新宿 北村写真機店ヴィンテージサロンコンシェルジュに聞くライカ・ブラックペイントの魅力。後編:ブラックペイントとブラッククロームとの違いとは。
はじめに
新宿 北村写真機店ヴィンテージサロンコンシェルジュに聞く「ライカ・ブラックペイントの魅力」。後編ではライカ ブラッククロームとの違いとして、ブラッククロームの歴史や比較をしております。ぜひご覧ください。
もう一つの黒”ブラッククローム”
艶やかな黒を纏った美術品のようなブラックペイントに対して、艶消しされたブラッククロームは道具として気兼ねなく使える精悍さが魅力だ。
これは新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンコンシェルジュの丸山豊氏の言葉だ。
前編ではライカM型ブラックペイントの歴史や魅力について紹介した。ブラックペイントが持つ光沢感や艶のある本体は上品な仕上がりで、見た者を魅了する素晴らしいものであることがお分かりいただけたことだろう。
しかし、ライカにはもう1種類の”ブラック”『ブラッククローム』という仕上げがある。
一口に”もう一種類のブラック”と言ったものの、ブラッククロームは現行のライカQ3や先日復刻版として発売されたM6【10557】といった人気機種にも採用されている主流のカラーバリエーションだ。
-ライカM6【10557】
1984年から2002年にかけて約175,000台を製造しベストセラーとなったフィルムカメラM6を復刻し2022年に発売したモデル。
従来のM6と比較すると本体正面の赤バッチは1984年製と同じく”Leitz”となり、亜鉛ダイカストを使用していたトップカバーの素材は真鍮となった。
しかし、主流のカラーバリエーションであるブラッククロームはブラックペイントと比べ、プレミアが付いたずば抜けて高価格なものが少ない。
後編ではブラッククローム誕生の歴史や特徴、ブラックペイントとの比較を中心に、引き続き新宿 北村写真機店6階ライカヴィンテージサロンコンシェルジュの丸山豊氏に伺った。
ブラッククロームの歴史
ブラッククロームを量産用として初めて使用されたのは1971年に発売したM5と言われている。このM5というカメラはライカで初となる露出計を搭載したモデルであり、このM5が発売されたことでブラックペイントのM4が生産終了となったそうだ。
同年、当時のアメリカ軍向けにカナダライツがM4をベースとした軍用モデルKE-7Aを製造。このKE-7Aというカメラは基本的な機能は通常のM4と同じだが、あらゆる環境での撮影を考慮してマイナス20度までの耐寒性と防塵性が求められた結果、外装にはブラッククロームが採用されたのだ。
-KE-7A
カメラ名のKE-7Aの名前はK=カメラ、E=スチール写真用、7=モデルナンバー、A=その機種の最初のモデルであることを意味している。
レンズ名のエルカン(ELCAN)はライツカナダ社(ERNST LEITZ CANADA)の略称。あらゆる撮影地での撮影を想定し小型・軽量化の設計がされている。
製造台数:500台限定(諸説あり)
1974年、カナダライツはKE-7Aと同じくブラッククローム仕上げにしたM4を販売。一部のKE-7Aは民間向けに販売されたものの、大半は軍用モデルで市場にはなかなか出回っておらず、M4ブラッククロームも出始めで流通数が少ないこともあり、当時はブラッククロームの方が珍しくブラックペイントよりも人気だったそうだ。
KE-7Aについて丸山氏は「KE-7Aはコレクターズアイテムとして有名です。エルカン付のものを探している方も多く、もし未開封状態のものがあれば、それは大変希少で価値の高い逸品です」とのこと。
-M4 50周年モデル
1925年の0型 製造から50年を記念し1975年に製造された限定モデル。通常のブラッククロームボディをベースに、正面には50周年モデルでお馴染みの月桂樹と50JAHREの刻印がされている。
製造台数:1750台限定
その後も塗装があまり剥がれずブラックペイントと比べて傷にも強いことからブラッククロームは人気となり、M5の後継モデルであるM6にも採用。以降もブラッククローム仕上げが主流となった。
ブラッククロームの魅力
丸山氏いわく「ブラックペイントはかっこいいものの、ブラッククロームと比較すると塗装が剥げやすいです。そのためできる限り塗装を剥げさせたくない方はブラッククロームをお選びになることが多いです」とのことだった。
さらに「塗装が剥がれにくいこと」に加えて、「ブラックペイントと比べて指紋が目立ちにくいこと」も魅力の一つだという。
確かに撮影中はシャッタースピードの変更をはじめ、カメラには触ってしまう。どうしても指紋がついてしまうが、できる限り指紋が残ってほしくないと考える方はブラッククロームの方が良いだろう。
