ライカM11 グロッシーブラック | 完成された美のかたちを堪能する

カメラに美しさは必要か?
カメラに美しさは必要か、と問われれば「もちろんそうだ」と答えるだろう。ライカMシステムは美しい。それはこのカメラが70年以上にわたりその姿をほとんど変えずに受け継がれてきたことからも証明されている。まさに機能美と言うべき完成されたカメラの美のかたちである。
いつかは欲しいと思っていたライカMシステムのブラック・ペイント。ところがライカM型フィルムカメラをはじめ、中古のM型デジタルカメラもブラック・ペイントの個体は高騰をたどる一方。これはもう新品を手に入れる以外にはないのではないか、と思っていたところに登場したのが「ライカM11 グロッシーブラック」である。
2024年11月21日の日本時間の深夜に発表されたライカM11 グロッシーブラック。翌朝、早速ライカストアに予約を入れるも、少々出遅れたのが響いたのか手元にやってきたのは年も明けた1月末。少し遅れたお年玉と思えばいいではないか。いや年末に来たのであればクリスマスプレゼントだと言い張っていたのであろう。某A氏もあるイベントで言っていたが、我々は「常にカメラを買う理由を探さなければならない」のである。
手に取れば説得させられてしまう魅力
ともあれ無事入手したライカM11 グロッシーブラック。ライカカメラジャパンからのメールには “When was the last time you fell in love?” とある。なるほど、さすがライカと言いたくなるコピーだ。ライカファンであれば、この艶やかなボディに一目で心奪われるに違いない。なぜ中身はライカM11なのにライカM11-Pより高価なのだ、などと言ってはならない。手に取れば説得させられてしまうのがブラック・ペイント、いや、ライカM11 グロッシーブラックの魅力なのだろう。
同時に発表された、レンズフードやフロントキャップ、さらにリアキャップにまでブラックペイントを施した「ライカ ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.」にも当然惹かれたが、価格もさることながら(限定とは一言も謳っていないものの)おそらく相当限られた数量のみの生産数であるから、こちらについては考えないことにした。
ライカM11 グロッシーブラックを手に歩いたのは心斎橋からなんばにかけての、いわゆるミナミと言われているエリア。レンズは LIGHT LENS LAB M 35mm f/2のブラックペイント。「考えないことにした」と言ってはみたものの、ライカM11 グロッシーブラックにはやはりブラックペイントモデルのレンズを合わせたい。ちなみに軍艦部には採光窓を模したステッカーを別途購入して貼り付けてある。ペイントへの影響が気になるので、こちらは近々取り外す予定。


常に首からぶら下げたままにしたくなる品の良さ

■撮影環境:絞りF4 1/160秒 ISO100 WB:オート

■撮影環境:絞りF2.8 1/1000秒 ISO64 WB:オート
地下街から出たところで早速一枚。普段使用しているライカM11-Pよりもややあっさりめの写りに感じるのはレンズのせいだろうか。クリアで気持ちのよい写りである。久しぶりの大阪だが、夫の転勤に付き合って一年ほど暮らしたこともある街ということもあって楽しくも懐かしい気持ちになる。普段都内をスナップするのは50mmのレンズを使用することが多いが、大阪は人との距離が近いためか、35mmの距離感が心地よく感じる。

■撮影環境:絞りF4.8 1/160秒 ISO80 WB:オート
心斎橋のランドマークともいえる老舗デパート。銀座にも言えることだが、大きなショーウィンドウが立ち並ぶ街並みは、自然と心浮き立つものだ。わたしの気持ちを代弁するようにはしゃいだ様子の子供が駆け抜けていった。普段店内に入る際にはカメラは仕舞うものだが、ライカM11 グロッシーブラックに関しては首からぶら下げたままにしたくなるというもの。ぬるっと艶やかなグロッシーブラックは悪目立ちせず、品よく胸元に収まるのだ。
ファインダーの美しさも格別

■撮影環境:絞りF2 1/160秒 ISO80 WB:オート
別のショーウィンドウのマネキンに近づいて絞り解放で撮影。ファインダーはライカM11-Pと同様、非常に見やすくピントも合わせやすい。普段は撮りたい被写体を見つけたら手元でピントを合わせ、瞬間、ファインダーを覗いて微調整するだけだが、たまにじっくりファインダーを覗いてみると、改めてその美しさに気づいたりする。

■撮影環境:絞りF5.6 1/250秒 ISO64 WB:オート
心斎橋からアメリカ村へ向かう。明るく賑やかでスナップもしやすいため、以前大阪に暮らしていた際も度々出かけていたエリアだ。2月の寒い時期ではあったが皆思い思いのファッションを楽しんでいる様子をただ眺めるのも楽しいもの。どこか店を探しているのだろうか。立ち止まってスマホでなにかを検索するカップルが目についた。レンズはライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH. に付け替えたのでLIGHT LENS LAB M 35mm f/2 よりも柔らかな描写。ははあ、LIGHT LENS LAB M 35mm f/2のすっきりとコントラストの高い写りもいいけれど、この光がふわりと回り込むような写りは格別である。
もっと写真を撮りたくなる高揚感

■撮影環境:絞りF4.8 1/200秒 ISO100 WB:オート
古着屋の前でなにやら話し込む男性を電線のカバー越しに撮影。普段スナップはモノクロで撮影することのほうが多いが、カラフルな街は断然カラーで撮りたくなるものだ。ちょうど冬の光が傾きかけてきた頃。鮮やかなものはより鮮やかに、街を構成するさまざまな構造物がオブジェのように影を落とし、撮影がより楽しくなる時間帯だ。あくまで街歩きを楽しみつつ、気づいたものをライカM11 グロッシーブラックで拾い上げてゆく。中身は通常のライカM11と同じなのに、この高揚感というのはやはりこのスタイルの美しさからくるものなのだろう。気分が高揚すれば、もっと写真を撮りたくなる。いまさらながら、カメラの価値は性能だけではない。

■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。