをマクロモードで
早速、庭先に咲いていた彼岸花にカメラを向ける。マクロモードへの切り替えは実に簡単。鏡筒の手前側のリングをマクロ部分に合わせるだけで、最短撮影距離を通常時の60cmから26.5cmへ瞬時に切り替えることができる。すうっと伸びる雄しべの背後は絹のようななめらかなボケ。なるほど、これがライカ アポ・ズミクロンかと改めて驚いてしまう。ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH. は普段から使用しているのでなにも今さら驚くこともないのだが、ライカQ3 43 ではその最高のレンズをマクロレンズとしても使用できてしまうのである。しかも有効画素数は6030万画素。もちろん43mmのまま使用してもいいが、せっかくの高画素機だもの、クロップ機能を利用して75mmで撮影してみるとよりマクロらしいニュアンスが楽しめるというものだ。
ひたすらやわらかくなめらか
画角はそのままにして、次は室内でインテリアを撮影。このレンズの解像度はいわずもがな、薄暗い環境下でもひとつの光も取りこぼすことなく表現することに非常に長けているのだと強く感じる。はじめて使用する日が薄暗い雨の日だったというのは 、ライカQ3 43 の性能を存分に味わうには最良だったのかもしれない。わたしはクセのあるレンズのほうが好きなのだと思い込んでいたようだが、これだけ高い次元の描写性能を見せつけられてしまうと、いやいやアポ・レンズこそ最高なのではと絶賛したくなる。
ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. はひたすらやわらかくナチュラルでトーンもなめらか、またRAWデータを確認するとコントラストもやや低めに抑えられている。そのため、今までのQシリーズに慣れていると若干戸惑うかもしれないが、6030万画素という高画素とデジタルズームを活かすには、どうしてもこのレンズである必要があったのだろうということがよくわかる。ライカ ズミルックス f1.7/28mm ASPH. に感じていたような若干の「硬さ」というのはこのカメラには不要なのだ。
絞ることすら面倒になるほどの写り
さて、雨の翌日は太陽が顔をのぞかせるもので、この日も例外なく晴天。我が家の愛猫、小花さんを愛でつつマクロモードで存分に撮影したあとは鎌倉方面へ。目の前にも海はあるけれど、たまには観光気分も味わいたいもの。長谷駅で下車して由比ヶ浜方面へ歩いていくと、海の見えるカフェがあったので吸い込まれるようにして入る。ビールで一息ついて外を見ると小さなバレリーナのオブジェが。こんなとき席を立つことなく、さらりと撮影できるのがコンパクトサイズのカメラの良いところ。すっと入り込めるような描写は晴れの日も当然気持ちよく、被写体のようにくるくると踊り出したくなるもの。
しかし絞り開放からこれほど完全な写りを見せられてしまうと、もはや絞ることすら面倒になってくる。白飛びしないぎりぎりのラインを狙いわずかに絞って穏やかな海へレンズを向ける。アンサンブルのように美しく重なった薄い雲の下、ライカQ3 43 だけを片手に持って長い浜をのんびり歩く。雨の日も晴れの日も、このカメラが一台あれば大丈夫。その絶対的な信頼が次の一枚を生む原動力となるのだろう。
■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。