はじめに
中国深センの光学メーカー銘匠光学(めいしょうこうがく)のブランド「TTArtisan(ティーティーアーティザン)」。個性的な写りと手に入れやすい価格の単焦点レンズが取り揃えられています。MFレンズの入門としても最適で、写りの良さにも定評があります。今回は富士フイルム X-E4と、APS-C対応の単焦点レンズTTArtisan 35mm f/1.4 Cで撮影を楽しんできました。
TTArtisan 35mm f/1.4 Cの特徴とボディ側の設定
TTArtisan 35mm f/1.4 Cは、コンパクトな外観でありながら大口径F1.4を実現した、APS-Cセンサー対応、35mm判換算で54mm相当の標準単焦点レンズです。
レンズ構成図が描かれた鏡筒は金属製で、重厚感もあり品のいい仕上がり。マウント部も金属製で、安さゆえの妥協はほとんど感じられません。表面がフラットな薄型のスクリュータイプのレンズキャップが付属。フィルター径は39mmです。
絞りリングには適度なクリック感があり、ピントリングの滑らかさも快適。ピントの山も掴みやすい傾向を感じました。被写界深度目盛は割とざっくりとしていますが、絞り値をF4以上に固定しておけば、とっさのスナップ撮影も軽快です。
さらにボディ側の設定は(富士フイルムXシリーズの場合)
1.フォーカスモードは「MF」に設定
2.「MFアシスト」「フォーカスピーキング」を表示
3.「操作ボタン・ダイヤル設定」-「レンズなしレリーズ」を「ON」
にして撮影をしています。
開放F1.4の柔らかく自然で美しいボケ
開放F値の明るい単焦点レンズとあり、まずはボケの表情を確認。開放F1.4で最短撮影距離0.28mの近接撮影時はかなり深度面が浅く、ピントの山がシビア。時間をかけてゆっくりと向き合いながら撮影できる被写体に向いています。
ボケの雰囲気は、オールドレンズのよう。柔らかいボケと、周辺のぐるぐるボケ、輪郭がソフトフォーカスをかけたように滲むのが特徴的です。逆光時にはフレアが差し込むこともあり、画面のアクセントや表現としてうまく取り入れるのがコツ。
TTArtisan 35mm f/1.4 C 1本で旅に出かける
旅に出るときには「どんなレンズを持っていこうか?」と、あれこれ悩むものですが、思い切ってTTArtisan 35mm f/1.4 Cだけで撮影に出かけることにしました。
富士フイルムX-Eシリーズのコンパクトボディにふさわしいサイズで、最短撮影距離も短く被写体にかなり近くまで寄れるため、テーブルフォトにもぴったりです。また、35mm判換算で54mm相当の標準レンズなので、1本のレンズで〝寄りと引き〟の撮影基本が身に付きます。むしろ旅にはこれ1本。思い切って出かけてみるのがおススメです。
前述のように、開放F1.4では合焦面が非常に浅くシビアなため、初めてMFレンズを使う方や慣れていない方は、1段絞ってF2から使うとピントの合焦も分かりやすく、撮影しやすくなります。むしろスナップ撮影では、F4以上で被写界深度目盛を目安に気軽に撮り歩くのが吉。撮影していてピントが合いにくいという感覚はなかったほどです。
夕暮れから夜の時間帯も撮影しやすい単焦点MFレンズ
外装お色直しの終わった神戸港のランドマーク、神戸ポートタワーの背に夕日が沈むタイミングに合わせてメリケンパークを訪れました。開放F値が小さく明るいレンズは、一度にたくさんの光をカメラに取り入れることができ、明暗の変化が大きい時間帯や、暗い場所でもISO感度を上げずに速いシャッター速度を得ることができます。ボディ内に手ブレ補正機構のないX-E4でも安定した撮影ができました。
夜に訪れた南京町はランタンに彩られ、昼間とは違う表情を見せます。中華街特有の赤色が多い賑やかな光景に一役買っていました。
トーンのつながりもよく階調も豊か
翌日は新神戸駅に近い、異人館の立ち並ぶ北野エリアを散策。天気はあいにく、どんよりとした空模様でしたが、フラットな光によって、普段見かける観光写真とは異なるしっとりとした静けさとムードがあり、それはそれで印象的。雨の降りだす前の空や、室内の明るさも柔らかく優しく、コントラストの低さとともにトーンのつながりの良さを感じます。
グルメ旅ならテーブルフォトでも大活躍
神戸は食文化も豊かで、旅の途中に立ち寄る食事処やカフェも楽しみの一つ。店内で着席したまま撮影するときには、最短撮影距離0.28mが大いに活躍してくれます。開放F値の明るい単焦点レンズは、どんな照明の店内であっても適切な明るさで撮影できることもあり、食べる前に撮影に夢中になってしまうほど。素材感をしっかりと写しながら、淡くソフトにボケる輪郭は、食べ物のイメージを引き立ててくれます。
おわりに
一万円ほどのレンズとは思えない満足度の高い写りで、Xシリーズのフィルムシミュレーションとの相性の良さも感じました。全体的に操作がしやすく、日常使いも旅も楽しめて、写りの表情も豊か。
コストパフォーマンスだけではなく、MFレンズを使ったことがない方には初めての1本として最適な選択肢となるレンズです。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。