【オールドレンズレビュー】ニコン NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2|憧れのF1.2大口径レンズ
はじめに
今回のオールドレンズは魅惑の大口径レンズ、開放F値1.2の「ニコン NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」をピックアップしてみました。この「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」は、1965年発売されたFマウントニッコール初のf1.2という開放F値を持つ「NIKKOR-S Auto 55/1.2」のコーティングを多層膜化したバージョンで1972年に発売されたものです。このレンズがどんな描写をするのか興味を持ち、発売から約50年のほど経過した大口径レンズ開放F値1.2のレンズをマウントアダプターを使ってデジタルで撮影をしてみました。
ニコン NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2の魅力
「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」の魅力はなんといっても、大口径レンズでレンズの明るさがF1.2というところにつきます。
基本的なスペックは、
・焦点距離:55mm
・最短撮影距離:0.6m
・絞り開放:F1.2
・レンズ構成:5群7枚
・絞り羽根枚数:7枚
さすがに約50年程経過したレンズなので、中古市場で程度の良いものを見つけるのは難しくなってきています。状態のランクがB~Cランクのものが多く、外観のスレやキズ、レンズ内の小さなゴミ、ホコリの混入が見受けられるものが多くなっています。そのせいもあって中古価格相場は、30,000~40,000円程度になっているような感じです。憧れていた大口径F1.2のレンズが、お手頃の価格で入手できるのは魅力を感じます。
実際の写りはどうなのかと言うと、レンズの程度によるところも大きくなりますが、最新のレンズでは表現できない、オールドレンズならでは味わいのある写りを醸し出してくれます。
今回「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」を使用して撮影するにあたっては、カメラはソニーα7R IIIに、焦点工房のマウントアダプター「SHOTEN NF-SE」(ニコンFマウントレンズ → ソニーEマウント変換)を使っています。このマウントアダプターは実売価格で5,000円を切るお手頃な価格で入手できるマウントアダプターです。
実際に「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」を持ち出して撮影してみると、これがなかなか苦戦しました。絞りを絞れば、しっかりと解像したシャープな絵を表現してくれるのですが、絞りを開放F1.2にして撮影してみるとピント合わせが難しく、カメラの設定でピント合わせ時の拡大モードを最大値にしながらの撮影していたのですが、もう何処にピントが合っているのか分からないような画像を沢山撮っていました。このあたりはレンズ個体の程度によるところもあると思いますが、手持ち撮影でピントマニュアル、絞りF1.2の難しさを痛感しました。
絞りは少し絞れば、解像感も増し撮影も凄く楽になりましたが、ここはやっぱり大口径F1.2の味わいを楽しみたいので、何度もチャレンジしながら撮影を繰り返しました。オールドレンズの難しい設定での撮影でも、デジタルカメラを使えば確認と撮影を繰り返すことで、失敗のリスクを軽減できるメリットは非常に大きいですね。これがフイルムでの撮影となると急にハードルが上がってしまいます。
あえての不便さと昔の味わいを醸し出すオールドレンズを気楽に楽しめるのは、フルサイズミラーレスカメラとマウントアダプターのおかげです。
※オールドレンズを使って撮影する場合のカメラの設定やピント合わせなどのコツは、こちらの記事をご参照下さい。
■「マウントアダプターを使ってオールドレンズを楽しんでみませんか?」
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483200571-20210904/
レトロな空間「西武園ゆうえんち」をスナップ
以前からオールドレンズを使ってどうしても撮りたいところがあったので、今回「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」を持って行ってきました。場所は埼玉県所沢市にある「西武園ゆうえんち」の、1960年代の昭和レトロな「夕陽の丘の商店街」。
正に「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」が発売された時代に近い感じのシチュエーションです。そんな1960年代の昭和の街並みをこのレンズで撮影したら、とても面白いのではと思い撮影を楽しんできました。
「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」の絞り開放時では、オールドレンズの特有の滲みとボケが盛大に発生します。この滲みこそ現代のレンズには無い、オールドレンズを楽しむ大きな要素で、滲みが撮影した写真にノスタルジーを加えてくれます。
色の発色はとてもニュートラルな発色、しかしノスタルジーを感じる様な抜けてしまった感じでもなく、絶妙な味わいのある色調を感じます。赤色系の派手さが無く好感のもてる発色です。
少し絞ることによって滲みが無くなり、ピントのあった部分のシャープさとその前後のきれいなボケを演出してくれるレンズに変わります。さらにしっかり絞れば、四隅までシャープに解像し約50年も前のレンズと思えないほどしっかりとした表現をするようになります。
都内を散策スナップ
遊園地での撮影でだいぶ「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」に慣れてコツをつかんできたので、いつのも街中スナップに持ち出してみました。
オールドレンズをカメラに付けていると、どうしても下町を歩いてみたくなってしまいます。街中の風景を切り取って撮影する時には、絞りを絞って撮影することでピント合わせのストレスが少し減って気持ち的にも楽に撮影ができます。ここぞいう被写体を見つけた時には、思い切って絞り開放で撮影するメリハリを効かした撮影がおすすめです。
絞りを大きく変えて撮影する時に少し気にしておく点は、玉ボケの形に注意が必要かもしれません。絞りを開けて撮った時と、絞った時の形がはっきりと変わります。
■F1.2で撮影:きれいな丸ボケ
■F8で撮影:玉ボケの形が七角形
「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」は開放付近で撮影すれば奇麗な丸ボケを表現しますが、絞って撮影すると絞り羽根7枚の影響が出て、玉ボケの形がはっきりとした七角形の形になります。こういった違いをしっかりと認知したうえでボケの演出を楽しむのもいいかもしれません。
カラーでの撮影も非常にニュートラルな描写をしていたので、少し気になっていた白黒モードでの撮影に切替えてみました。ちなみに筆者の生まれたころの写真をアルバムで振り返ってみると、ちょうど白黒写真とカラー写真が半分半分くらいでありました。この「NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」もちょうどそんな時代を過ごしてきたレンズとあって、白黒モードで撮影した写真も非常にニュートラルな味わいのある描写をします。
まとめ
今回ピックアップした、「ニコン NIKKOR-S・C Auto 55mm F1.2」は大口径F1.2のレンズでありながら中古市場ではお手頃な価格で入手できるアイテムです。F1.2のボケとオールドレンズの滲みを楽しむことができると同時に、絞ればしっかりとシャープに解像する両方の描写を楽しむことができるレンズです。試行錯誤をしながら撮影を楽しむことができるオールドレンズの候補の一つにいかがでしょうか。きっと写真ライフが楽しくなりますよ。
最後に我が家の猫を撮影してみしたが、絞り開放F1.2で動く被写体は至難の技でした。ほとんどピントが合わず大苦戦です。しかし、ピントが合った写真のボケと滲みが猫の毛並みを柔らかく表現してくれるので、お気に入りの写真になりました。
■写真家:坂井田富三
写真小売業会で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。 撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ、ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
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※2024年11月14日:発売時期に誤りがありましたので訂正しました。またそれに合わせて本文を一部修正いたしました。