ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。Vol.9|ライカM11+ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.

山本まりこ

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はじめに

「豪徳寺って招き猫の町なんだよ。」

旅の行先は、いつも突然決まる。
二拠点居住をしている神奈川県の海まち二宮の友人夫婦宅で、ピザとワインをいただいていたときに友人がふとつぶやく。猫好きとしてはとても気になるフレーズに、ワインを持つ手が止まる。とても仲良しな友人夫婦は、そんな豪徳寺の町を初めてのデートで訪れたのだそう。
ますます気になる。

豪徳寺は、東京都世田谷区にあるお寺。
そして、豪徳寺という地名はそのあたりに広がり、その土地にある小田急線の駅名も豪徳寺。
昔、下北沢の近くに住んでいたことがある。
とても近いのに全く知らなかった、豪徳寺が招き猫の町だったなんて。

もうすぐライカM11が我が家に届く。
ライカM11との旅は、招き猫の町に行こう。

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ライカM11+ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.ブラック

ライカM11が発売になったのは、本年2022年1月。つい先日のこと。
ライカM10と比べて大きな変化としては、2400万画素から6030万画素へと大きく画素数が増えたこと。そして、従来のM型カメラの定番であったベースプレートが無くなったこと。ベースプレートを取り外して行っていたバッテリー交換やSDカードの抜き差しも大分簡単&スピーディーに出来るようになった。さらに、バッテリー容量は、従来よりも容量が64%アップし、同時にカメラ全体の消費電力も抑えているため、より長時間の撮影が可能に。また、SDカードスロットに加えて、大容量64GBの内蔵メモリーも搭載し、M型カメラとしては初めてSDカードと内蔵メモリーの記録媒体へ同時に画像データを記録することが可能になった。
簡単にまとめると、軽量化・使い易さアップ・さらに高画素・内臓メモリー搭載・バッテリー持ちも良くなった、ライカ新型フラッグシップのデジタルレンジファインダーカメラだ。
前のスタイルが好きだった、そういう感情も人によっては多々あるだろう。でも筆者にとっては、フットワーク軽く撮影できる良点ばかり。ライカM11との旅がますます楽しみに思えてくる。

ライカM11の旅のお供に選んだレンズは、ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.ブラック。
ライカ大口径レンズ、ズミルックス。

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ライカのレンズは、F値によって付けられる名前が異なることはvol.1に記載した。
気になる方は、ぜひ読んで欲しい。

ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。vol.1|LEICA M10+SUMMARIT M f2.4/50mm
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ライカM11にズミルックスM f1.4/50mm ASPH.をカチッと装着。
さあ、旅に出よう。
招き猫の町へ。

そうそう。
この連載「ライカとカレー。今日はどの駅で降りようか。」は、毎回山本まりこが異なるライカのカメラとレンズを持って電車に乗り、気になる駅で降りて旅をし、カレーを食べて帰ってくる、という内容の企画。この連載も今回で9回目。あっという間の9回目。いろいろなライカと、いろいろな駅に降り、旅をしてきたなあ。

お庭で、道で

まずは、試しにお庭の植物を撮影してみる。
昨夜は、空がうなるような豪雨だった。
雨上がりの空はちょっと湿気ていて春の暖かさでぬるっとしていて、そんな空気感が撮りたくてシャッターを切る。

カチッコッ

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春になって一斉に花を開かせ始めた雪柳のお花や名も知らぬ植物たち。

シャープさとそして柔らかさが混在している。
湿度が写真の中に纏わりついているようなその描写に、思わずぐっと息をのむ。
ライカM11とズミルックスM f1.4/50mm ASPH.の組み合わせ、気持ちいい。

駅に向かいながら、シャッターを切る。

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雨上がりの春の湿度感。
ずしり。

ライカのカメラと旅に出て何度も感じること。
撮っているときよりパソコンで写真を確認した時にさらに、写った写真がきれいだなとしみじみ眺めてしまう。物質の重量感というか、そこにある物の存在感がとても強く感じられる写真が撮れている。以前も似たことを書いたことがあるけれど、毎回それを強く思う。