また「ブラッククロームは艶感が控えめなので、マットな質感が好きな方にはブラッククロームの方が人気です」とのことだ。いずれも飾って楽しむ方よりも実際に撮影に持ち出される方との会話で話題に上がるそうだ。
ブラッククロームとブラックペイントの比較
-MP 6
2003年、M6をベースに巻き上げレバーリワインドクランクをM3と同様にし、トップカバーのロゴやレザーも当時風に変更した限定モデル。このモデルをベースに現行のMP 0.72が登場した。
製造台数:400台限定
それではブラッククロームとブラックペイントを比べてみよう。上の画像は左側がブラックペイント仕上げのライカ MP 6、右側がブラッククローム仕上げのライカM-Aだ。
同じ”ブラック”と言っても並べてみると違いは一目瞭然。ブラックペイントは艶のある光沢感があるが、ブラッククロームはマットな質感であることが分かる。
先ほどの画像に加えてヴィンテージのブラックペイントも一緒に並べてみた。左はライカ M4ブラックペイント。中央はライカ M-Aブラッククローム、右はライカ MP 6ブラックペイントだ。
先ほどの画像と同様にMP 6のブラックペイントは光沢感があり、ブラッククロームはマットな仕上げである。M4はヴィンテージなブラックペイントだが、こちらも光沢に深みのある上品な仕上がりであることが分かる。
ヴィンテージブラッククロームの味
ブラッククロームはブラックペイントと同じく真鍮を使っているが、使い込んだときの印象は全く異なるのが面白いところ。ブラックペイントは塗装が剥げると真鍮の地金が見えるが、ブラッククロームは真鍮の地金とは逆に銀色に近いメッキの色が出てくるのが味だ。
もちろんメッキの銀色も黒との相性が良く、渋さがあるのでかっこいい。かなり使い込まれたものは全体的に薄いグレー、少しメタリックのような印象になるため、ブラックペイントと同様に自身の好きな色味の一台を探すのも楽しいだろう。
ブラッククロームはなぜブラックペイントのようにプレミアが付いていない?
ブラッククロームの魅力や特徴は紹介した通りだが、気になるのは「なぜブラックペイントのようなプレミア価格が少ないのか?」というところだ。
丸山氏は「ブラッククロームがペイントよりも劣っているということではありません。どちらかというと昨今のブラックペイントブームでブラックペイントの価格が上昇しており、相対的に安く見えるように感じます」とのことだ。
さらに加えて「ブラックペイントで特にプレミアが付いているM3やM2にブラッククロームがないことや、M6やM10などのブラッククロームなどは流通数が多いことも理由かもしれません」と言う。
なるほど。「ブラッククロームが安い」のではなく、「M3やM2、M4を筆頭にブラックペイントの希少性の高さから、ブラックペイントの価格が一気に高騰した」が正しいのか。
現にブラッククロームのカメラも調べてみると、M4のブラッククロームはシルバークロームと比較して約2倍の相場となっていることが分かった。
さらにKE-7A(特にエルカン50mmF2のレンズがセットになったもの)や、Q2の特別限定モデル「Leica Q2 Daniel Craig x Greg Williams」は非常に希少性が高いためプレミアが付いており、高値で取引されているそうだ。
-Leica Q2 Daniel Craig x Greg Williams
俳優 ダニエル・クレイグ氏と写真家 グレッグ・ウィリアムズ氏がQ2とコラボレーションした特別限定モデル。性能は通常のQ2と同様だがブラック×ゴールドのカラーリングが施されている。
製造台数:限定750台
終わりに
ブラックペイントと比べ「より気軽に使えて実用性が増した」ともいえるブラッククロームはもちろん素晴らしい仕上げである。
しかし、気品あふれる艶のある外装はもとより、長い歴史を持っているからこそある希少性の高さや「どのような場所で育ってきたのだろう?」と思うロマンのようなものは人々を惹きつけ、ブラックペイントが世界的に人気になったと言えるだろう。
前編でもお伝えした通り、ブラックペイントの良個体は徐々に市場から減少傾向である。そのため少しでも気になった方は「どの機種で、ペイントがどのような状態、その他のこだわり(シリアルナンバーなど)」を予め調べておくと良いだろう。
今回取材に協力してくれた新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、M3やM2、M4のブラックペイントを中心に様々なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができ、丸山氏をはじめライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれる。
どのような機種が良いか分からない方も相談すると親身に教えてくれるのでぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。