静止画にも動画にも最適!|銘匠光学 TTArtisan Tilt 50mm f/1.4 ティルトレンズ
はじめに
高性能なミラーレス用交換レンズを開発し、個性的な写りで人気を集めている中国深センの光学メーカーブランド「TTArtisan(ティーティーアーティザン)」。今回はLUMIX S5IIとともに、非日常的な撮影体験ができるTTArtisan Tilt 50mm f/1.4 ティルトレンズ(Lマウント)を使い様々なシーンを撮影し、その魅力を探ってみました。
TTArtisan Tilt 50mm f/1.4 ティルトレンズの特徴
TTArtisan Tilt 50mm f/1.4ティルトレンズは、光軸のチルト(±8°)とレンズ自体に15度ずつ回転する機構を採用した、大口径の標準マニュアルレンズです。鏡筒部の二カ所にあるネジのロックを緩めてレンズ先端を傾けることで、光軸を意図的にずらし、ピントが合う範囲を自由に操ることができます。レンズが斜めに傾いたり、回転したりと、見た目にも不思議な機構を利用することで、幻想的な表現を楽しめるというものです。
レンズを手にすると、ひんやりとする金属製で、重量は安定感のある約450g。フィルター径は62mmとあり、一般的なレンズフィルターも使用可能です。
電子接点を持たないフルマニュアルレンズですが、比較的リーズナブルな価格でティルト撮影が体験でき、開放F1.4のボケも存分に楽しめます。絞りリングとピントリングは、動画撮影の繊細なピント合わせや、ズームの動きをコントロールする為に使うフォローフォーカスギアに対応しており、動画撮影用途にも向いています。
撮影時、カメラ側の設定ではマウントアダプターなどを使用する時と同様に「画質」-〔FOCUS〕から「フォーカス/ピーキング」を「ON」にし、「設定」-〔AF〕メニューで「フォーカス/レリーズ優先」に設定して撮影しています(LUMIX S5IIの場合)。
ティルトレンズとは
ティルト(tilt)とは、「傾ける」という意味があり、通常は光軸と平行なものを、わざと傾けてずらすことによってレンズの光軸に上下の角度をつけて使用します。被写体に対してピントの位置とぼかしたい方向を決めることで、効果的に見せたいものをコントロールできるのがティルトレンズです。
絞り開放でも近景から遠景までピントを合わせることができるほか、一ヵ所だけピントを合わせ、その他の部分はぼかした写真に仕上げることができるというものです。
▼レンズ回転0°での使用例
ティルト角度(レンズ先端)が左右に動くためタテにピント位置があります。
▼レンズ回転90°での使用例
ティルトの角度が上下に動くため横にピント位置があります。
ミニチュア風の世界を楽しむ
ティルトと回転角度を組み合わせ、レンズを上下左右に動かしながら遠近感を調節することで、奥行きのある被写体や、高所から狙う風景に対し、幅広くピントを合わせたり、逆にピント面を極端に狭くし、その他の部分はぼかすことでミニチュア風(ジオラマ風)の撮影ができます。
▼絞りによる描写の変化
カメラ本体に内蔵されているデジタルフィルター(エフェクト・加工)などでもよく見かける表現方法ですが、実際にレンズで光軸を傾けることにより遠近感が強調され、ミニチュアのようなシーンを再現することが可能になります。開放F1.4での撮影時はその効果が顕著です。
夜景撮影の場合、光源を周辺に位置させることでグルグルとしたボケが生まれ、周辺減光によってトイカメラのような雰囲気を生み出し、ミニチュアの効果が高まります。
正位置で撮影すれば、開放F1.4の明るさの標準レンズ
ティルトとレンズの角度を変えずに正位置で使用すれば、開放F1.4の明るさの標準レンズです。普段使いできる明るい単焦点レンズということになります。マニュアルフォーカスのため、いわゆる「置きピン」を活用し、一定の距離で被写体を捉えればスナップ撮影も可能に。
撮影していて開放F1.4ではあまりにも被写界深度が浅すぎると感じたら、絞りをF2以上に調整すると雰囲気のよいボケを残しながら深度が深くなり、ピントも合わせやすくなります。ティルトの角度によっては、ピント面がハッキリと見えにくい場合もあり、被写界深度目盛よりもファインダーやモニターでフォーカスピーキング表示を確認しながら使うのがおすすめです。
花やテーブルフォト撮影でも活躍するティルトレンズ
最短撮影距離は50cmと、昨今のレンズと比較すると少々遠めの近距離撮影になりますが、普段目にする被写体には撮影しやすい距離です。普通のレンズのように前後をぼかすだけではなく、ティルト角度によって視線を誘導することができます。
本来、料理メニューなどの撮影は、手前から奥までぼかさずにハッキリと写すためにティルト機構を使いますが、あえて一部分だけを強調する使い方も雰囲気があり、好ましい仕上がりです。
花などを撮影しても、一部分をクローズアップした見せ方ができ、開放F1.4のボケは柔らかい輪郭の玉ボケと、滑らかで淡く優しいトーンを生み出します。日差しが乱反射して入り込むフレアも本レンズの魅力です。
フォーカシングで変化する美しく多様なボケ
美しい円形ボケ、輪郭ボケ、流れるボケ、にじむようなボケと多様なボケが一度に堪能できるTTArtisan Tilt 50mm f/1.4 ティルトレンズ。ファインダーをのぞき、好みのボケが出る位置にピントをコントロールしていると、様々な形に変化していくボケの美しさに息をのみます。
また、マニュアル操作と重めのトルクが動画撮影にもふさわしいと感じ、手持ちで動画撮影にもトライ。じんわりとフォーカシングしていくと、街中ですれ違う人々が柔らかいトーンの中に消えていくかのような、ムードと余韻を感じることができました。フォローフォーカスギアを使い、本格的に動画を撮影される方にも使い勝手がよさそうです。
おわりに
レンズの使い方のコツをつかむまでに少し時間がかかることは否めませんが、何度も繰り返して使うことで、自分の撮影したいシーンに合わせた使い方が発見できるおもしろさがあります。F1.4による明るさも、多様なボケも、柔らかいトーンも、他にはない表現力を持ち合わせている魅力的なレンズです。
普段動画撮影を頻繁に行わない私ですが、LUMIX S5IIの強力な手ぶれ補正もあり、直感的に「このレンズなら普段から動画撮影ができるかも」と感じました。MFレンズならではの楽しさが凝縮している1本です。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。