東海道線、そして小田急線で

JR二宮駅から東海道線に乗り、ボックス席に座って外を見る。
この辺りの車窓には緑が多く見えて気持ちいい。
いつも緑を眺めながらぼーっとする。

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大磯駅から平塚駅に向かうあたりから緑が徐々に減ってきて、家々やビルが増え、都会の景色になる。
携帯にダウンロードしたアプリLeica FOTOSで撮影した写真をダウンロードしたりしていると、あっという間に藤沢駅に到着。
小田急線に乗り換えよう。

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ざわざわざわざわ

右にも左にも人がいっぱい。休日の駅に人が溢れている。特急電車が到着して、大きなスーツケースを持った人や旅行に行く人たちの楽しそうな声が聞こえる。
この2年間、少し前まで閑散としていた駅も、今は人でいっぱい。そろそろ日本が、世界が回り始めてきた。そんな勢いを感じるくらい、人の声がする。もうそろそろ大きな声でみんなで笑いたい。美味しいものを食べて、笑って、旅をして、写真を撮って。そんな世界ももうすぐ来るのかなと、楽しそうな声を聴きながらMENUボタンを押して、ドライブモードやホワイトバランスなどをタッチパネルで操作する。JPEG設定のフィルムモードをヴィヴィッドやナチュラル、モノクロなどから選び、フィルムモード設定でコントラストやシャープネス、彩度などを決めて写真の風合いを決めていく。ファインダーを覗きながらピントを合わせて、しっかりとシャッターボタンを押す。
適度にアナログ、適度にオート。
ピントをしっかりと自分の手で合わせているというアナログな部分でライカのカメラでしっかりと写真を撮っているという満足感に溢れ、その一方で、現代のデジタルカメラに出来る様々な設定をポンポンとタッチで決定していく自由度がある。そのアナログとオートの混在感も、心地いい。

豪徳寺にて

小田急線豪徳寺駅。
いた。
招き猫が、本当にいた。

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大きな鈴をつけた大きな瞳の猫。
なかなかのかわいいお顔をしていらっしゃる。
ちょうど学生らしい男子が二人、招き猫の前で立ち話をしていた。
私がカメラを持って近づくと、すっとどいてくれた。この町の人たちの待ち合わせのシンボルなのかな。

豪徳寺の町を歩いてみよう。

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ある路地に入ったところでハッとする。
そこには、満開の桜が立っていて、小さな路地の天井いっぱいに薄いピンクの色を広げていた。

そうか、今、桜が満開なのね。
一度気づくと、桜が目に入るようになった。ふとした家の隅の桜が満開だったり、公園のような広場の大きな桜が満開だったり。全然気づかなかった。私が住む近所の桜は、まだ蕾が多いので、桜の時期はまだ先だと勝手に思い込んでいた。近所の人たちなのかな、犬を連れたご夫婦や、お散歩中のご婦人たちが、熱心に携帯電話で写真を撮っていた。

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この辺りは桜が咲くのが早いのかな。
そんなことを思いながら、歩みを進める。
デジタルズームで、1.3倍、1.8倍などを試してみる。

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デジタルズームなし
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1.3倍
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1.8倍

ボディ内でズームが出来るのはありがたいなと思いながらシャッターを切る。
1つのレンズで、3つの画角の写真を撮ることが出来るのだから。

町のいろいろな場所をてくてくと歩いた。
春が溢れていた。
招き猫もたくさんいた。

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途中、フィルムモードをモノクロに設定して撮影した。

春を、桜を、白黒で撮ると、写真を見る気持ちが自分の中で変わるなと思ったことに気づく。
ピンク色の春色で溢れた桜は美しい。けれども、散ることが分かっている分切ない気持ちにもなる。この美しさは今撮らなければすぐになくなってしまう、そんな気持ちに心がぎゅうとなる瞬間もある。それに比べて白黒で撮影した桜は、何故かそこに定常というか、永遠のようなものを感じた。もちろん桜だから散るのだけれど、でも、ずっとそこにあるのではないかというようなそんな気持ちにもなった。カラーはノンフィクション、白黒は小説のような、そんな気持ちになりながら、自分で撮影した写真を眺めた。表現が変わるだけで、自分の心も変わる。

