空撮とは?|飛行機と新幹線を空撮で狙う|吉永陽一
はじめに
私は空撮をメインに写真を撮っています。空撮と聞くと、「ドローン」を思い浮かべられるかと思います。ここで私が述べる空撮は、小型飛行機「セスナ」や、ヘリコプターに搭乗して撮影するという従来からの方法で、撮影時は窓を開け、ときにはドアを外して命綱を付けて撮ることもあります。鉄道を空撮し、「空鉄(そらてつ)」というタイトルで個展を開き、作品を発表しています。
空撮とは?事前準備や費用について
空撮は知っているようであまり知らない世界です。そこで実際に撮影したエピソードを紹介しましょう。舞台は新大阪駅。伊丹空港のすぐ南に位置する、東海道・山陽新幹線、在来線、地下鉄の交差する、大阪の代表的なターミナル駅です。せっかく空撮するので、交通のライバル関係である新幹線と旅客機を一緒に撮影することにしました。
■撮影環境:1/2500 f11 165mm ISO400
新大阪駅の真上を飛行しながら伊丹空港を目指すB777型機、駅には東海道・山陽新幹線のN700系、700系が停車しており、B777の影がくっきりとホーム屋根に写っています。
テーマの設定
空撮前には、地上の撮影と同じで「何を撮るのか」テーマを決めます。今回はライバル同士の新幹線と旅客機を一緒に撮るので、撮影地点は伊丹空港が近くにあって、同時に撮影できるチャンスの多い、新大阪駅にしました。
予約・費用
次に現場に近い航空会社と連絡を取り、大体の撮影目標を伝えて飛行機を予約します。飛行機は機体によって料金が異なり、私はリーズナブルな「セスナ172型」を使います。リーズナブルとはいえ、1時間の飛行料金はヨーロッパ行きの最安値チケットほどの金額になりますので、撮影コストはかなり高いですね。
事前準備
撮影前は資料作りや段取りを行います。操縦するパイロットと私と二人三脚で撮影するため、「どこの地点で、どの方向から、どのように撮る」と、細かい指示を地図やメモに記します。少しでも無駄なく撮るため、撮影地点を効率よく結んで、なおかつ被写体である新幹線と旅客機の時刻を調べ、自分が乗るセスナと被写体がぶつからない安全な高度をパイロットと相談し、撮影するときの高度を決めます。航空ではフィート・ノット・マイルを使用するため、高さや距離などの感覚は掴みにくいですね。
また一見して自由に飛んでいるように思える空の世界には、事故を防ぎ円滑な飛行をするための、様々な決まりごとがあります。
そのうちの一つに「航空交通管制圏」があり、空港や基地の周囲は安全確保のため、管制官の指示によって飛行せねばなりません。
事前に空港管制官に「何時何分、〇〇地点、高度XXフィートで撮影したい」と伝えますが、あとは当日の混雑具合や風の向きなどで、必ずしもこちらの要望通りとはいかないのが難しいところです。
航空管制などはかなり端折って紹介しましたが、国土交通省の概要とpdf資料の紹介URLを巻末に記しましたので、合わせてご覧ください。
撮影日の選定
さて諸々の準備が整ったら、天気図や予報をみて撮影日を決めます。当日が世間一般的に晴れていても、雲が多かったり霞んでいたりすると、空撮では厳しいので延期します。仮に走る日が決まっている臨時列車が被写体であったら、ある程度天候は犠牲にすることもありますが、雲影が被写体を覆って邪魔をしたり、モヤっとしてはっきりとしなかったり、そんな状況で飛べばせっかくの空撮も台無しです。
今回は上空7,000〜8,000フィート(約2,100〜2,400メートル)の間を飛行するため、天気予報が晴れを出していても雲が出ていたら延期となります。私は東京を拠点にしているので、大阪へ移動する前に担当パイロットと連絡を取り、大体の気象状況を把握。空撮は可能とのことで大阪入りします。撮影日は大型連休前半の4月30日。幸いにも雲がないベストな天気です。
私は大阪に5年間住んでいたことがあり、大型連休の辺りはそんなにスカッとした天気ではなかったと記憶していただけに、ホッと胸をなで下ろしました。作品を撮影するのがこの日になったのは、前日に京都鉄道博物館開業の空撮があったのと、カメラのテストを兼ねていたからです。
空撮当日はパイロットと二人三脚!