写真は、面白い。
やっぱり、面白い。

「まりこ先生」
そんなことを思いながら撮影していると、一人の女性から声をかけられた。完全にプライベートモードに突入して撮影していたので、ハッとしながら彼女を見る。以前何度かフォトセミナーに参加したことがあるという彼女は、大きなカメラを抱えていた。「ここは桜が早いね。」と言うと、「東京は桜が満開みたいですよ。いろいろなツイートでみんながつぶやいています。」と。そうだったのね。東京は、今が満開なのね。SNSを見てみると、桜の写真が溢れていてみんなが春を報告していた。東京は、今、桜が満開。春爛漫。3月の終わり。

ビリヤニの時間

最近、ビリヤニがとても気になっている。
ビリヤニというのは、インドの炊き込みご飯のようなもので、スパイスで味付けした肉や魚や野菜をごはんと一緒に炊き込んだものを言う。肉や魚や野菜のスパイスカレーを作り、そのグレイビー(ソース)と具を半炊きしたご飯と一緒に炊き上げる。フワッフワなインドのバスマティライスに肉や魚などの匂いがたっぷり絡まっていて、それは何とも言えない美味しさの食べ物だ。自分のスパイス料理教室でも、最近ビリヤニを作ったばかりで、その美味しさの魅力に夢中だ。

豪徳寺のお隣の経堂駅の近くに、インド料理店スリマンガラムがある。
南インドのチェティナードという地域のインド料理を出すお店だ。チェティナードという地域は、タミル・ナードゥ州南部シヴァガンガ県カーライクディ周辺にあり、昔から貿易が盛んで世界各国からの豊かな食材やスパイスが流通し育まれてきた食文化はインドでも髄一と呼ばれるグルメで名高い場所だ。スパイス料理を学んでいたときもその土地名は何度も聞いていて、行きたくて仕方がない場所。妄想想像が膨らむばかり。特に海外に行けないここ近年、チェティナードの旅をよく妄想している。スリマンガラムは、以前訪れたことがあり、とても美味しかったので、今回も行ってみることに。

駅前の商店街を歩くこと2分ほど、お店が見えてくる。
人で溢れる明るい店内を覗くと、カウンターの端の席に案内され、着席。
日曜日は、一週間に一回のビリヤニの日。
迷わずビリヤニを注文。

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頼んで1分ほど、ビリヤニが到着。
フワッフワに空きあげられたお米が踊り出しそうなくらい大盛りによそわれている。なんて美味しそう。
ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.の最短撮影距離は70cm。サッと立ち上がって、ビリヤニにピントを当てて開放F1.4で2~3枚パチリと撮る。いつもこの「ライカとカレー」の撮影は、一般客としてカレーを食べに行く。食べた後に、掲載をお願いすることが多いので、撮影枚数はいつも2~3枚であることが多い。

さあ、食べよう。
今日のビリヤニはマトン。フワッフワなバスマティライスをかき分けると、マトンの肉がぎゅうとたくさん埋まっている。スパイスたちが柔しく柔らかく香るフワッフワなお米たちをいただく。ものすごく軽やか。日本のお米とは違いとても軽やかな印象のバスマティライス。炊かれているけれど、風が吹いたら飛んでいってしまいそうなくらい、軽快な口当たり。ビリヤニは、インド料理の中でも群を抜いてエアリーだなあ、そんなことを思い笑いながら食べる。そして、インドの旅を、チェティナードの旅を想像しながら食べる。たまに、添えられたグレイビーや、パッチャリと一緒に混ぜながらいただく。食後にチャイもオーダーして、至福のビリヤニ時間を堪能。調理をしていたシェフたちに声をかけるといいよと写真を撮らせてくれた。ありがとうございます。

旅の出会い

満足感に浸りながらお店を後にし、お店の外観の写真を撮っていると、男性に声を掛けられる。近所のお店の方だそう。
「ねえ、なんでみんなあのお店の写真を撮るの?土日になるとすごい人なんだよ。そしてみんな写真を撮っていくんだ。」と男性。東京の街で人に声をかけられることがあまりないので、びっくりしながら「そうなんですか。ここのお店、とっても美味しいですからね。チェティナードという抜群に美味しいと言われる地域のインド料理が食べられるんです。だからたくさんの人が来るのだと思います。」と伝えると、「へえ、そう。初めて知ったよ。」と目を丸くして男性は驚く。そして、「この近くに、面白いところがあるんだよ。教えてあげるよ。ついてきて。」と男性。「え、どこに?え、お店はいいんですか?」と驚きながら聞くと、ちょっとなら大丈夫だからとずんずん歩いていく。お、おう…、これはインドの旅みたいだなあ。声をかけられてついておいでと言われて。一瞬迷ったけれど、面白いので男性に着いていくことにした。「ここの商店街は昭和8年から続いていてね。」と男性は言いながら商店街を歩き、あるビルの中にぐんぐんと入っていく。ビルの中の暗がりの廊下を進み、どこに行くんだろうとドキドキしながらついていくと、「ここ」と、案内される。そこには小さなお店があり、お店のドアを開けてお店の主人に「案内してきた」と告げると男性は「じゃあね。」とあっという間に去っていった。

そこは、鮮やかなイエローの壁のお店で、所狭しとスパイスが並んでいた。
スリマンジャルSri Manjalという、スパイス専門店だった。

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その突然の出来事に圧倒されながらも、スパイスに囲まれた空間にテンションが急上昇。棚に所狭しと並べられたスパイスや食材や、棚から吊り下げられたお菓子たちは、まるでインドの町中のお店みたいだ。店主の方ともお話が弾む。店主の山木さんは、もともと和食のお仕事をされていて、今は、南インド料理に夢中なのだそう。教えていただいたInstagramにも、スパイス料理がずらりと並んでいた。カードチリ、カシミールチリ、アジョワンなどなど、いろいろなスパイスを買い込み、BARBICANという中東のパイナップル風味のドリンクを飲みながらスパイスのお話をする。日本の美味しいインド料理店の情報をいろいろ教えていただいたり、インドの結婚式に参加されたお話をお聞きしたり。

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ああ、なんて楽しいんだろう。
カメラの旅、カレーの旅、ライカの旅。
旅よ、出会いよ、ありがとう。

スパイスたちをリュックに入れて、街を歩く。
この街では、ムクドリをよく見かけた。
口ばしがオレンジ色で、キャキャアと高い声で鳴く鳥。

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夜の花

さあ、家に帰ろう。
小田急線の急行で眠り込んでいつの間にか藤沢に到着。東海道線へ。
地元の駅に着くと、いつの間にか空は真っ暗になっていた。
近所の梅が鮮やかなピンク色を輝かせていた。感度をISO3200まで上げて夜の梅の花を撮影。

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暗闇の中でライカM11のシャッター音が響いた。
小雨に降られながら聞くその音は、心地よかった。
春だけれど夜はちょっと冷えるな、そう思いながらリュックに入れてあるダウンジャケットを少し思ったけれど、そのまま家に向かった。

おわりに

新しく発売されたライカM11との旅。
思いがけず春がいっぱいの旅になり、たくさんの招き猫に会った。
そして、東京の街の中で、インドの旅を思うような時間もあった。

より軽くなったM型カメラの最新機種ライカM11。今まで、ライカM10、ライカM10モノクロームと旅をしたけれど、一番心軽やかに撮影出来た気がする。それは、軽さからなのか、私が少しライカというカメラに慣れてきたからなのか分からないけれど、とても楽しい旅になった。ライカというカメラに興味がある方の初めてのカメラとしては、値段のハードルがかなり高い。でも、一生のカメラと思って買うとすれば、重量感あるその写りが心にもズシリと響く日々になるのだろう。

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招き猫の町だと教えてくれた友人夫婦に、旅の途中、小さな招き猫の置物をお土産に買った。
小さな小さな招き猫。
次に会うときに渡そう。
喜んでくれるだろうか。

そういえば、招き猫の町ではいろいろな出会いがあった。これも招き猫さんが招いてくれたおかげなのかしらと小さな招き猫を眺める。

さあ。
次はどの駅で降りようか。
どんなカレーを食べようか。

■撮影協力
□スリマンガラム/Sri Mangalam
東京都世田谷区経堂2-3-9 1F
https://www.instagram.com/accounts/login/?next=/srimangalamkyodo/

□スリマンジャル/Sri Manjal
東京都世田谷区宮坂3-12-4 ドム経堂203
https://mobile.twitter.com/srimanjal

■写真家:山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。

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