準備はOK、天候もOK。あとは飛んで撮るだけです。
八尾空港を離陸して、パイロットは上昇しながら伊丹空港の管制と無線でやり取りをします。大阪市内は中心部のほとんどが伊丹空港管制圏内に入るため、離着陸機があるときは指定された空域で待機となります。そこで着陸機が少ない時間を狙ってプランを組み、この撮影時はすんなりと新大阪駅上空への進入を許可してくれました。自機がいる高度は着陸機と高度差があって安全のため、ある程度の時間は滞空していても問題がないとのこと。じっくり空撮できます。
空撮できる環境は全て整いました。
着陸機が少ない時間とは言っても、眼下では数分おきに大小様々な旅客機が通過していきます。私は400mm/f2.8の超望遠単焦点レンズも使うため、最初は感覚を掴むため試し撮りをします。真下を撮るため、セスナは旋回しながら機体を傾けさせます。数回やってもらい、新幹線と旅客機の位置関係とタイミングを掴みました。
セスナ機の機内は大変狭く、超望遠レンズを構えるとご覧のとおり。揺れる機内では三脚を使っても意味がないので、どんなレンズでも手持ち撮影です。手ぶれ補正機能が助かります。
伊丹空港は2本の滑走路があり、右側を近距離の小型機が使用し、左側を大型機が使用します。よって新大阪駅上空では、東京寄りのホーム端辺りを小型機が飛行して、駅中心辺りは大型機が飛行するのです。大型機と新幹線の先頭部が合わさるのがカッコいいですが、ちょうどホームの屋根があるのでそれは難しそう。上空で観察しながらターゲットを小型機に絞り、タイミングを見ながらセスナを傾けさせて撮影します。
■撮影環境:1/4000 f10 400mm ISO400
新大阪駅の東端で、N700系とボンバルディアDHC8型機がクロス。新幹線の高架下ではフリーマーケットや、路線バスが停車していることなど、この1カットで様々な一瞬が垣間見えます。
南からANAのボンバルディアDHC8型機がやってきます。東京方面からは新幹線もやってきます。「このタイミングは交差するに違いない。」しかしDHC8型はターボプロップ機でプロペラがあり、高速シャッターだとプロペラが止まってしまいます。シャッター速度を落とせば真下の新幹線がブレてしまう。一瞬悩みましたが、プロペラ部は真上で撮れば止まっているか分かりづらいので、そのまま高速シャッターで挑みます。双方の被写体も自機のセスナも、100km/h以上の高速ですれ違います。そのすれ違う一瞬を狙い、シャッターを切ります。連写モードは使用しますが、全てが画角に収まるのは2枚だけでした。
撮れた!と喜ぶのもつかの間、気持ちを切り替えて大型機と停車中の新幹線を狙います。誌面や写真展など、様々な状況で使用することを考え、バリエーションを増やすのです。レンズを換え、縦位置、横位置、引き、寄り・・・。限りある滞空時間で旅客機がやってくる度に撮影します。まるで釣りみたいだなと、パイロットと笑いました。
■撮影環境:1/2500 f11 400mm ISO400
しばらく新大阪駅の上空に対空しながら様々なカットを狙います。700系の先頭とエンブラエルERJ-170型機の機首が重なったことで、風を切り裂いて高速で動く双方の先頭部構造が比較できます。
最後に
こうして目的の撮影は終了。せっかくの快晴だから、ストック用に大阪市内の鉄道を帰りがけの駄賃で空撮し、他にも使えるものを撮って帰投しました。撮影時間は2時間いかないくらい。その間、機内では「あっちだ、こっちだ」と忙しなく指示を出して撮影するから、着陸したらお腹がペコペコになります…
旅客機x鉄道シリーズはまたどこかで狙うと思います。次はどこにしようか・・・。
参考資料
▼国土交通省PDF資料
http://www.mlit.go.jp/common/000164767.pdf
▼国土交通省 日本の空の概要
https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000340.html